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イルグラード(VR)  作者: だる8
第二章 この世界を冒険する!
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第48話 襲撃

サイド:エルナ です。

「フラフラすんなって言ってるだろう?お前は俺たちについてきただけじゃなかったんかよ」


 アカシアの街からやや東。平原の中腹付近に一つのパーティと思しき5名のプレイヤーの姿があった。具体的な場所としてはそろそろ《あやかしの森》の最南端付近を通過しようかというあたりである。


「えー。そうだけどさっ?でもほらそのへんに落ちてる素材を拾って持ってったら、ファクトの役に立てるじゃない??」

「だーかーら!それはお前んとこのパーティの都合であって、俺たちには全く関係ないだろ?うちのパーティに迷惑かけるなよ」


 この一行は、エルナとミゲルたちパーティであった。

 順調にモルトに向かっている……わけではなく、エルナが道草食ってパーティの進路からすぐにわきにそれ、そのたびに進行が止まっている事についてミゲルが注意しているようだ。言い争いになっているというよりは、呆れ半分でミゲルが注意している状態である。


「ちょっとくらいいいじゃない。元仲間のよしみで……」

「ちょっとじゃないから言ってんだよ!どんだけ時間かかってると思ってんだ……はぁ」


 犬の獣人である戦士ミゲルが天を仰いだ。ミゲルのパーティメンバーは、みな苦笑している。かつて正式にパーティを組んでいた頃と何も変わらないやり取りだ。


「……スフィアは、わたしの味方だよね?」


 ミゲルの言葉に困ったエルナは、白魔法使いのエルフ女性にすがるように視線を送る。視線を向けられたスフィアは苦笑いしながらも、小さくため息をついた。


「まぁ……ねぇ。いつもならそれで面白いからいいけど、エルナのペースに合わせてたら私たちはいつまでもモルトの街にたどり着けなさそうだし、ここはミゲルの味方かな」

「がーん!」


 思わぬ裏切りにショックを隠し切れないエルナ。


「くくっ。そこで『がーん』って自分の声で言うかな。いつも通りエルナは面白いなぁ」

「さすがリンクス!リンクスはわかってくれるよね?」


 エルナは、次に味方になってくれそうなリンクスにすがろうした。リンクスはミゲルのパーティの探索者であり、こんな感じで言い争いがあった時の仲裁役になることが多い。アカシアでファクトと会った時は全くしゃべっていなかったために、ファクトの中で勝手に『寡黙な人』認定されていたが、どうやら人見知りなだけのようだ。


「ごめん、エルナ。面白いけど僕も早くモルトに行ってみたいんだ。だからここは僕もミゲルに賛成かな」


 リンクスの言葉に、その後ろで腕組みをしている黒魔法使いのげいるがうんうんと頷いている。げいるはファクト認定通り、本気(マジ)で『寡黙な人』なようだ。なにせ、ここまでのやり取りの中でもげいるは全く喋っていない。彼から受け取れる意思表示はゼスチャーのみである。

 そんな彼に助け舟を求めるのは難しいしリンクスに同調していることから、完全にエルナの味方はいなくなった。


「えー?わたしの完全敗北……」

「わかったか?みんなモルトに行きてぇんだ。これ以上パーティの進行を邪魔すると本気でほっておくぞ?」

「うぅ……わかったよぉ」


 ミゲルのこの言葉がとどめとなり、改めて一行はモルトに向かって歩き出した。その一番しんがりをしゅんと小さくなったエルナがとぼとぼとついていっている。


「しかし、なんも目印がないな。とりあえず、この《あやかしの森》の南端を目指すまではいいが、こっから先はそう簡単にはいかなそうだ」

「でも、モルトの周りもこんな感じで何もないんでしょ?かえって街が目立ってすぐ目標が見つかるんじゃないの?」

「ま、それに期待するしかないね」

「……(うなずくげいる)……」


 意見が一致したところで、ミゲル率いるパーティがモルト目指して大平原に踏み出そうとしたその時だった。

 

