第281話 襲撃
突然ざわつき始めた市街。続いて響きわたる爆発音。明らかに異常事態だ。
ちょっとだけ甘い雰囲気だったことなど吹き飛ばしてしまうのには十分な破壊力があった。その証拠にオレ達だけでなく、展望エリアにいた冒険者の全員がオレ達と同じように手すりから眼下に注目をしている。あのラブシーンの真っ最中だったエルフのカップルも……だ。
そのとき、オレの視界の端で爆発が起こった。
勢いで数名の冒険者らしき人影が吹き飛ぶのが見える。さすがに遠目であるために誰が被害を受けたのか?といったような細かい顔や名前表示まで見えるわけではない。が、明らかに惨状と呼べる光景がそこには存在していた。
現実だったら間違いなく爆破テロだ。
ここでは爆発の効果に近い炎系魔法の仕業なのだろうけど……。と、そこでオレは気づく。
今目の前で起こっている事態がストーリーに基づくイベントではない限り、引き起こしているのは盗賊職の冒険者だ。なぜなら、冒険者間の戦いは『一般職』対『盗賊系職』の争いでしか起こりえない仕様だからである。
そして、行動を起こそうとすれば街中であっても相互PKが実施出来ることは、イルグラード入りたての頃のオレの実体験で証明出来る。間違いない。
「エルナ。盗賊だ」
「うん!」
オレの呼びかけに力強く返事をくれるエルナ。
盗賊っていうとオレの場合は最初に遭遇したNPCに扮した盗賊。それから森の中で見た元グレンの仲間くらいしかイメージがないが、確かエルナはミゲルと行動していた際に上位の盗賊プレイヤーとガチ勝負をしていた筈だ。
あとから聞いただけの話だが、かなり激しい戦いであり、かつ劣勢だったらしいので盗賊という言葉からエルナが受け取る印象はオレとは随分違っているに違いない。
あとは……幸いにしてオレ達がいる『上層展望エリア』は、騒動に全く影響がない。であれば、わざわざ厄介事に首を突っ込む必要がないのでは?ということだ。
エルナが同じ考えでいるかは、正直わからない。むしろそこに、以前遅れを取った相手がいるのであれば、エルナの性格から『再戦をしたい』と考えているかもしれないからだ。
だがオレの考えとは裏腹に、エルナは眼下の騒動をジッと眺めているだけだった。特に動揺を見せることもなく、ましてや盗賊と戦うために駆け出したりすることもない。オレの方が慌ててるんじゃないかと思うくらい落ち着いているように見える。
オレは声を掛けてみることにした。
「エルナ?」
「あっ!うん。盗賊も……冒険者なんだよね?」
「そうだな。始めるときに選んだかどうかだけが、オレ達との違いだ」
エルナの言葉は、想像していたいくつかのケースを思い切り外してきた。ちょっと予想してなかったがエルナが何を思っているのか……そうした考えを聞くにはいい機会かもしれない。
「わたしはよく考えずに自然に戦士を選んだ。もちろんわたしの強みの剣道が使えるからってくらいは考えたけど……でもそれだけ。でも、盗賊を選んだ人って……その……最初から対人戦を想定して、ただイルグラードをプレイすること以外の追加要素を求めて選んだってことよね?」
「そうなるだろうな。まあオレ達のように盗賊でなかったとしても、盗賊相手の対人戦はあるけどな」
「うん。そうだけど……」
オレにはエルナが何を話そうとしているのか、全くわからなかった。
せいぜいわかるのは、彼女がとても伝えにくそうに言い淀んでいるということが、らしくないということくらいだろうか。
そんななかオレに出来ることといったら、急かしたりすることなく彼女が自分のタイミングで話したいことを話し出すまでゆっくり待つことくらいだ。
「……ちょっとだけ盗賊が羨ましいかな?って。強そうな相手が居たら、いまのこの力の全力を出して戦うことが出来るだなんて。そんな幸せな環境が用意されているだなんて」
「なるほど」
エルナの素直な気持ちを聞いて少し納得してしまった。
彼女のような武闘派にとっては、強者との対人戦は願ってもない機会に感じるのだろう。だが、彼女には見落としている点がある。
盗賊冒険者のほとんどはエルナのように強者狙いに魅力を感じているのではない。盗賊プレイヤーによるPKという行為そのものは、基本的に弱者からの搾取がプレイ目的になっているいうことだ。
とはいえ、エルナがそういった環境に魅力を感じていることも事実だから……う~ん。オレはどう反応したらいいんだ?
「わたしはファクトと違って剣を振ることしかできない。だからそう思うこともあるよ。でもね……」
そう言ってエルナはちょうど爆発が起こった市街のあたりを指差した。
「そういう魅力的な環境が提供されている。なのに、あんな使い方しかしないってことに……わたしは怒ってる。あんなのテロリストじゃん」
お。エルナもそう感じてくれたか。
そうだよな。市街地でくつろいでいる一般冒険者を攻撃魔法で襲撃するだなんて、やることが盗賊の域を超えている。
「だから……ごめんなさい。わたしは行く。戦ってくる!ファクトはここで待っててくれていいよ」
そうか。
本当はすぐにでも駆けだして行きたかったんだろう。それもオレが考えていたような安っぽい理由ではない。そして、ちゃんと断っていこうとエルナなりに言葉を紡いでくれたということもしっかり伝わった。
大丈夫だ。エルナが行くならオレも行く。
エルナの真剣なまなざしを受け止めつつ、大人としてかっこよく決めようとそう思った時、視界の端で見覚えのある青白い光が飛び込んできた。
「「ミゲルッ?!」」
オレとエルナは手すりから身を乗り出した。
そう。あの輝きはミゲルの持つ魔槍『炎神』による攻撃の光だ。見間違うはずもない。
「いくぞっ!」
「もちろんっ!」
オレとエルナは即座にブーストLV2をがぶ飲みすると中層市街地目指して全速力で走り出した。




