第289話 げいる
「ところで、既にクリアしている白魔法使い側の条件ってか、クエストはどんな内容だったんだ?」
中層広場でげいると合流し、上層へ向かうすぐ先にある戦士ギルドへ向かう道すがらオレはスフィアさんに聞いてみた。聞いて、知ったからといってオレの攻略の何かに役に立つわけじゃないのだが、単純なゲーム脳なオレの好奇心から来る質問だ。
「知りたいです?たいした条件じゃないですよ。2系統の白魔法を極めることで習得できる完全解除を覚えることです。私は結構前から使えますので……」
「あぁそいつにゃかなり助けられてるな」
オレ達の話を聞いたミゲルが混ざってきた。
「まあそんなことよりも、問題は戦士ギルドのクエストよ。どんな内容なのか俺らも知らんからな」
腕組みをしながらうんうんと頷いてみせるミゲル。
「わたしの時は、戦士ギルドの道場で遊んだだけだから楽しかったよ」
「それは剣士のクエストだろ?前に聞いたし、聖騎士全く関係ねえだろうが」
「別にいいじゃん?じゃあミゲルは騎士への昇格条件クエストは何だった?」
「いやいや。俺のことこそ今はどうでもいいだろうが?そもそもだな……」
もともとオレがスフィアさんに振った話題だったのに、いつの間にかエルナとミゲルのおしゃべりになっている。
賑やかなのは良いことだ。げいるは相変わらず静かだが、げいるは何か昇格とかしてるんだろうかね?
「……」
げいるは何も語らなかった。
……その前にオレは頭で考えてただけで、話しかけたわけじゃないぞ。これでもし回答があったらエスパーだ。
などと、くだらないことを考えているうちに戦士ギルドに到着。
あれ?そういえばスフィアさんは白魔法使いなのに、戦士ギルドの昇格クエストとか条件とかどこで聞くんだろう?奥……には確か入れないよな?クエストだけならカウンターで受けられたっけ?でも何をクリアすればいいか分からないのにどれを受けたらとかどうやって聞くんだろう?あ、もしかしてミゲルが聞くだけ聞いてスフィアさんに伝えるのか?
ここに来るまでに考えておけよ……と言われそうな今更な疑問がオレの頭の中をグルグルと回る。が、オレが気にしたってしょうがない。当のスフィアさんが落ち着いているのだから、ちゃんと考えがあるのだろう。オレやエルナと違ってしっかりした人だし。
「すみません。聖騎士の昇格クエストを受けたいのですが」
『はい!……えっと、今は白魔法使いですね?では、こちらを持って奥へどうぞ。付き添いのお仲間で戦士ギルド系クラスの方はいらっしゃいますか?』
戦士ギルドの受付AIは、スフィアさんに何か札のようなものを差し出した。スフィアさんはその札を丁寧に受け取ると、後ろに控えているミゲルをチラリと見た。
「おぅ!俺がそうだ。あと、エルナも着いてくるか?」
「もちろん!」
『では3名様ですね。ご健闘をお祈り致しております』
受付AIが、ぺこりと頭を下げる。
……あれ?つまりオレとげいるがここで待ちってことか?
