第107話 戦術の再構築
岩陰に全員が入った。
風が岩の稜線を越えて吹き下ろしてくる。標高のせいで気温が低い。セリスが手早く全員の状態を確認し、カイルの腕の打撲に布を当てた。
「痛みはありますか」
「動かせます。問題ありません」
カイルは即座に答えた。強がりではなく、本当に戦える状態だとユイは判断した。
エルザが手首を静かに回す。痺れが残っているが、刃を握れる。短剣を叩いた衝撃が、まだ骨の奥に響いているようだった。
「整理する」
ユイが全員に向かって言った。岩陰に集まった8人が視線を向ける。
「あの個体は外皮が厚い。通常の斬撃は通らない。ハンスのハンマーも同様だ。有効だったのはセイラの氷槍だけだ」
「関節部分ですわね」
リリアが静かに続ける。
「接合部に亀裂が入りました。氷が収縮することで隙間を広げる、という原理だと思いますわ。継続的に冷やし続ければ、亀裂はさらに深くなるはずですわ」
「消耗が大きい」
セイラが低く言う。氷槍を連続して放てる状態ではないという、率直な報告だった。
「1発ずつでいい。間を空けろ。その間、他が関節から意識を逸らす」
ユイが答える。
沈黙が少しあった。
「……足元に使える地形がある」
エルザが口を開いた。短い言葉だったが、全員の視線がそちらに集まる。
「この先、傾斜が急になる箇所がある。岩盤が斜めになっている。あそこにゴーレムを誘導すれば、自重でバランスが崩れる可能性がある」
「転倒させる、ということか」
ユイが確認する。
「……そうだ」
「傾斜地まで誘導する間、誰かが引きつける必要がある」
「それは俺が」
カイルが即座に言った。
「前衛がゴーレムの注意を引く。後ろに誘導しながら下がる。ハンスと俺で交互に引きつければ、少しずつ動かせるはずです」
「……受け止めるより、流す」
ハンスが静かに言った。低い声が岩に吸い込まれる。
「そうだ。押し合いはするな。ゴーレムの重さを利用して、方向だけ変えろ」
ハンスが短く頷く。
「……わかった」
「転倒したところで核を狙う」
リリアが地図の端に簡単な図を描きながら続けた。
「ゴーレムの核は胸部中央にあると資料に書かれていましたわ。転倒すれば高さの問題がなくなる。そこをユイが風刃斬で狙う。私が光魔法で核の位置を照らし出しますわ」
「俺とアイリス、エルザで核へのルートを作る。外側から削って通路を開ける」
ユイが補足する。
「了解だよ」
アイリスが短く言った。普段の軽口がない。真剣な顔をしていた。
「エルザ」
「……わかった」
全員の役割が決まった。
ユイは作戦を頭の中で1度回した。前世でも似たような戦法を使ったことがある。ただ、あの時は1人だった。今は8人いる。8人がいれば、1人ではできなかった段取りができる。それが今の強みだ。
「1つ確認する」
ユイが全員を見た。
「転倒させるまでの間、誰かが関節に当たり続ける必要がある。セイラ、間隔を空けながらでも対応できるか」
セイラは少し間を置いた。
「……問題ない」
「無理をするな」
「……無理ではない」
短い答えだったが、確信があった。
リリアがセイラの方を見て、静かに頷く。暴走のリスクは常に頭に置いている。ただ今は大丈夫だと判断した。
「やってみます」
カイルの表情に先ほどの萎縮はない。
「あとは実際にやって、ずれたら修正する」
ユイが立ち上がる。
「急がない。確実にやる」
全員が頷いた。
作戦会議の最後、アイリスが立ち上がりながら周囲を確認していた。索敵の癖が抜けない。それがアイリスの強みだ。
「……何か変なものがある」
唐突に、アイリスが言った。
軽い調子ではなかった。会話の流れを止める一言だった。
全員の動きが止まる。
「岩の間に」
アイリスは目線を落とし、岩陰の奥を指した。
「人が使うようなものが落ちてる」
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
少しでも「面白い」「続きが気になる」と感じていただけましたら、
ブックマーク・評価・感想などで応援していただけると、とても励みになります。




