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変わり始めた日々


 何の変わり映えもなく、穏やかに過ぎてゆく日々。

ただ私の住まいが公爵邸からスティール殿下曰く、彼の母方の親族の持ち物である邸に移ったことぐらい。私の身の安全のために、といずれは居を移してもらう予定だったのを早めただけらしいけれど。


「不便なことがあれば、いつでも邸の者にいつでも何でも言ってほしい」

「ありがとうございます」


 ここに居を移しても殿下と会う頻度はそう変わらなかった。むしろ忙しさが増したのかこの邸に帰ってくることすらどんどん稀になっていった。

 私だけは茶会に夜会にと、主だったパーティーへの出席も気が乗らなければしなくていい。と殿下から話があり、人と接することが苦手なのでお言葉に甘えて控えさせていただいている。特にほしいものもないため人の出入りを極力控えている中、わざわざ商人を呼び寄せる必要もない。

 ただ穏やかな、何者にも邪魔されない静かな時間を過ごしていた。


 そんな中唯一違っていた、穏やかな日々に似つかわしくない不穏な情報。


「内乱……」


(殿下が何も言ってこられない、ということは私からわざわざ尋ねるほどのことではないのでしょうし)


 もしもここも危ないほどの脅威が迫ってきているのであれば、殿下のことだからきっと手遅れになるずっと前に対策をとって知らせてくれるはず。

 それまでは私にできることといえばこの邸で静かに過ごし、少しでも勉強を進めていくこと。

 そんなある日、何日ぶりだろう殿下が顔を見せにいらした。


「――殿下?」

「ああ、久しぶりだねルーリス嬢」


 こちらに見せたお顔はお世辞にも良いとはいえず、笑顔を浮かべてはいるものの疲労感がわかるほど顔色が悪かった。


「お体の方は大丈夫ですか? お忙しいようですが……休息はとれていますか?」

「ああ、私のほうは大丈夫。ルーリス嬢の方こそ、何か不便などはないか? 邸の者からはとくに変わりもなく、何も要望などないとのことだったが」

「ええ、不便なことなどなにもありません」


 私の気持ちを優先して配慮していただいているこの環境において、不便なことがあろうはずもない。


「それならよかった」


 その日はそのまま夕食をともにし、気を使ってくださって就寝までの僅かな時間も話す時間をとってくださった。

 朝は朝食をとって早々に邸を離れられたが、十分に体を休められたのか気になってしまう……。







 人の出入りは制限されているとはいえ、どうしたって噂は口から口へと伝わり自然と広がり耳に入ってくる。


「――皇太子派と王弟殿下派の諍いがとうとう表面化してきているそうよ」

「――国王陛下が病に伏しているというのも、本当かどうか……」

「――時期王位継承は皇太子様が指名されているそうですし、そもそも第一位王位継承権をお持ちでしょう?」

「――能力的には王弟殿下が勝っている分、皇太子様も気が気ではないんでしょうね」

「――王弟殿下は王位継承権を放棄されているのに」

「――だからこそ戦でも起こして無理やりでも王位につかせる算段なんじゃない? 王弟殿下派は」

「――王弟殿下にしたらいい迷惑よね。こうなることを回避するために、早々に継承権を放棄されたのに」

「――元々継承権だって、第三位で皇太子様と第二王子殿下の方が優位だったのに」



 パミール国現国王の御父上(前国王陛下)は正妃との間に現国王陛下を授かったあと、十二年間の間第二子をもうけられることなく正妃様が病に倒れ二年後儚くなられた。喪に服しもう再婚はしないだろうと周囲が思い始めたおよそ六年後再婚され、その一年後すでにご結婚されていた現国王とその正妻が出産したわずか半年後にスティール殿下がお生まれになった。


(――スティール殿下と国王陛下は親子ほど年が離れているものの、実のご兄弟…異母兄弟で。皇太子様と殿下は半年ほどしか生まれが違わない)


 それは確かに争いの火種と十二分になりうる要因だろう。

 国王陛下もご自身に兄弟がいらっしゃらないからこそ、亡き御母上が周囲から次子をせっつかれたり、御父上である前国王陛下がお亡くなりになられた御母上の後釜にと再婚を再三進言されていたりしていたのを知っているからこそ三人も御子をもうけられる努力をされたのでしょう。


(もちろん王家の歴史などを知ったうえでの憶測でしかないけれど……)


 まさか、親子ほど年の離れた弟ができるなど考えもしなかったでしょう。六年も再婚されなかった現状で、それを予測しろというのも無理な話。むしろ時期後継者問題を早々に解消するためにも結婚し、子をもうけることができたのは周囲にとっても本来ならば喜ばしいことになるはずだった。

 再婚した実父と次妃との間にまさか子ができるとは……。


(誰にとっても複雑な心境と現実ができてしまった。誰が悪いとかでもなく、タイミングが悪かった……)


 だからこそ殿下は王位を望む意思はないと証明するために、成人されてすぐに継承権を放棄されたのでしょう。

 なのに今更になって、放棄したにも関わらず王位争いが水面下ではあったがあわよくば自身の権威を強めるためにと算段する一部貴族が勝手に持ち上げ始め今に至る。


「どうして、人は強欲になればどこまででも欲に溺れられるのでしょう……」


 望んでもいないのに。

 私利私欲の渦の渦中に勝手に引き込み

 義務と責任を果たしてもなお、己の意思で歩むことを選べない


 支払うばかりで対価を得られない


 何を希望に、生きればいいのか




お待たせいたしました。先週投稿できたら、と思っていましたが結局この日になりました。

来月中旬~下旬ごろに引っ越し予定のため、来月と再来月は更新が滞ってしまうかもしれません。


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