「てことで、ちょっくら奥へ行ってくるからよ。ファクトとげいるはここで待っててくれ」
「いってくるね!」
あまり表情は変わらないが、少しだけ緊張が見えるスフィアさん。そしていつもの調子のミゲルに、楽しそうなエルナ。
オレも行きてえって。無口なげいると二人でジッと待ってるとか……どうすりゃいいんだよ。
「あ……お、おう。あ、スフィアさん頑張ってね」
「はい!ありがとうございます」
「あ!わたしに激励は?」
「なんでエルナに激励が必要なんだよ」
スフィアさんを応援したオレに対して不満そうなエルナの声が飛んできたので、それを軽くあしらっておく。「応援してくれたっていいじゃん」とブツブツ言ってる声が小さく聞こえてくるが、あれは聞こえないように呟くふりをしてちゃんと聞こえるように言ってるアレだ。
オレだって一緒に遊びに……スフィアさんを応援しに行きたいんだ。それをここでげいると無言で待つんだぞ?ちょっと子供っぽい意地悪かも知れないが、このくらいは反抗させてもらおう。
「……ともかく行ってくるわ。無事スフィアを聖騎士に昇格させてくる」
「行ってきますね」
「行って……くる」
三人はそれぞれの反応を見せつつ、戦士ギルドの奥へと入っていった。
そして……オレはげいると二人戦士ギルドのカウンター前。待合室に残された。
調合士ギルドなどと違い、非常に多くの冒険者の往来が激しい。そんな中、物静か……無言のげいるとオレの間には不思議な空気が流れている。喧噪な空間の中で、オレ達二人のいるところだけが奇妙に静まっている……そんな感じだ。
実際には往来する冒険者達の声が聞こえ続けているので、真の意味で静かであるというわけではないのだが。
特にやることも話すこともなく黙って待つというのは結構つらい。げいると雑談でもしていれば気も紛れるのだろうが、オレの話しかけに対してげいるが応えてくれそうなビジョンが見えないため、オレとしても話しかけられずにいる。それがまた辛い。
何気なくげいるの方を見る。無言のまま何を考えてるんだろうな……くらいの気持ちだったことは覚えている。
だが、むしろげいるの方がオレの方をジッと見ていたのだった。
「……こっちに」
げいるがしゃべった!
しかも戦士ギルドから外へ出て行こうとしている。「こっちに」とか言ったぞ?着いてこいってことか?でもスフィアさん達を待たなくてもいいのか?
戦士ギルドの出口付近まで歩いたところで、げいるがオレの方を向いた。そこで『三人を待たなくては……』と考えて動けずにいるオレに気づいたようだ。
「問題ない。アレはしばらくかかる」
え?どういうことだ?
そうか。げいるは内容を知ってるってことか。
でも距離が離れているのにすぐ近くで会話しているように声が聞こえてくるのか?……そうかフレンド通信か。
こんな近距離でフレンド通信を使うとか。どんだけ周りに声を発したくないんだか。無口キャラを押し通したい気持ちにもほどがある。ならばとオレもフレンド通信で返すことにした。
『どこへ行くんだ?』
『着いてくればわかる』
随分饒舌に話すもんだ。これほど話すげいるを見たのは『ラミーラ坑道』以来か?
ずんずんと先へ歩いていくげいるを、オレは小走りで追いかける。そのくらいでないとすぐに遅れてしまいそうだ。
中層広場まで戻ってきたげいるは、そのまま大門の方へと歩いていく。大門……を抜けるわけではなく、通用口を抜けて街の外へ向かうようだ。オレも急いで後を追う。
『どこまで行くんだ?』
『……』
ここはだんまりかよ!
回答がないのでは仕方ないので、とにかく遅れないようにげいるを追う。通用口を抜けたげいるは、そのままここフレアヴェールへやってきた時の道を逆にたどるように、地上につながっている螺旋階段へと続く扉を開けて中へと入っていく。
え?それで本当にいいのか?
たしかここへきたときのルールみたいなもので、転移指輪を使ってでないとフレアヴェールから外へ外出出来ないんじゃなかっただろうか?
疑問はいろいろと浮かんだが、いまはげいるを追うしかない。
オレは螺旋階段への扉を開けて中に入った……と、げいるはそこに立っていた。螺旋階段を上っていく様子もない。
『今はこの場所が人目につかない。これを』
げいるはちいさく光を放っている石を差し出してきた。暗がりでもその石が深い蒼色をしていることが分かる。
『どうするんだ?』
『頭上に掲げよ』
言われるがままにオレは受け取った石を頭の上に掲げる。次の瞬間、オレとげいるはその場から忽然と姿を消していた。




