表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/34

ep.31 仕事と呼び名

あれから数週間の月日が経った。

ルクシアは無事にみんなと仲直りして、軽口を叩きあえるような関係へと昇華していた。

アスペルも重荷が降りたかのように順調に回復し、すっかりと元気になっているようだ。


俺は、ルクシアだけではなくリベリアとアスペルにも秘密を打ち明けた。

前世の記憶があること。

前世では惰性で死んだこと。

そして、その罪で死ねない体として転生したこと。


勝手にルクシアの秘密を聞いてしまった。

自分の傷から目を逸らして、他人の傷にばかり目をやっていた自分への戒めのつもりだった。

けれど、彼女らは黙って俺の話を聞いて、最後に一言。


「だから?カエルムはカエルムじゃん」


と言ってくれた。

そして、ミリアとルクシアは、まるでこうなることがわかっていたかのように笑っていた。

その笑顔が凍りついた心をゆっくりと溶かし出すように感じたのだった。




雪解け水がまだ冷たく、しかし春の暖かさを感じ始めた頃。

冬に尽きた備蓄を補填するために、ライアスの店は客足が止まらなくなっていた。

必然的に俺も駆り出されることとなり、連日昼は接客、夜は会計処理と慌ただしく過ごしている。


そんなある日の夜。

執務室で作業に追われる俺にライアスはこんなことを言い出した。


「そういや坊主。

あの子らの仕事は決まったのか?」


「…え?仕事ですか?」


「ハァ…。今の反応で大体わかった。

いいか?坊主の感覚は知らねぇが、この国じゃ10歳で成人だって言っただろ?

あいつらはもう子どもじゃねぇんだ。

お前がどう思おうが勝手だが、15も過ぎれば雇い主が無くなるぞ」


前世の記憶では、最年長のルクシアですら11歳の小学生である。

そんなこと考えもしなかったが、言われてみれば確かにその通りなのかもしれない。

事実、7歳の俺でさえ毎日とは行かないまでも週に2回はライアスの店で手伝いをしている。

…色々とまずいかもしれない。


「…うぅ。

考えておきます…」


「そこでだ!

特別に春先の間だけ俺の店で使ってやる!

