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エターナル・リアルム 〜20年後の知識でやり直したら、世界が想定外に歪み始めた〜  作者: たくわん。
第13章 土と牙の試練

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第100話 深森の入口

岩場を後にすると、空はすでに傾いていた。


西へ移った日差しが草地を赤く染め、全員の影が長く伸びている。戦闘の余韻が身体の奥に残ったまま、誰も足を止めない。乾いた岩場の空気は次第に薄れ、代わりに湿り気を帯びた匂いが混じり始めた。


30分ほど歩いたところで、景色が変わる。


木々の密度が急に増し、空が狭まった。


深森の境界だ。


前から吹いていた風が、そこで途切れた。枝葉が天を覆い、森の内側は空気が沈んでいる。湿った土と腐葉の匂い。微かに混じる獣の臭い。


「深森だね」


アイリスが入口手前で立ち止まり、周囲を確認する。視線が自然に左右へ流れる。


ユイは一歩前に出た。


「入る前に隊列を確認する。カイルとハンスが前。エルザとアイリスが中衛。後衛はリリア、セリス、セイラ。私は最後尾で全体を見る」


「了解です!」


カイルが前へ出る。ハンスが隣に並ぶ。巨体が木の幹と並び、道幅がさらに狭く感じられた。


全員が位置につく。


ユイは最後尾から一人ずつ視線を走らせた。歩幅、呼吸、視線の動き。岩場での消耗は小さくないが、崩れてはいない。連携のずれは整理済みだ。


森は岩場と違う。


視界が狭く、気配が読みにくい。群れで動く相手には、不利な地形だ。


「ダイアウルフは複数同時の想定で動く。1体に集中しすぎないこと。側面を取られないように」


「……複数、か」


エルザが小さく復唱する。


「アイリスとエルザは外側の警戒を優先してほしい」


「了解だよ」


「……承知した」


全員が頷く。


そのとき、セイラが森の暗がりへ顔を向けた。


わずかに眉間が動く。


「……臭いが、違う」


低い声だった。


ユイは視線だけを向ける。


「違う?」


「……分からない。ただ、違う」


それ以上は言わない。セイラは前を向く。


ユイも追及しなかった。


代わりに、森の奥を静かに見据える。葉の揺れ、枝の擦れ、地面に落ちた影の重なり。動きはない。だが、空気が張りつめている。


「入る」


短く告げる。


カイルが踏み込み、ハンスが続く。隊列は崩れないまま、深森へ足を踏み入れた。


木々が頭上で絡み合い、光が細くなる。


地面は柔らかい。足音が吸われる。岩ではなく根と泥が広がり、踏み込むたびにわずかに沈む。


「足元、根が多い。気をつけて」


「はい!」


セリスが足元を見ながら進む。


50歩、100歩。


後方の光が遠ざかり、森の内側の暗さが濃くなる。視界は狭まり、音も吸い込まれていく。


アイリスが歩幅を落とす。


「静かだね」


その声は、森に飲み込まれるように小さい。


「深森は、このようなものではありませんの?」


リリアが囁く。


「……それにしては、静かすぎる気がする」


確かに。


風がない。虫の羽音もない。枝を渡る小動物の気配もない。


静けさが、重い。


その直後。


森の奥から音が届いた。


低く、長く、複数の声が重なる唸り。


遠い。


だが、確実にこちらを捉えている。


「……います」


エルザが言う。


ユイは歩みを止めず、耳だけで方向を測る。


正面やや右。距離はまだある。


包囲される距離ではない。


「止まらない。ゆっくり前へ。隊形は維持」


声は低く、静かだ。


全員の足が、同じ速度で前へ進む。


森の奥で、唸り声がもう一度、重なった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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