第88話 閑話
大変お待たせしました。88話です。
もう少し時間が掛かりそうだったのですが、気合いで書き切りました。
遅くなってごめんなさい。
鬼人のドヤ顔が少しだけオレをイラっとさせる。が、まあどうせヤツの話には乗るつもりはない。相談とやらもどうせ独りよがりのしょうも無い申し出だろう。
「いや、遠慮する。グレンの持ってくる話にはいまいち信憑性が無いからな」
「あ?!内容も聞かずにかよ?」
鬼人が目をむいて睨んでくるが、そんなことは知らんしオレ達には関係ない。とりあえずオレは鬼人が話し始める前に却下した。即断即決である。
そもそも、珍しく『戦えるオレ達』に相談を持ち掛けてきているということは……である。
十中八九鬼人の相談とやらは、何かの魔物討伐か、前のようにダンジョンクリア。もしくは、るー坊のように何かのクエストの手伝い依頼だろうと想像がつく。
また、仮に鬼人の『相談』とやらが非常にお得な話であって、かつその話が本当だったとしても、今のオレ達は鬼人に同行することが出来ないという事情もある。
そもそも猫は仕事前のちょっとした時間をイルグラードに使ってるだけだし、オレにしたってエルナやるー坊との待ち合わせもある。
待ち合わせの時間になったから『じゃあまた!』というわけにもイカンだろう。……ま、そもそも直前にハイエナを狙われた鬼人と同行したいか?って話だ。行かないよな、普通の感覚ならな。
要するに感情的にも環境要因的にもお断り状態だということである。
ちなみに猫様は、オレが『いや……』と言った時点で素材集めに戻っていた。
思った以上にマイペースな奴だな。
猫としては、貴重なログイン時間を無駄な問答に費やしたくないってのが本音なんだろう。
「まぁ聞けよ。なんとついに俺様はだな、上位職へのクエストを受ける事が出来て……」
なるほど、第三のパターンだったか。
「あのな。ご高説のところぶった切るが、今のオレらにグレンの手伝いなんて出来やしないぞ?オレらは時間の制約があって動いてるんだ。何か……あぁそうだな。アップデート後くらいにだったら話聞くだけなら聞いても良いぞ。話に乗ってやれるかどうかは別の話だが……」
鬼人の目がカッと釣り上がる。
「そんなに待てるかよ!まぁいい。あとから後悔すんじゃねえぞ!……おぃ!おめえら行くぞ!」
「「「あ、はいっ!」」」
不愉快そうにオレを睨みつけた鬼人は、後ろに控えさせていたっぽい仲間を連れて《ノスド採石場》の奥へと入っていった。
アカシアで見かけた子分らしき冒険者もいたので、あれから鬼人は鬼人なりに仲良くやれているのだろう。どうでも良いことだが。
それにしても、鬼人の奴も上位職クエストか……オレもそろそろその辺考えたいところだ。そう言えば最初の段階でクリエラに情報を濁されて以来、調合士の上位職についての情報は一切得られていない。
適当にヤマを張ってクリエラを問い詰めたら、クリエラのことなのでどこかのタイミングでポカをやらかして情報を漏らしそうだけど、それ以上に聞き出すことの面倒臭さの方が先に立つ。自然に情報を得られるのを待って、その段階でチェックを入れる方が良さそうだ。とはいえ……
去って行った鬼人の方をぼんやり眺めていたオレは、腕組みをしながら調合士の上位職に思いを馳せる。……どんなものがあるのか興味が尽きない。いずれわかる話だとしても、この点に関してはワクワクしかない。
「ファクトさん、素材集めしないだか?」
「お!もちろんするぞ」
どうやらしばらく呆けていたようだ。
猫に促されたオレは、若干上位職への思考に後ろ髪を引かれつつも、猫と一緒に鉱石集めを再開したのだった。
……
とあるルーテリアの住宅村の一室に、一人の女エルフが自宅にログインした。
「メッグた~ん!」
そして、直後に女エルフが起こした行動は、部屋の掃除をしていた支援AIに飛びつくことだった。しかし、このエルフの行動は実ることなく空を切る。エルフの突撃を軽快に躱した支援AIメグは、くるりと身体を翻してスナップを効かせると、顔面目掛けて箒を叩き込んだ。
しかしメグの箒もまた、予想していない何かに阻まれて目的を達成することなく動きを止める。
「メグたん甘い!」
女エルフの言葉と共に、メグの視界から女エルフの姿がフッと消える。
なんとエルフは顔面に迫った箒を片手で受け止めた瞬間に体勢を低くし、メグにタックルを仕掛けていたのだ。……その進行方向の先にはもちろんベッドがある。
『そんな分かりやすい手にはかかりませんっ!』
メグの反応が早い!
