第291話 聖騎士になるために
ほ……報酬。
食らいついておいてオレは馬鹿だと自分を責める。報酬という甘い言葉に完全に踊らされてしまっている。
そもそもだ。
まだ内容すら聞いてないのに、報酬の話などしたら『内容はともかく受けます』って言ってるようなもんじゃないか。受けたらダメな依頼を断れなくなる。なんとかして先に依頼内容を聞き出さないと。そしてそれに見合う報酬にしないと馬鹿を見るだけだろ?普通は。
……いや、まだ間に合う。
オレはリカバリ作戦にでることにした。
「い、いや。報酬の希望を出す前に、依頼の内容を……聞きたい」
「内容か?そんな大変なことじゃないぞ」
なんだと?げいる君め。
そんなこと言って後から無茶振りするつもりじゃないだろうな?それにしても報酬って……じゃない。報酬のことは後回しだ。
「望みの報酬を出す……とまで言う依頼が、大変じゃないわけがない。違うか?」
疑心暗鬼になっていることを隠しもしないオレの反応に、げいるがふぅと深く息を吐く。
「気持ちは分からんでもない。が、報酬の良さに影響するのは何も達成難易度だけじゃない。違うか?それに難易度がそれほどでなくても内容の重要度が大きく影響する。こういう場所に招いてから話している以上、依頼を受けようが受けまいがここであったことは他言無用だ。AIに話すのもダメだ。ログに残っちまうからな。そういう環境こそが報酬の高さに見合っていると私は思っていたんだが……とはいえ、美味しい話にすぐに飛びついて鵜呑みにするほど浅慮じゃないか。でも本当に実行すること自体は大変じゃないぞ?」
こうしてげいるが説明している間もオレは疑心暗鬼の態度を崩していない……つもりだ。
「……ま、そもそも出し惜しみをするつもりもない。依頼内容を説明しよう」
そう言ってげいるはいつも以上に真面目な表情でオレを見た。
……
一方その頃。
スフィアさんの昇格一行は、戦士ギルドの奥の間に招かれていた。付き添うのはミゲルとエルナ。三人が部屋で待っていると、しばらくしてあの名物?ギルドマスターが現れた。
『あぁら?いつかのポンコツ娘じゃない?お久しぶりね。剣士としてずいぶんと活躍しているみたいじゃない?ふふ。で、今日のご用件は?』
戦士ギルドマスターのアテナは、やってくるなりエルナにそう言いながら中央のソファに身体を斜めにして座った。
相変わらずセクシーな所作である。
「ポンコツ言うな!わたしはいつだって真剣……」
「エルナ。そこまでだ。今日の主役はお前じゃない。そうだろ?」
なおもアテナに食い下がろうとするエルナに、ミゲルはストップを掛けた。このままエルナに話させていたら、本題がいつ始まるかわかったもんじゃない。とミゲルが考えたためだ。
それでもエルナはミゲルに言われて引き下がる。エルナだって今の主役が自分ではなくて『スフィア』であることくらい分かっている。
そして自然とその場の全員の視線がスフィアに集まる。
そうなることを待っていたかのような絶妙なタイミングで、スフィアはギルドマスターであるアテナに向かって話しかけた。
「私は聖騎士になるために伺いました。昇格にに必要なクエストをご紹介ください」
丁寧に頭を下げるスフィア。
『ふふ。随分と大人なのね。そこのポンコツと比べたら失礼なくらいに……いいわ。多分既に知っているのでしょうけど、まずは『聖騎士』について説明するわ』
アテナはどこからともなく取り出したカードを目の前のローテーブルの前に置いた。エルナも見たことがあるあのカードだが、置かれたのはたった一枚のカード。
『聖騎士』:白魔法を操る戦士。『騎士』程ではないが防御力に上位補正が入る。回復魔法も使用出来る。
『聖騎士は文字通り聖なる騎士。この職業説明カードに記載されていることはもちろんそのとおりよ。でもそれだけではなくて『聖属性攻撃』のエキスパートでもあるわ。……そうね。貴女は既に白魔法使いの身で『聖属性攻撃』のスキルを使用してきたのね。承知の上だってこともわかったわ』
『聖騎士』の説明をしながら、同時に目の前にいるスフィアの情報を読み取っていくかのようなアテナ。
『そう……貴女の武器は拳なのね?いいわ。貴女はとても私の好みよ?というより、見れば見るほど『白魔法使い』にしておくのがもったいないわ。すぐにでも聖騎士にしてあげたいところだけど、決まりだから試練をクリアしてもらうわね』
ずっとソファに身体を預けっぱなしだったアテナだったが、ここで身体を起こした。そして自身の方を向いているスフィアと目を合わせる。
『戦士ギルドが課す聖騎士になるために必要な試練は……『守りの試練』よ』
「守りの試練?」
アテナの言葉に変な声で反応したのは、言葉を向けられたスフィアではなく後ろで聞いていたエルナだった。
『えぇ、そうよ。でも……エルナ?いまは貴女にではなく、そこのスフィアに話しているの。いいわね?』
「は、はい」
窘められておとなしくなるエルナ。
最初からおとなしくしとけって言っただろ?と呆れた様子のミゲルの視線がエルナに向けられた。
「マスター。その『守りの試練』とは、具体的に何をしたら良いのでしょうか」
『ええ。これから説明するわね。『騎士』もそうだけど、『聖騎士』も仲間のために身体を張って守る役割を担う職業よ。といっても戦士として活動してきた冒険者と貴女のように白魔法使いとして活動してきた冒険者では課す課題が違うのだけど、まあそんなことは今はどうでもいいわね。貴女が挑まなくてはならない試練は『どんなことをしてでも仲間を守り切る』という試練。さあ、道場へ向かいましょう』
そう言って立ち上がるアテナ。そしてそのまま部屋の出口まで歩いて行く。
『ついていらっしゃい』
スフィアたち三人はアテナの後に続いて部屋を後にした。