「ねぇ、あれなんだろう?」


 エルナが《あやかしの森》の方を指した。


「なんだエルナ。まだなんかあるのか?もう道草はさせないぞ」


 そう言いながらミゲルがエルナの方を振り向いた。そしてエルナの指す方へ視線を送る。そしてその表情が(こわ)ばった。

 ミゲルの視界には、複数の何か黒いものが一斉にこちらに近づいてくる様子が飛び込んできたからだ。


「ちっ!魔物の集団かよ?完全に俺達を狙ってるな。野郎ども準備はいいか?!」

「あいよ」

「あたしは野郎(・・)じゃないけどね、準備はバッチリよ」

「……(うなずくげいる)……」


 ミゲルの号令にリンクスとスフィアが応じる。げいるは無言のまま杖を構えた。


「エルナ。お前の攻撃力はかなりアテにしている。頼むぞ」

「む~。ファクトがいないと全力出せないのになぁ……しょうがない!わかったっ!」


 エルナがブツブツ言いながら、腰に差した幅広の片手剣(ブロードソード)を取り出して構えた。ファクトの『ブーストLV2』でドーピングした状態の自分の身体の動きに慣れ始めたエルナにとっては、ドーピングなしの戦いは枷を嵌められたような錯覚を覚えるほどの違和感がある。


 《あやかしの森》から迫ってきた黒い影は、迎え撃つエルナとミゲルたちパーティをあっという間に取り囲んだ。よく見ると影たちは黒い装束で身を固めた人型である。ただし、名前の表記は見えない。


「人型の魔物か?集団で襲ってくるとかやっかいだな」


 ミゲルは重戦士らしく大盾を構えると敵をじっくり観察した。

 エルナとミゲルが背中合わせのように立ち、その間にリンクス、げいる、スフィアの3名が守られるように立つ。


「魔物の数12匹。敵情報なし……初見の敵だよ」

「……(表情が引き締まるげいる)……」

「なんでもいい!やったるよ!」


 陣形を組むエルナたちを取り囲む黒い敵の輪は、次第にその距離を狭めていく。


「あ!そうだ!」


 エルナが緊張感無く声を上げた。

 そう……彼女は思い出したのだ。先日ファクトと一緒にクイーンビーと戦ったときに得たスキル《魔物鑑定》のことを。


「えっと、どうやって使うのかな?」


 エルナはやや間抜けな発言をしながら目の前の集団をじっと見つめる。そして小さな声で《魔物鑑定》を発動させた。


「……あれ?おかしい?何も起こらない??」

「何がだ!エルナ、油断するんじゃねぇ」

「そうじゃなくって……えっとえっと」


 エルナは必死に言葉を選ぼうとする。

 ファクトから言われていたこと。……この《魔物鑑定》スキルはレアだと。そのファクトの言葉を信じるのなら、エルナはこの特殊スキルのことをパーティ以外のメンバに話す気はない。たとえ元仲間であったとしても……である。


 そして迷った結果、エルナが放った言葉はとても単純な一言であった。


「この人たち、多分魔物じゃないよ」


 エルナのその言葉に、一瞬ビクッと身体を震わせる何体かの黒い敵。エルナの言葉を肯定しているともとれる反応だ。


「なんだって……?って、どうも本当のようだな。その反応は未熟すぎねぇか?隠ぺいするつもりなら全力で隠ぺいしてみろよ」

「ということは、この連中はボクたちをPKするために集まった『盗賊たち』ってことですね」


 吐き捨てるようなミゲルの言葉にリンクスが反応する。すると黒い敵の集団にさらに動揺が走った。


「ビンゴか……おい、お前ら。ターゲットにする相手を間違えたな?俺たちは簡単に狩られてやらねぇぞ?」


 ミゲル達はそれぞれの得物を握り直した。


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