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イルグラード(VR)  作者: だる8
第七章 変異
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第280話 エルナとオレ

 本当に面倒くさい連中だったな。それにしてもグレンの関係者ってのはみんなあんな連中なのかよ……。

 オレはグレンの取り巻きのことを少し思い出す。


 今回会ったフルカスにアイラ、それに以前の仲間だったと思うが始めたばかりの頃に会った白魔黒魔の二人もいたな。あいつらはあとから盗賊の疑いが濃厚となったあたりで姿を見なくなったが。あとは……あれ?るー坊もか?


 でもるー坊は逃げようとしてたんだよな?確か。いずれにしてもグレンの取り巻きだった連中はみな厄介なやつらばかりだ。

 冷静に考えたら、るー坊も充分()ではあるし。


 などと考えているとやや気持ちが憂鬱方面に傾いていく。そんなオレの感情が表情に出てしまっていたか、エルナが心配そうに見上げていた。


 しまったな。

 いくら暗い感情が出そうになってたとしても、隣にいるエルナを心配させてしまってはダメだ。アクシデントはあったが大人のオレとしては、エルナに楽しんでもらわないと。それこそが、今この瞬間においてオレの一番の重要な役割だ。


 オレは大きく一つ深呼吸をしてみせた上で、心配そうに見ているエルナに笑顔を向けた。

 ちゃんと笑えていただろうか?アバターがゴツいので(意図的にそうデザインのだけど)エルナを安心させられるよう笑えているか少し心配だ。が、そんなオレの心情を見透かしたようにエルナもホッとした様子で小さく微笑んだ。


「仕切り直しよ!あそこまで行くの!」


 そう言ってエルナは上方に見える上層(・・)展望エリアを指した。


 そこからオレ達は展望エリアまで歩いていったのだが、思っていたよりすぐに到着した。それなりに距離を歩いた筈なんだけどね。

 違いがあるとしたら、前半はお上りさんよろしくキョロキョロと見回しながら歩いていたのに対して、まっすぐ目的地である《展望エリア》へ向かって歩いたというのが大きいだろう。


「着いたっ!」


 到着するなり、エルナはオレから離れて手すりまで駆けていく。

 こういう姿を微笑ましいと思ってしまうあたり、これはおそらくアレだ。娘を見る親の視点ってやつか?おっさんと称していてもオレまだ27なんだけど、精神年齢が老けすぎてるのはヤバイ。


 ちなみに……この上層の展望エリアにも下層のエリアと同様に数名の冒険者(プレイヤー)がいるのだが、どうみても明らかにカップルと思われる二人組しかいない。さらに言えば、下層の展望エリアは上からも様子が()えるのに対して、上層の展望エリアにはこの場にいる(・・・・・・)冒険者(プレイヤー)以外の視線がない。


 そうつまり、人目を気にすることなく二人の世界に入ってしまえるわけだ。そのためか下層のエリアに比べて見るからに二人の距離が近いし、展望エリアだというのに見るのは景色ではなくお互いの顔。要するに見つめて抱き合ってる連中がほとんどだ。


 折角の展望エリアなんだから景色を見ろ……なんてオレには言えない。楽しみ方はそれぞれだと思う。が、ちょっとここは刺激が強すぎるな。

 屋外のちょっとしたハプバーだと言われても違和感ないくらいピンクな展望エリアだった。うーむ。エルナには教育上良くないんじゃないか?いやもう問題ないのか?実際のところはエルナ自身次第なんだろうけど、こんな考え方をしている時点で親視点だよな。


 すると、手すりのある展望エリアの端まで行っていたエルナがオレのところまで駆けて戻ってきた。


「ねえ!早く見に行こう。凄いって」

「あぁそうだな」


 エルナがいつものようにオレの腕をつかんで引っ張りながらくるりと向きを変えた。その直後の事だった。ちょうどオレ達の視線の先でいちゃついていたエルフ族の冒険者(プレイヤー)カップルが、足を絡めながら濃厚なキスを始めた……いや、始めてしまった。


 走りかけたエルナの足が急ブレーキ。それに釣られたオレの体勢もガクンとつんのめりそうになった。

 そこのエルフの二人!タイミングが悪すぎる。


 んでもってエルフカップルの方へ顔を向けたまま動かなくなってしまったエルナ。ほら!やっぱりエルナには刺激が強すぎたんだよ。そう思ってエルナの顔をのぞき込んだところ、そこには頬を赤く染めながらも、ガッツリとガン見しているエルナの姿があった。興味津々かよ。お年頃ってやつですか。


