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イルグラード(VR)  作者: だる8
第七章 変異
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第282話 ミゲルとフルカス

 中層市街にて盗賊襲撃騒動が始まる少し前のこと。


「てな感じでな。あの闇のエリアの奥に、目的のアイテムがあった。で、そいつを有効化するにはな……」

「ほう。じゃあアレか?ほとんどアイテムゲットの直前までいってたってことかよ」

「す、すみません。グレンさん。自分が下手打ってしまったばかりに」


 フレアヴェールの酒場の奥でグレン達パーティとミゲル、スフィアによる情報交換という名の雑談が行われていた。それぞれのテーブルにはイルグラード内で振る舞われているエールが置かれているあたり、雑談兼飲み会というところだ。ルーテリアの酒場でもいわゆる()が振る舞われていたが、こういった仮想空間においても嗜好品の再現にこだわるのは人のサガかもしれない。


 グレン側も、軽戦士のモスラに探索者のザイード。そして白魔法使いのケーラがそろっている。ミゲル達がファクトと合流する前に行動していた顔ぶれだ。

 恐らくは全滅してフレアヴェールに戻ってきたのだろう。


「まあモスラを責めたい気持ちがあるがよ?やらかしをイチイチ責めてたら話が進まねえからな」

「相変わらずモスラに甘え。綺麗ごと言ってるがよ?今回のミスが俺だったら思いっきりなじってるだろうが?」

「んだとぉ?」


 相変わらずといっていい四人の様子にスフィアが小さく微笑む。ミゲルも特にグレン達のやりとりを止めるつもりはないようだ。


「じゃあ奥のボスについても一応話したし、そろそろ俺たちは行くが……」

「あぁ?待てよ。もうすぐアイツらがくるからよ。紹介だけしとくわ」

「アイツら?」


 ミゲルは記憶をたどる。

 心当たりがあるとしたら……たしか、こないだグレンのパーティへ客員参加する際に脱落(・・)したと言っていた2名の元パーティメンバーくらいか?どうせグレンの言う脱落(・・)だから、単純にリアル都合でログアウトしてただけなんだろう。


「噂をすればってやつだ。うちのパーティの残り2名だ。今後も顔を合わせることもあるだろ?フルカス!アイラ!ちょっとこっち来て挨拶しろや」

「グレン五月蠅い。静かに紹介出来ないのかい!」

「まあまあアイラ。いつものことだからこそ落ち着いて?」


 グレンの紹介のせいもあるが、騒々しい登場となった二人。

 見るからに黒魔法使い然とした様子の飄々(ひょうひょう)とした男に、気性が荒っぽそうな女戦士。職業的な組み合わせからも、間違いなく以前グレンが脱落(・・)したと言っていた二人はこいつらのことなんだろう。


 ていうか絶対脱落(・・)なんかじゃねえだろとミゲルは思う。

 そんなゲームに気後れしているような二人ではない。特に黒魔法使いっぽい男の方は得体の知れない雰囲気だ。何がどう間違ってもこいつが脱落(・・)するなんて悪い冗談だろう。むしろ逆にグレンが(・・・・)見捨てられたと言われた方が納得がいくくらいである。


 さっさと退出するつもりだったが、悪い意味で興味を引かれたミゲルは再び腰を下ろした。目の前のこの二人のことを知ってからでも遅くはない。


「こいつらが俺たちの切り札(・・・)だ。さっきの情報がありゃあすぐに追いつく」

「ん?何の話してたのさ?って多分攻略情報の交換とかかな?」

「あぁそうだ。オマエらは二人でストーリーを進めたりしてるか?……ってしててもしてなくても関係ねえ。これからやるから付き合えやフルカス」


 グレンは選択肢などないといった様子で言い切った。


「グレン!おまえはいつだってそうだ。アタイやフルカスの都合くらい考えなよ」

「大丈夫だよ、アイラ。気にしてくれてありがたい。が、ボクだって考えなしじゃない。ボクはいつだって自分とアイラのことを考えてるさ」

「……な、ならいいけどさっ」


 アイラと呼ばれた女戦士がプイッと横を向いた。

 彼らの人間関係が見えてくる。グレンのパーティメンバーといってもアイラとフルカスの2人は、ちょうど俺たちが参加したような客員参加に近い感じなんだろうということだ。さすがに俺たちよりはグレンに近い仲間なんだろうが……。


 そんなことをミゲルが考えていると、フルカスがポンと手を打った。


「そうだ!ついそこで例のファクト達に会ったよ。ミゲルさん……だっけ?一緒に行動してるんだよね?」

「んぁ?あぁ、そうだ。仲間みたいなもんだな」


 突然フルカスの質問が飛んできてミゲルが少しだけ慌てる。

 状況だけ考えれば、ファクトとエルナは二人して街中散策のおデートをしている筈だから、その辺でバッタリ会うこと自体は不思議なことではない。ただ、フルカスの言い方から問題を起こしてないだろうな?と少しだけ不安になった。


 そんなミゲルの心情を理解しているかのように、スフィアの手がミゲルの肩にそっと置かれた。


「それが?」


 ミゲルはやや挑発的に返してみる。が、特にミゲルの挑発がフルカスに届いている様子はない。表情の変化も……ほとんど見られない。


「あぁ、うん。結構彼らって知名度あるよね?例えばダンジョンの攻略レコードを更新したりとかさ。ミゲルさんも彼らと一緒に行動しているってことだけど、ボクはミゲルさんのことは一切知らないし」


 ミゲルの眉が一瞬だけピクリと動く。

 挑発がフルカスに届いているかはよくわからない。よくわからないが、フルカスはナチュラルに煽ってきている。それだけは間違いない。


「でもね?実際に会って受けた感想だけど、正直名前が売れるような連中には思えないんだ。なんか汚いことをやってるか、もしくは凄く運がいいか。どっちかなんだろうな?って思ったよ。だからミゲルさんたちはさ、良かったらボク達と一緒に来ない?ミゲルさん達とならいいパーティが組めそうな気がするんだ」


 そう言って、フルカスはミゲルに握手を求めてきた。

 もしこの手を握り返したのなら、俺たちとフルカス達によるパーティが成立となるんだろう。だがその決断はファクト達との決別にもつながる。要するにファクト達に対抗するために手を組もうと言ってきているのだから。


 だがこの提案に対して、ミゲルがYESともNOとも言う前に横槍が入った。もちろんその横槍を入れたのはグレンである。


「おいっ!フルカスてめえふざけるんじゃねえぞ?俺たちとのパーティを解消する気かよ?」


 グレンは慌てと怒りをない交ぜにしたような表情でフルカスを睨み付ける。が、当のフルカスは涼しい顔だ。


「大丈夫ですよグレンさん。ミゲルさんがボクの手を取ってくれるのであればそれも考えますが、(ミゲル)はボクの手を取りませんから」

「ちっ相変わらず食えねえ奴だ」


 にこりと笑って手を引っ込めるフルカス。ミゲルにはその冷めた笑顔が不気味に見える。間違ってもフルカスとパーティを組みたいとは思わない。いや、思えない。フルカスの対応に対して舌打ちするグレンだが、そのつもりはなくとも負け惜しみをしているようにしか見えない。


「期待してますよ?ミゲルさん達の名前が売れることを祈ってますよ」


 フルカスは微笑を崩すことなく、ミゲルに向かってそう言ってのけた。



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