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ep.25 夢想と悪寒

俺は、リベリアの自室へと向かった。

階段を上る度にズンとのしかかる重みは、期待なのか。それとも不安なのかわからない。

跳ねる心臓を左手で抑え、木刀を握る右手に力を込めた。

大丈夫。そう信じて登り続けた。


リベリアの部屋の前。

震える手を抑えて、大きく息を吸ったところで扉の向こうから声が投げかけられた。


「誰かいるのか?」


「あ、あぁ、リベリア?入ってもいい?」


「おう。いいぞ〜」


少し軋んだ音を立てながらドアを開けると、リベリアはベットの上でくつろいでいた。


「んだよ急に改まったような反応して。

昨日は人の気持ちも知らずにずけずけと来たくせに」


「あ、いや、その〜、昨日の話を聞いて、リベリアもしかして喜んでくれるかなって…

…プレゼント?用意したんだけど…」


リベリアは一瞬、顔を綻ばせた。

だがすぐに、睨みつけるように顔を引き締めた。


「そういうのは要らねぇよ。

気持ちは嬉しいが俺はお前と馴れ合うためにここに居るんじゃないんだ」


「そ、そっか…

でも、もったいないからここに置いておくね。

本当に要らなかったら俺の見てないところで捨ててくれればいいから…」


俺は木刀を、そっとベットに立て掛けた。

右手の重みは消えたはずなのに、胸の奥が沈んだままだった。


リベリアに背を向け扉を開けようとしたその時、リベリアが大きく声を上げた。


「だぁー!もう!

おらなんだ寄越せ!

貰えるもんは貰う主義だ!!!

だから湿気た顔してんじゃねぇよ!!!」


「ご、ごめん。

ほら、プレゼント…喜んでくれると思って選んだんだよ」


俺がリベリアに木刀を手渡すと、リベリアは顔を顰めた。


「あんだこれ?木の…棒?」


「えっと、これは木刀って言うんだよ。

リベリア、剣の練習してただろ?

実物に近い物の方が良い練習になるかと思ってライアスさんにお願いしてみたんだ」


「やっぱお前俺のことをバカにしてんだろ!?

俺は剣の練習なんて…」


「リベリア」


俺はリベリアの声に被せるように言葉を吐いた。

これだけは、ちゃんと伝えたかったから。


「リベリア。あのね。

もし本当に夢があるならさ。

…誰になんと言われても、諦めなくていいと思うんだ。

やらなかったらたぶん…何のために生きているのか、わからなくなると思うから」


心の底から出た言葉だった。

生きる意味が分からなくなった時、自分がどうなったのかを俺は知っている。

だからこそ、リベリアにはそうなって欲しくなかった。


「……そんなこと言われたってさ。

無理なんだよ。女だから。

口調を変えたって、態度を変えたって、俺は女だから!

剣なんて持つ権利はないんだよ!」


「……それは、"騎士"の話だよ

リベリアの夢は……"かっこいい剣士"なんでしょ?

なら…リベリアなりの、かっこいい剣士になればいいんじゃないかな?」


「…かっこいい…剣士…?」


「そうそう。

リベリアのお父さんみたいに、強くてかっこいい剣士。

騎士なんかに…負けないくらい、さ」


リベリアは少しの間木刀を眺めると、ほんの少し笑った。


「俺、ちょっとお前の事見直したよ。

お前ならきっと…」


そこまで言いかけて、リベリアは口を噤んだ。


「お、俺…これで練習してみるわ!」


「うん、喜んでもらえたみたいで良かった。

そしたらまずは、この木刀の素振り100回。

最初は難しいと思うけど、慣れるまでは腕が上がらなくなるまでやってみよう!」


「は?」


ライアス流教育術。

徹底的な基礎訓練である。


次の日から、俺とリベリアの訓練は始まった。

素振り以外にも孤児院の周りを走ったり、前世で聞いたことがあるような筋肉トレーニングなんかも行った。

俺には剣の心得何てものはなかったので本当に基礎訓練だけだったのだが、リベリアは徐々にできることが増えていく感覚が楽しかったのか文句も言わずに訓練をしてくれていた。


――だから、だろうか。

孤児たちの中で、リベリアが少し浮き始めていたことを俺は気づけなかった。




「…最近さ。

リベリアとカエルムって仲良いよね」


夕食時。

珍しく口を開いたのはアスペルだった。


「そ、そんなことねぇよ!?

確かにこいつは良い奴だけど、別にそんなに仲が良い訳じゃ…」


「なんだ?リベリア照れてるのか〜?」


「そんなんじゃねぇよ!カエルムはちょっと黙ってろ!」


アスペルは俺とリベリアがじゃれ合っているのをじっと見ていた。

まるで何かを見透かすように。


「なんだ?アスペルも混ざっていいんだぞ?」


「……別に」


「まぁまぁ、ご飯が冷めちゃいますから早く食べましょ?ね、ミリアちゃん?」


「うん!ルクシアちゃんのご飯美味しいよ!!!」


ほんの少しだけ重くなった空気は、可愛らしい声とともに四散した。

ミリアとルクシアは華々しい女子トークを始め、アスペルはただ黙々と食事を口に運ぶ。

いつもと同じ日常。のはずなのに、何故かほんの少しだけ引っかかるものがあった。


「なんだ?食わねぇのか?」


「あ、いや、ごめん食べるよ」


この家で1番料理が上手いのはルクシアだった。

そのため今では食事は全てルクシアにお願いしている。

調味料やスパイスといった類のものは全くと言っていいほど手に入らないにも関わらずよくもまぁここまでの料理が作れるものだ。

しかし、暖かな食事を口に運んでも、さっき芽生えた違和感だけは、舌の上に薄く残ったままだった。




さらに数週間という月日が経過した。

俺とリベリアはいつものように庭で訓練に励んでいた。

リベリアは訓練にも慣れてきて、少し手持ち無沙汰にしているくらいだ。

今度父上に頼んで剣の先生でも紹介してもらおうか。

そんなふうに考えていると、ミリアがこちらへと駆け寄ってくる。


「どうした?何かあったのか?」


「はぁ…はぁ…アスペルくんが…」


俺はその言葉を聞いた瞬間、強烈な既視感に襲われた。

胸の中がざらりとする感覚。

あの時と、

――アマリアさんの時と同じ。


「ミリア!アスペルは無事なのか!?」


「わかん…ない…けど、すごい熱…」


俺はアスペルの自室へと駆け出した。

あの時と比べて成長した足は、比べ物にならないほど速度をあげていく。

それでも、

――まだ心に追いつくことは出来なかった。




「アスペル!!!」


叩くように扉を開け、転がるようにアスペルの部屋へと駆け込んだ。

そんな俺の眼前に映ったのは、顔を真っ赤にして息を荒らげるアスペルと心配そうに介抱するルクシアだった。

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