表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イルグラード(VR)  作者: だる8
第三章 上位職を求めて
87/349

第87話 岩魔鷲

 オレの貫通弾矢(ニードルボルト)一撃で群れの一角を崩された鳥魔物は、一斉に距離をとって散けた。一斉に攻撃を食らわない作戦のようだ。


「ち。無駄に賢いな。エルナが居たら魔物の鑑定をしてもらうとこだが……採石場の鳥だからストーンバードとかロックバードとかそういう名前かねぇ」


 舌打ちをしたオレだが、先ほど倒した鳥(とりあえずロックバードと呼ぶことにした)のドロップアイテムとして、『鳥の羽』が落ちていることに気づいた。しかも、六羽倒したから六つとかそういった数ではない。一羽からいくつドロップしているのか分からないが、少なくとも倒した数以上に落ちていることは間違いない。

 以前、鳥の羽を得るためにアカシアの街近郊で鳥狩りをしたが、比較にならないドロップ率である。


 このドロップ率ならいけるかもしれない。


 オレは岩鳥(ロックバード)を倒した後に残っていた鳥の羽をかき集めると、入手したばかりのブロンズインゴットを使って標準弾矢(スタンダードボルト)の調合を開始した。完全に時間との戦いである。この間にも散開した岩鳥(ロックバード)が、オレ達目掛けて急降下を開始してきている。


「ガドル!サポートしてくれ!」


 (ガドル)は、何をしようとしているかを確認せずにオレと岩鳥(ロックバード)の間に入って、盾を構えて迎撃体勢をとった。するとそれだけで岩鳥(ロックバード)に動揺が走る。

 恐らく、これが賢いが故の弱点だ。先ほどの大打撃のイメージが岩鳥(ロックバード)の脳裏にこびりついているに違いない。


 (ガドル)に作って貰った時間を有効利用して、とりあえず10本の標準弾矢(スタンダードボルト)を調合し終えると、すぐにクロスボウにセットした。そして航○自○隊ブ○ー○ンパ○スのアクロバット飛行のごとく上空で飛び回っている岩鳥(ロックバード)の一羽に狙いを定める。


 ……流石に遠い。オレはすぐにクロスボウを下ろした。


 オレの射撃はスキルの力で確率操作した武器(もの)ではあるが、遠すぎるとオレが(・・・)狙いを定められない。弾矢自体にポテンシャルがあっても、狙えないのでは意味が無い。であれば、オレ達目掛けて襲いかかってくる瞬間こそがチャンスだ。

 壁を背に陣形を組んでいるオレと(ガドル)に、後方から攻められる隙はない。だが、上と左右は別だ。

 

 (ガドル)の盾を警戒した岩鳥(ロックバード)は、オレの背後を除く上空全方位に展開して一斉攻撃を仕掛けてきた。

 何故か先ほどより岩鳥(ロックバード)の数が増えている気がするが、よくあることなのでこの際気にしない。

 勝てるならただの獲物だ。獲物が増えるのは喜ばしいことである。……勝てるのなら。


 正直、今のところ微妙だ。

 『負け』が濃厚であった最初と比較すると、勝利する可能性は確実に上昇した。だが、まだ五分だとオレは考えている。岩鳥(ロックバード)に対して標準弾矢(スタンダードボルト)がどの程度効果があるかがわからないからだ。


 威力次第では実績のある貫通弾矢(ニードルボルト)に頼らざるを得ない。が、残念なことに貫通弾矢(ニードルボルト)の在庫はあと五本あるかどうかである。

 正直、敵の数と比較すると全く足りていない。


 調合レシピがなく、今のところ(キラービー)のレアドロップアイテムである貫通弾矢(ニードルボルト)にしか頼れないという時点で敗色濃厚になってしまう。何とか標準弾矢(スタンダードボルト)で乗り切りたいところだ。


 そういう意味では数に物を言わせた岩鳥(ロックバード)の戦法は、今のオレ達に対しての最適解である。恐るべし魔物AI。


「ガドル!前方、上空を中心に左寄りの敵を任せた!オレは右のをやる!」

「了解だ!」


 (ガドル)は、大盾スクトゥムの向きを変えずに左手で構え直すと、腰に差したハンマーを取り出した。確かあのアイアンハンマーには攻撃力がほとんどない。その代わり、敵の制圧……無効化のために有効な特殊効果がついていた筈だ。


 ちゃんと(ガドル)に考えがあるならこれ以上の干渉は不要だ。オレはオレのすべきことをすればいい。

 オレは右前方方面から迫る岩鳥(ロックバード)の一羽に狙いをつけて標準弾矢(スタンダードボルト)を放った。


『クァ!』


 クロスボウから放たれた作りたての標準弾矢(スタンダードボルト)は、岩鳥(ロックバード)の頭部に正確に着弾して吹き飛ばした。着弾した瞬間、岩鳥(ロックバード)から小さな悲鳴が上がったが、頭部を失った岩鳥(ロックバード)はそのまま地面に落ちた。


 イケ(・・)る!