 と、そこでエルナの視線がカップルからはずれて、のぞき込んでいるオレに気づいたようだ。


「ぇ……ぁ……」

「ほら。街がよく見えるところへ行くんだろ?」

「ぅ、うん!そう。行こう!」


 ハッ!と我に返ったエルナ。

 彼女が気づいて必要以上に恥ずかしがらないように、さりげなく目的を促すオレ。どうだ?これなら大人の対応になってるんじゃないか?……などと、心の中でどや顔してみる。心の中ならどんだけどや顔しても大丈夫だからな。

 実際のところエルナにとって良かったかどうかは知らないが、女性に対しての気遣いが出来たのでは?という自己満足の気持ちだけ大事に取っておくことにする。


 とまあそんな感じでややギクシャクした動きで再び歩き始めたエルナを連れて、展望エリアの端までたどり着いた。


 この位置は中央城の尖塔部分を除けば、地底都市フレアヴェールの中で最も物理的に高い位置だ。

 そのためこの場所からであれば街全体を一望する事が出来る。……もちろんちょうど城の反対側だけは隠れて見えないけどな。


 ちなみにここにはシステム屋として見過ごせない素晴らしい点がある。遠方の解像度が端折られていないのだ。このことは本当に凄いと思う。どうやって実現しているのか開発スタッフに話を聞いてみたいくらいだ。ん?ああ、もちろん本当に対面したらオレはなんも話せないだろうけどさ。


 システムに(うと)い人にもわかりやすく言うなら、他のゲームだったら距離のある遠くのNPCや冒険者(プレイヤー)は見えないことがほとんどだ。どういうことかというと情報演算処理の関係で、できるだけ違和感の感じない程度に近づいてから処理の重たくなる描画処理を行うって方式をとることが多い。

 これは非常に賢いやり方で、遠く豆粒みたいな人を一生懸命描いたところで見え方全体からしたら些末なものでしかないわけで。まあそんな感じでうまくバランスを取っているのが普通なわけだ。


 しかし!しかしだ。

 ここイルグラードでは、そうした冒険者(プレイヤー)やNPCを端折っている様子が全く感じられないのだ。


 つまりここ展望エリアから街を見下ろすと、そこで活動しているNPCや冒険者(プレイヤー)がしっかりいるのが見えてるというわけだ。

 さすがにキャラの上の名前表示までは見えないのだが、人の営みがしっかり感じられるという意味で臨場感が凄い。イルグラードで活動を始めてしばらく経つが、こうしたビジュアルに関するこだわりには本当に脱帽する。


「ねえ?ファクト」

「ん?」


 景色に見入っていると、突然エルナから話しかけられた。

 よく見ればエルナは全然景色を見ていない。ちょっとうつむき加減でもじもじしている。まださっきのエルフカップルのラブシーンを引きずっているのか?


 そんなことを考えながらエルナを見ていると、彼女(エルナ)は上目使いのまま小さく呟いた。


「わ……わたし達も、ああいうカップルのように見られてるのかな?」


 おっと。

 随分と関係を意識した発言をぶっ込んできたよ。どうするオレ。これはどう返すのが正解なんだ?


 さすがにオレに好意を……異性としての好意が向けられていることくらいわかる。コミュ障ではあるが、バツイチでもあるんだ。そしてこうした真剣な好意に対していい加減な対応をすると、どんなに積み上げた関係であっても一瞬で壊れてしまうこともわかっている。体験済みだからな。


 だが、ちと回答に困るタイミングだ。

 もともと好意を持っていてくれたところへ、明らかにさっきのラブシーンで焚きつけられた形ってのがな。本当にどう返したらいいものか。


 現実的なところでは、オレ達はラブシーンを演じていないので「同じではないけど、雰囲気だけ感じてるかもな」とはぐらかすのがいいか?

 それとも「そうかもね?」と同調することで共感を示すべきか。


 ただしどちらの返しも焚きつけられた今のエルナが、その先を求めに来てしまう可能性があるという罠が存在する。ヘタレと言ってくれて構わないが、オレにはアバター越しだろうと中身が女子高生のエルナに手を出す度胸などないんだ。


 でもだからといってパーティ仲間としての関係が壊れてしまうのも避けたい。オレとしてはエルナとはイルグラードを楽しむ仲間として良い関係を保ちたいのだ。だからいたずらにエルナの望まないだろう回答(こたえ)を安易に返すわけにもいかない。


「そ……そうだな。えっと……」


 一秒にも満たないちょっとした間。

 何か応えなくてはと口をついて出た「えっと……」の言葉。それを聞いて瞳を大きくしたエルナ。


 ちょうどその瞬間だった。

 街の下の方から怒号にも歓声にもとれる大勢の声が聞こえてきたのは。


「なんだ?!」

「ん?!」


 オレとエルナは反射的に手すりから街を見下ろした。

 理由も原因もわからない。わからないが、そこで目にしたのは大勢の冒険者(プレイヤー)達による乱闘だった。

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