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イルグラード(VR)  作者: だる8
第二章 この世界を冒険する!
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第49話 盗賊戦~その1

 戦いの口火を切ったのは、なんとリンクスだった。彼の手から放たれたナイフが一人の盗賊の顔に突き刺さる。

 命中した敵の盗賊はナイフが突き立った顔のあたりを押さえて背後に倒れた。


「ぐ……ぁ……」

「ははっ!なんだ。やっぱりしゃべれるんじゃん?対人戦って聞いて、僕は興奮してきちゃったよ」

「ちっ……まぁいい。リンクス、全力だしてもいいぞ。蹴散らしてこい」


 エルナとミゲルの喧嘩を笑って見ていた時とは明らかに表情の違うリンクス。一言で言って危ない奴……と言って良い変わり様だ。

 多重人格……まではいかないのだろうが、人見知りな一面と穏やかな一面に加え、戦闘狂のような一面を持ち合わせているようだ。なかなかに屈折した性格のようである。ミゲルのかけた言葉から察するに、そんなリンクスの性格を知った上で普段は抑えるように指示しているようだ。


「許可もらいぃ。エルナ、半分僕がもらうよ?」


 そう言うが早いか、リンクスはパーティの陣形を飛び出して盗賊達に襲いかかった。逆手に持った二刀流の短剣バゼラートで次々と敵を切り裂いていく。


「スフィア!ああなったあいつ(リンクス)は頼もしいが、いろいろ厄介だ。フォローを任せた!俺は多分……」


 ギィン!

 会話に割って入るように鳴り響く激しい金属音。ミゲルは盗賊達の中でもひとまわり体格の大きい敵が振り下ろした大剣の一撃を、大楯で受け止めていた。


「こいつで手一杯だ」

「わかったよ!支援は任せといて!」


 敵から目を離すことなくミゲルに応えるスフィア。彼女(スフィア)の手にした短杖(ワンド)から、仲間全員に向けて防御用のバフ魔法がかけられる。

 そんなスフィアの背後では、いつになく厳しい表情をしたげいるが両手杖(スタッフ)頭上に掲げていた。


「……《フレイム》」


 そして杖を振りかざしたげいるの口から、魔法名だけが紡がれる。

 次の瞬間、げいるの杖の先から激しい炎が火炎放射器のように扇状に拡散した。結果、範囲内にいた敵4名ほどを炎に包みこんだ。


「「「ぐぁぁ!」」」


 炎に巻かれ、全身に火が付いた敵達が一斉に地面でもだえる。だが、敵達が纏っている黒い装束には対魔法効果が付与されているのか、放った魔法の威力と比較して、通ったダメージが少なそうである。


「……(懸念の表情を見せるげいる)……」

「まだ倒れてないよ!」

「わかってるっ!」


 スフィアの警告に返事をしながら、げいるの炎に包まれた敵に斬り掛かるエルナ。だが、エルナ達は気づいていなかった。

 げいるの炎に包まれながらも、平気でその場で戦況を見据えているプレイヤーがいることに……である。その異質な敵プレイヤーは、追撃のために斬り掛かってきたエルナの剣筋を全て、手にした片手湾曲剣(カットラス)で受けきってみせた。


「嘘ぉ?!」


 エルナはすぐに距離をとって陣形に戻る。自身の剣による攻撃をここまで無効化されたのはエルナにとっては初の経験であり、目の前の敵に初めて戦慄を覚えた。


「なるほど……お前がエルナか。なかなかに強い……前評判通りではある。だが」


 カットラスの敵は静かに呟いた。


「みんなっ!強いのが混じってるよ!」

「わかってらぁ!こいつもそうなんだろうよっ!」


 エルナの声にミゲルが反応する。

 ミゲルはミゲルで、大剣の大男との戦いで精一杯であるようだ。すると、まだ戦いに参加せずに戦況を見守っていた様子の男が仲間の黒装束たちの前にズイッと歩み出る。


「確かに……お前らは強いんだろう。だが……敵を舐めていたのは果たしてどっちだろうな。さて……Aクラス以下は引け。死体の回収も忘れんな」


 その男の合図で、黒装束たちは一斉に元いた《あやかしの森》の方へ退却していく。

 逃がしたくない……のがミゲルたちの本音だが、現状退却していく黒装束達を追いかけるメンバーがいない……いや、そう言えば最初に飛び出していったリンクスの姿が見えない。