 標準弾矢(スタンダードボルト)の威力に確かな手応えを感じたオレは、次々に標準弾矢(スタンダードボルト)をクロスボウにセットして放っていく。

 一発だけ頭部を外してしまったが、それ以外の射程距離に入った右翼側の岩鳥(ロックバード)は全て標準弾矢(スタンダードボルト)で仕留めた。良い感じだ。


 手元の標準弾矢(スタンダードボルト)10発を撃ち切ったところで『ブーストLV2』を使う。ドーピングで身体能力を上げて何をするかと言えば、当然(・・)のように素材回収である。

 撃ち落とした岩鳥(ロックバード)が大量にドロップした『鳥の羽』を元手に、(ガドル)に守られながら標準弾矢(スタンダードボルト)を調合すると、クロスボウにセットして岩鳥(ロックバード)を仕留めていく。


 時間は少し掛かったが、襲いかかる岩鳥(ロックバード)をなんとか倒しきる事が出来た。

 残念ながら数羽の岩鳥(ロックバード)を逃がしてしまったが、最初の数からやはり増えていたようで、倒した数自体は襲われた数より多い。結果だけ見れば大勝利であり、ついでにこの戦いでオレの武器が増強されたと言って良い。


「オラの実入りが少ないだ。あんまりさっきの鳥とは戦いたくないだ」


 (ガドル)が愚痴っぽく言うのも無理はない。

 あまり目立たないが、オレが撃ち落としていく岩鳥(ロックバード)以外の敵の攻撃を、全ていなして無効化してくれていたのは(ガドル)である。にも関わらず岩鳥(ロックバード)は大量の『鳥の羽』しかドロップしないので、オレは良いが(ガドル)には敵を倒した(・・・)ことによる経験値しか旨味がない。しかもオレや(ガドル)生産職(・・・)であるため、戦闘はLV上げの要素としても弱いからだ。


 ドロップ品が美味しいアイテム《もの》でないと、苦労だけして報われていない気になるのは当然のことだ。


「まぁ、今回に関しては仕方ないな。故意に狙ったわけじゃなく襲われた結果だし……」

「おぉ!お前らマジ(・・)か?途中から見てたが、岩魔鷲ロックイーグルの群れを本気で二人で撃退してるとはよ」


 オレ達の頭上から聞き覚えのある声がした。

 だが、この声にあまりいい印象がない。背にしていた壁からゆっくり離れたオレは、声のした岩壁の上の方に視線を向けた。


 後ろの岩壁の上から姿を現したのは、見覚えのある巨躯で粗野な鬼人……グレンだった。


「久しぶり……こんなところまで何の用だ?」

「はっ!ご挨拶だな?別にお前らに用はねえよ。たまたま通りがかったらよ?岩魔鷲ロックイーグルの大群に襲われている哀れな連中がいたもんでよ?全滅したところで、ありがたく装備を拝借しようと隠れてたら、アテが外れたってだけだ」


 随分な理由でウォッチされていたものだ。

 心底勝てて良かったと思う。こいつに(ガドル)製の装備はもったいない。


「悪かったな。勝っちまって」

「ホントだよ、全く。完璧にアテが外れた。正直勝てると思ってなかった……ていうか戦ってたのがお前らだとも思ってなかったがよ。あの数は、さすがの俺達でもあの数は厳しいからな、不用意に近づく訳にもいかねえしよ」


 俺達(・・)……か。

 鬼人(グレン)以外に冒険者(プレイヤー)の姿は見えないが、死角に控えているんだろう。


「……やなヤツらだな。オラ嫌いだ」


 (ガドル)が露骨に嫌悪感を示した。……顔が猫だから分かりづらいが、(ガドル)の微妙な表情の変化がオレには分かる。


「ん?……そっちの猫にも見覚えがあるな?確かモルトの戦士ギルドで見たわ。鍛冶職ってんでまるで相手にされて無くて笑ったが、なかなか戦えるんじゃねーか。鍛冶も捨てたもんじゃねえな」

「オラは虎だど!!」


 冷静に考えると、わりといつものやり取りなんだが(ガドル)の反応が荒々しい。そうとう鬼人(グレン)がお気に召さないようだな……ま、オレもだが。


「どう見ても猫じゃねえか。ま、そんなこたどうでも良い。岩魔鷲ロックイーグルの大群を制圧出来るだけのお前らに相談がある。どうだ乗らねえか?」


 鬼人(グレン)がニヤリと笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