優秀なようなら、そのまま雇用してやってもいい!」


「……それ単純に今の時期に人が足りてないだけでは?」


「バカかおめぇ。

かわいい弟子のために口聞いてやってんだよ。

別に一時的な人員補充なら、奴隷でも日雇いでもどうにかなる。

お前はガキの働き口を探さなきゃならねぇ。

俺は長期的に利用出来る人材が欲しい。

つまり、利害の一致ってやつだ。

つか、そもそも孤児院を建てた時にそういう話してたじゃねぇか」


確かにそんな話をしたような気もする。

正直、あの時はほとんど勢い任せで話していたため、あまりよく覚えていないが…。


「なら、裏方を1人、品出しを1人、接客を1人でどうですか?」


「恐らく裏方にリベリア、品出しにアスペル。

接客をルクシアって考えてるんだろうが、やめておいた方がいいぞ」


「あ、いえ、裏方にルクシア、品出しにアスペル。

接客はリベリアに任せたいなと」


「……なるほどな。

どうやらルクシアの出自に気がついたようだな?」


「!?」


心臓がビクリと跳ねた。

なぜライアスがそのことを知っているのだ。

そんな考えが頭の中で巡り続ける。

困惑する俺を置いて、ライアスは話し始めた。


「…エルフに限った話じゃねぇが、人種が違えば顔つきにも癖が出る。

長い髪でほとんど口元しか見えねぇが、ルクシアの顔はハーフエルフだろうな。

あそこまで隠れてりゃほとんどの人間は気が付かないだろうが、あいにく俺はエルフもハーフエルフも見慣れてるんだ」


「…エルフにご友人がいらっしゃるんですか?」


「友人なんてもんじゃねぇ。

エルフやハーフエルフは、人間ほどじゃねぇが奴隷として売られることがあんだよ」


あぁ、そうか。

そういえばライアスは奴隷も扱っていると聞いたことがあった。

しかし、この店舗では奴隷を見たことがない。

それどころか、奴隷を置いておく設備すら存在しないのだ。

不思議に思って周囲を見渡していると、ライアスは待ちきれないとばかりに口を開いた。


「それで、どうすんだ?」


「え?…あ、えっと…とりあえず、持ち帰ってみんなに聞いてみます」


「別に急いじゃいねぇが、気が変わらねぇうちに返事を寄越せよ」


ライアスは手をヒラヒラとさせると、すぐに執務へと戻ってしまった。

俺も早く終わらせて孤児院に戻らないと…。

そう決心したのもつかの間、目の前に積み上がる書類の山を見て、大きくため息を吐いた。




俺がルクシア達に話をするのは、結局翌朝になってしまった。

俺がライアスの店に行く前に、話をつけなければならない。

幸い朝食の席にはミリアを含めて全員が揃っていたので俺は昨日の出来事を話始めた。


「というわけで、ライアスさんに良い話を貰ったわけだけど、みんなとしてはどうだろう?」


「俺はいいぜ〜

そもそもここに居る間も家事は大体ルクシアがやってっから暇だしな!」


「私が自主的にやってるみたいな言い方しないで!

あなたたちがサボってるだけでしょう!?」


「…サボってるは心外。

英気を蓄えてる」


「それをサボっていると言うのよ!!!」


ルクシアのこういう口調にも、もう驚かなくなった。

むしろこっちの方が彼女らしいと思う。

今では驚きよりも微笑ましさが勝ってしまうのだ。


「……なににやにやしてるんですか」


「え?あぁ、ごめんね。

良かったなって思って」


「もう!…私は、構いませんよ。

ライアス様も私の事はご存知のようですし。

まぁ、お父様がこっそりライアス様に告げ口でもしたのかもしれませんけど」


「そんなことしないって!!!

…というか、ここ数日ずっと気になってたんだけど、お父様ってなに?」


ルクシアは良くぞ聞いてくれました。とばかりに胸を張り、俺やリベリア、アスペル、ミリアに対して告げた。


「孤児院の院長で、私たちの家族。

ということは、私たちの父親ということです!

なので、私はお父様と呼びます!」


「いや、そもそも年下なんだけど…」


「それこそ今更じゃないですか。

それに前世も含めたら20歳を超えているんでしょう?

お父様が私たちを子どもたちと呼ぶなら、私たちにだって父と慕う権利があります!」


意味不明な暴論だったのだが、この意見に最初に賛同したのは意外にもリベリアだった。


「いいじゃねぇか!

俺もこれからとーちゃんって呼んでやるよ!」


「お前には父親がいるだろう!?」


「とうちゃんはとうちゃんだし、とーちゃんはとーちゃんだから大丈夫だ!!!」


「…ごめん。何が違うのかさっぱりわからない…」


「…たぶん、絶妙なイントネーションの違いだよ。父さん」


「アスペルまで!?!?!?」


俺は反射的にミリアの顔を覗き見る。

ミリアは少しだけ思案した様子を見せると、にこやかに笑いながらこう言った。


「私はカエルムくんって呼ぶね!

カエルムくんはカエルムくんだから!」


「ミリアァ…」


「ほらほら、しゃんとしないとライアスさんに笑われちゃうよ!

お仕事いくんでしょ?」


「はっ…!!!」


そうだった。

出来ればこのままミリアを抱きしめたかったのだが、今日は繁忙期の店の事情としても、孤児たちの仕事の件についても話をしなければならない。

食事をそそくさと口に詰め込むと、大急ぎで身支度をしに立ち上がる。


「ごめん!そろそろ行かなきゃ!

話してくるからね!」


「いってらっしゃーい」


ミリアとルクシアは手を振り、リベリアが何やらにやにやしながらアスペルをつついている。

そんな様子を尻目に、俺は急いで孤児院を出た。


「……俺、店員の件返事してないんだけど…」


そんなアスペルのつぶやきはカエルムの耳には入らなかったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