第290話 極秘の依頼
次に気づいた時には、なんとも豪華な調度品に囲まれた洋風の部屋の中にいた。
なんと言えばいいだろうか?中世ヨーロッパの古城や洋館の一室として本当にありそうな部屋と言えばイメージが湧くだろうか。部屋の中でもひときわ豪華に見える長ソファに、げいるは普段の寡黙で無口なイメージと似ても似つかぬ笑顔と態度でゆったりと座っている。
「あぁ。気がついたか。まあその辺に座ってくれ。安心していい。ここなら邪魔は入らない」
この感じ。
無口なげいるのイメージは一旦忘れた方が良さそうだ。全くの別人と対峙しているように感じる。
だが恐らくは普段の寡黙なイメージは造られたキャラ設定であって、いま目の前にいるこのげいるこそが素の正確であり姿なのだろう。にしても『邪魔が入らない?』ってどういうことだ?目の前にいるげいるの言葉に、オレはいまいちついていけてない。
「あぁ。そうか。急に言ったってわからないか」
一人納得するようにげいるが小さく頷いているが、オレにはそもそも何がわからないと言われているのかすら見当もつかない状態だ。
さらに言えばこの部屋がなんであるかも分からないし、何に安心するのかも不明だ。邪魔が入る?入らない?も謎である。何より一番の謎は、げいるがオレをここへ連れ出したことか……一体なんだというのだろうか。
「ん……おかしいな。見立て違いか?」
げいるが想定と違うとばかりに首を傾げる。
いやいや勝手に見立てられて、勝手に想定外かどうかなど判断されたくもないぞ。
「どういうことなんだ?勝手に期待されて勝手に失望するとかやめてもらいたい。オレが何を知ってようと知ってまいと、ここへ連れてきた理由をちゃんと一から説明してくれ。話はそれから……だろ?」
「あぁ。まぁそうだ。そうするか。じゃあまあその辺に適当に座ってくれ」
げいるはそう言ってソファを指した。これもまた立派な調度品である。促されるままにオレは豪華なソファにゆっくりと身体を預ける。
フワッとした何とも言えない心地よい感触に優しく包み込まれるのを感じた。最高のソファだな。
「まずこの場所だが……これは分かるな?住宅エリアにいる各自の支援AIから話は聞いていると思うが、ここで稼いだGで増築できるプレミアムルームだ。フレンドを招待する事が出来る部屋のことだ」
……知らなかった。
そんなハウジングオプションがあったなんて。支援AIの奴、そんな説明してくれたっけな?
と、疑いを持ったオレだったが、すぐにその考えを改める。
そもそも自宅に届いた取説も適当に読み飛ばし、世話係のイズダテの説明も話半分に聞き、ストーリー説明をしてくれた賢者イムリアスの話も聞き飛ばしたオレだ。アリスがちゃんと説明してようとしてまいと、結果は変わらなかった気もする。であるなら、記憶を必死にたどるよりここでげいるの話をちゃんと聞いた方が良いだろう。
「なるほど?これが」
完全な知ったかぶりだが、話を進めるにはこの反応の方が良さそうである。本題ではなさそうだし。
強面ドワーフキャラのおかげで、ポーカーフェイスを保てているのだから、このアドバンテージは有意義に使わせてもらうことにする。
「ファクト君……でいいかな?君の呼び名は。そして君は確かリアルではSEだったな?であればある程度想像つくだろうが、この世界での行動はすべてログとして記録に残り、その情報は運営資料として重要なシステム稼働データになる。だが……このオレの部屋で起こったことは、ログには残らない」
「あ?ちょ、ちょっと待て。それって……やっぱり?」
オレの頭の中で、げいるという人物における大量の情報ピースが少しずつ埋まっていく。
そうだ。そういえばオレはげいるのことを『運営の人間』によるお忍びプレイではないか?と疑っていたことがあった。そしていまのこのげいるの発言を合わせると、もはや疑いようもない。
「あぁ。君の想像通り、私は運営側……いや、正確には元開発の人間だ」
「マジかっ!……あれ?でも待った。なんで今そんなことを?」
最近は完全に忘れていたが、自分の想像が当たっていた。そしてこの雄大な世界の創造者たる人物に会えたことに驚きと嬉しさを感じたオレだったが、よく考えればそんなことは普通はプレイヤーに自ら開示する情報じゃない。隠し通すのが普通だ。
オレの知識の範囲では、プレイ中に運営サイドが登場するのって所謂『GMコール』をした際に、問題解決をするために現れる程度のものだ。でもげいるの普段の行動を見ている限り、GMとして活動しているようにも思えない。
「話を戻すぞ?ここなら邪魔は入らない」
今度はげいるの言葉の意味が理解できる。
確か、イルグラードは全てをAIで制御している世界だ。行動や会話がログとして残り、それが運営上好ましくないものであれば、マスターAIなり運営や運用の人間から怪しい冒険者としてマークされてしまうだろう。だが、このげいるの私室であればその心配はない。ということらしい。
いやいや。
そもそもここへは、青い石系のアイテムを使って転移してきている。しかもできるだけ人目の着かないところまで移動して……だ。ちゃんと見たら怪しいことこの上ない。
「でもここに来るときに……」
「全く心配いらない。その辺のログは既に改竄済みだ。直接の行動を第三者に見られてしまうと整合性がとれなくなってしまうので、それを回避したまでだ。あまり詳しくは話せないが、その点については全く問題ないとだけ言わせてもらおう」
ふむ……。そこまで言われてしまうとこちらも反論が出来ない。
開示されていない情報に対して反論する意味もない。無意味なことに食い下がっても仕方ないだろう。
「わかった。それで?」
オレはげいるに話を進めるよう促す。
ここにオレを呼んで部屋の自慢をするためにこの場を設けたわけがない。本題はむしろこれからである。
「ファクト君。君はイルグラードだけでなく、様々なゲームを経験した熟練プレイヤーであると聞いている。また私の見立てでは、口も軽くなさそうだ。システム屋としての知識もそれなりに明るいほうだろう。そんな君を見込んでだな……依頼したいことがあるんだよ。もちろん報酬も出そうじゃないか。内容にもよるができるだけ君の希望に添う報酬を用意するつもりだ」
「報酬くれるのかっ!」
しまった。依頼内容の前に報酬に飛びついてしまった。ダメだなオレは。内容も聞かずに……いや、まだやるとは言ってない!
「何が欲しい?試しに言ってみな。報酬として用意できるかどうかは聞いてみないことにはわからん。君にとっても依頼を受けるに当たって重要だろう?」
そう言いながら、げいるはソファの背もれから上半身を起こした。