まるでレスリングの経験者がごとく、メグは両足を後方に投げ出してエルフのタックルを切る。霊長類最強のあの方のタックル以外では捉えられないのではないかと思われる程の滑らかな動きだ。
しかし、ここにメグの誤算があった。
相手はあの変態エロフ。もともとの奴の目的は、メグをベッドに押し倒すことではなく抱きつくことだったのだから。
つまりレスリング選手張りのメグの返しはエロフのタックルこそ決めさせなかったが、その突進を真っ正面から受け止める形となってしまった。
この一連の攻防がレスリングの試合だったならまだ勝負は分からない。しかし組み合うことに成功したエロフはいやらしい勝利の笑みを浮かべた。
そしてメグと抱き合うことにまんまと成功したエロフの手は、なんとメグの身体を這い回り始めた?!のだ。
「メグたんとハグ~!!」
『ぎゃぁぁああ!こ……こぉの変態エルフッ!!』
一閃!
メグの鋭い右アッパーが女エルフの顎を正確に強烈に捉えた!レスリングがボクシングへとチェンジした瞬間である。
「ぐぇっふ!」
メグの身体に回されていたエロフの手が硬直して動きを止める。
もしエロフに余裕があったら「クリンチ~!」とか言いながら行為をやめないだろうことから、メグの鮮やかなカウンターの一撃は確実にエロフにダメージを与えている。その一瞬の隙をメグは逃さなかった。
間髪入れずに第二撃……メグの左ストレートがエロフの顔面に炸裂した!
「おほぉぅっ!」
ついにエロフはその場に膝から崩れ落ちる。ダウンだ。
その様子を確認したメグはすぐに距離を取ると、床に倒れ伏したエロフに冷ややかな視線を送る。
『最低ですよ、るージュ様。それがログインして最初にすることですか?!』
「こ……これが『神の左』」
女エルフは、床で痙攣しつつ意味の分からないことを呟いている。
『戯れ言も大概にしてください。いい加減私は怒りますよ?』
「えぇ!もう充分怒ってるじゃない?!」
床から動けずに居るるージュは『怒っていない』ことを強調するメグに抗議をした。
『それをるージュ様が言いますか?怒ってて当たり前じゃないですか!大体私はるージュ様の冒険を支援するためのAIであって、るージュ様と戯れるためのプログラムは一切されていないんですよ?次やったら本気で斬りますからね?』
「こわ~い」
『こわ~いじゃありません!ふざけるのもいい加減にしてくださいね……そろそろ動けないフリをするのもやめたらどうですか?私の拳にそんな異常付与効果なんてついてないですよ』
「……バレてた?」
るージュがむくりと起き上がると、てへっと悪戯っぽい笑顔を見せた。
『当たり前です。ったく……あ、そうそう。運営から伝言があって、アップデートのためのメンテナンス開始時間が延期したそうですよ』
「……伝言、雑過ぎない?」
『るージュ様にはこのくらいで丁度いいんです。優しくするとつけあがりますので』
「ひどいっ!」
るージュはしなを作って見せる。
『……るージュ様。気持ち悪い反応をしないで下さい。本質的におねぇでも何でもないるージュ様がそれをやってると思うと、とてもキモいです』
「相変わらず辛辣だなぁ」
るージュは、ガラッと様子を変えて立ち直ってみせた。
『全てるージュ様の身から出た錆です。伝え忘れてましたが、メンテナンス開始時間は現実時間の18時だそうです。開始時間までにはログアウトを御願いしますね?』
「それ、重要なことじゃないの?なんで最初の伝言に入ってないのさ」
『ワザとですけど、忘れたからです』
これにはさすがのるージュもため息をついた。
『メグたんの反撃が厳しいよぉ』
「行動を悔い改めて下さい。私からの伝言は以上です」
メグがるージュに向かって送った視線は、先ほどよりもさらに温度が下がっていた。