「リンクス?」


 エルナがその不安をボソッと言葉にした。するとその言葉を聞きとがめたリーダーらしき男がその声に応える。


「リンクス?あぁ、最初に突っかかってきた戦闘狂のあの馬鹿か。あいつなら……」


 チンっと刀が鞘に収まる小さな音がする。と同時に、男の背後で見知ったプレイヤーが倒れた。その様子……名前の表示の色を見るに既に死亡しているようだ。


「クソが……スフィア!げいる!エルナ!」


 ミゲルは大剣の男を楯を使って力で押しのけると、仲間を集めて陣形を立て直しをかける。すると、退却せずに残った敵もリーダーの元に一旦集まった。その数……三名。

 リーダー格と思われる男の他はエルナと切り結んだカットラスの敵とミゲルと交戦していた大剣の大男だ。やはりこの三名が頭一つ抜けているのだろう。


 そして平原の中央で、二つのパーティは改めて対峙した。

 一つはミゲルをリーダーとするアカシアの街で有数の実力派パーティ。もう一つは正体不明の盗賊団と思しきパーティである。


 だがこの時点でミゲルパーティが明らかに劣勢だ。仲間の一人、探索者リンクスを欠いた状態であるからである。


「さて、俺達の目的はだ。知りたいだろ?特別に教えてやる。一つは、お前達のようなそれなりに名の売れたプレイヤーを狩って、下らんぬるま湯のプレイヤー達に俺達の存在を知らせることだ。もう一つは言うまでも無いな?資金稼ぎだ。ちゃんと有効に活用してやるから、お前らの装備と有り金をここへ置いていきなってことだ。ま、お前らの許可なんぞいらねぇ。結果は見えている」

「ふざけんな?お前らの存在の売名行為くらいはしてやる。どうせ公表するつもりだからな。だが……」


 ミゲルはそれまで使っていた片手剣をアイテムボックスにしまうと、輝く金属で創られたメイスを取り出した。


「ここで散るのはお前らだ」

「若頭……あれ……」


 大剣の大男がリーダーに声を掛ける。リーダーは『若頭』と呼ばれているようだ。


「あぁ、アレがヤツ(ミゲル)の本気武器だろうな。だが、あの武器はお前にこそ相応しい。そうじゃないか?」

「その通りだ。若頭、あれはおいが貰う」

「誰がてめぇなんざにやるかっ!」


 ミゲルは既に動いていた。大剣の大男目掛けて重戦士とは思えない速度で突進する。その(はや)さは探索者のそれに近い。予想の範囲を超える動きは盗賊団の行動に一瞬動揺を与えた。

 このミゲルの攻撃を目にしたカットラスの男と若頭は、反射的にミゲルの進路から身を翻す。しかしやや鈍重な大剣の男は躱すような事はせず、受けてたつ選択を取ったようだ。その証拠に大剣を構えてミゲルの突進を待ち構えている。


「受けきれると……思うか?」


 ミゲルは自身の大楯で一瞬だけ自分の姿を隠すと、反対側から裏拳を打つかのごとくメイスを水平に繰り出した。

 一瞬反応の遅れる大剣の大男。しかし敵もすぐに得物である大剣を使ってメイスの軌道に合わせてきた。この反応が出来る時点で、大剣の大男もそれなりのLVに達した手練れであることが分かる。


「あめぇ!」


 しかしミゲルは敵の反応に構うことなく、そのままメイスを敵の大剣ごと叩き込んだ。


「な……ぐぁぁ!」


 この一瞬の攻防で勝利したのはミゲルだった。

 ミゲルのメイスの一撃は、鈍い金属音と共に大男の大剣をへし折っていた。そしてメイスの一撃によって無残に折れ曲がった大剣はそのまま大男に襲いかかり、剣先が大男の腰付近に深く突き刺さったのである。


 大剣も失い、大ダメージを受けた大男はうめき声を上げ、思わずその場で片膝をついた。そしてこれが勝負の分かれ目となった。この直後ミゲルの大上段からのメイスの一撃が、大男の頭を叩き割ったからだ。


「……舐めていたのは、やはりお前達の方だったな?若頭さんよ」


 ミゲルはニヤリと口元に笑みを浮かべた。


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