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エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第14章 山と、消えた痕跡

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105/120

第105話 山への道

出発は夜明け前だった。


クラウンの拠点を出ると、王都ティリアスの石畳はまだ人気がなく、足音だけが建物の間に響いた。北門をくぐり、街道へ出ると視界が一気に開ける。空の端がわずかに白みを帯び始めていた。


「山岳は専門外ですが、やります!」


カイルが力強く宣言する。銀の鎧が早朝の薄光を受けて鈍く光った。


「言い方が毎回同じだよ」


アイリスが小さく笑いながら隣を歩く。視線はすでに木立や草の揺れを拾っていた。


「岩場でも深森でも言ってたよね、それ。そろそろ一度も失敗なしで帰ってきてから言ってほしいな」


「今回こそ完璧にやります!」


「……その自信がどこから来るのか、毎回不思議ですわ」


リリアが静かに割り込み、地図と現在地を照合する。


街道はしばらく平坦な道が続くが、やがて山道へ入る。ユイは列の後方を歩きながら、その先の地形を頭の中で組み立てていた。


セルドラ山岳帯中腹区画。ストーンゴーレムの推奨レベルは25。今の全員なら対処できる範囲のはずだ。


前世でも同じ場所へ向かった。だが、ここ数週間感じてきた前世の記憶との微妙なズレが、また小さく胸に引っかかる。


語らない。ただ、頭の奥に置いておく。


ゴードンから装備強化の話を受ける前、ギルドで素材情報を得た際に受付嬢のマリアが添えた一言が、ふいに甦る。


「最近、山岳エリアに入った冒険者からの報告が途切れているものがあります。理由は確認中ですが、念のため」


依頼失踪扱いとは違う。途切れている、という表現だった。


ユイはその時も何も言わなかった。言う根拠がない。ただ、刻んだ。


街道を外れ、山道へ入ったのは午前の半ばを過ぎた頃だった。


足元が変わる。砂利と土に岩の破片が混じり、傾斜がつく。歩幅が自然と小さくなる。


「ここ、歩きにくい」


アイリスが率直に言う。


「足元を選べ。岩が脆い場所がある」


エルザが短く返す。黒の装束の裾が岩を避けるように流れた。重心の置き方が違う。地形を読み、踏む場所を迷わない。


前世の記憶の中でも、エルザが山に慣れている様子はなかった。


「エルザ、山、来たことあるの?」


「……少し」


それ以上は語らない。視線は足元へ戻る。


ハンスが狭い箇所を通るたび、岩肌に肩が触れた。窮屈な道幅でも文句はない。淡々と一歩ずつ進む。


セイラの吐息が白い。標高が上がるにつれ、空気の冷たさが増していた。彼女は無言でそれを受け入れる。


「次の休憩はどの辺ですか」


後方からセリスの声が届く。


「あの岩の出っ張りを越えたら止まる」


「わかりました!」


リリアが地図と周囲を照合しながら言う。


「予定より少し時間がかかっていますわ。この傾斜を甘く見ていましたわね」


誰を責めるでもなく、淡々と事実を処理する。


ユイは山の空気を読む。


岩場や深森とは違う。風の抜け方が違い、視界が開ける分、死角になる岩陰も多い。ゴーレムは岩そのものに擬態する。近づいて初めて気づくことがある。


前世でもそうだった。そこは変わらないはずだ。


休憩地点に指定した岩の出っ張りで足を止め、水を回す。


「思ったより登りがきついですね」


カイルが言う。


「……そうだ」


ハンスが短く頷く。わずかに息が上がっている。


アイリスが岩の上に立ち、周囲を見渡す。しばらくして無言で降りてきた。


「なんかある?」


ユイが問う。


「気配は今のところなし。でも……」


アイリスが稜線の向こうを見る。


「……あっちの方、さっきから変な感じがする。気のせいかも」


軽い調子だが、目は真剣だった。


ユイも同じ方向を見上げる。岩と空の境界線。稜線の向こうで、岩のような影がゆっくり動いた気がした。


風かもしれない。落石かもしれない。


だが、前世の記憶ではその位置に個体はいなかった。


「行くぞ」


ユイは立ち上がる。


山道の続きへ視線を向け、歩き出した。

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