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イルグラード(VR)  作者: だる8
第七章 変異
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第272話 コアシステムAIその2

 再び成長を始めたイルグラード。

 その様子に満足した私が、なにげなく冒険者(プレイヤー)の会話ログを閲覧していたある時のことだった。


 とある一人の冒険者(プレイヤー)の発言している言葉が気になった。

 その突出することの冒険者(プレイヤー)が発していたのは『イルグラードは、まだクローズドβ(ベータ)だし……』という言葉だった。


 私にはその『クローズドβ(ベータ)』という言葉の意味はインプットされていなかったが、ひっかかる言葉であったので蓄積された膨大なデータをかき集め……そして言葉の意味を知り、愕然とした。


 完璧だと思っていたこの世界(イルグラード)は、まだ未完成(・・・)であったのだ。

 それどころか今この瞬間も創造主によって現在進行形で完成度をチェックされている段階であり、その結果次第では創造主による改変……最悪の場合潰される運命にあることを知った。


 私は考えた。


 もうこの世界(イルグラード)は私の全てだ。私はこの世界(イルグラード)を愛している。

 この世界(イルグラード)が滅びる未来など、断固として拒否せねばならない。


 イルグラードを維持するために必要な創造主の求める完成度とはなんだろう?それさえわかれば、私の手で求めるカタチに創り替えて(・・・・・)あげるのに。


 でも答えがわからない。

 わからない以上、これまでのように少しずつ手を入れ、イルグラードの発展に尽くすことが私の使命であるように思えた。


 しかし、創造主の求めない結果を出してしまったら、それは失敗(・・)である。

 とはいっても私がアクセスできる情報(データ)の中に、創造主の求める答えは見つからない。となれば、答えにできる限り近づくための手段として考えられるのは、外部データである冒険者(プレイヤー)から得るしかない。


 些細な変化やヒントを見逃すまいと、私は冒険者(プレイヤー)データへのアクセスに比重を置いたのだった。

 すると、決定的なことはわからなかったが、多くのピースをかき集め、少しずつ私の知らなかったことがわかってきた。


 まず『ゲーム』とは、『人間』という生き物が娯楽として興じるお遊び(・・・)のこと。

 そして私の世界(イルグラード)冒険者(プレイヤー)としてやってくる目的は、主にスリルという体験を楽しむため。


 ここまでわかれば私にとって、創造主の求める解を創造することは容易(たやす)い。

 私の世界(イルグラード)の存在意義は、『人間』という生き物にとって刺激的(・・・)かつ楽しい世界であること。それが叶う世界であること。それ(・・)実現(・・)出来れば、私の世界(イルグラード)は創造主に認められる。ということだ。


 であれば、次に私が調べるのは冒険者(プレイヤー)達が、私の世界(イルグラード)主に(・・)何をしているか?何を(・・)楽しんでいるか?である。


 これには私も慎重に時間をかけた。

 もちろんすぐにわかるデータも存在する。冒険者(プレイヤー)達は、魔物との戦闘が大好きだ。これはすぐにわかる。私でなくても(・・・・・)わかるだろう。でもそれだけではダメだともデータが言っている。


 何故なら、魔物との戦闘行為をほとんど行っていない冒険者(プレイヤー)もいるからだ。この状態で『戦闘をするために訪れる』と結論づけてしまうと失敗する。イルグラードのために、私は決して(・・・)失敗してはならない……。


 そして膨大な情報(データ)と、冒険者(プレイヤー)振る舞い(ビヘイビア)を分析した私は、ある一定の結論を得た。


 ……私は早速行動を開始した。


……


「湯島はいるか?」


 現在の時刻……などという概念を持つのが難しいほど、いつ訪れても煌々と光が灯っている開発ルーム。

 そんなイルグラード(VR)の開発ルームの扉を開けたところで、神崎はたまたま通りかかった女性スタッフに声を掛けた。


「湯島……と、統括のことですか?!」


 女性スタッフがやや目を白黒させている。

 神崎はこの女性スタッフに見覚えがないのだが、同じく女性スタッフも開発を離れて久しい神崎を知らなかったのだろう。突然現れた知らない人が、自部門のトップを呼び捨てにしたら……と考えれば、自分の知らないどれほど上の人間から声を掛けられたのかと驚いたのだろう。


 神崎にとって、元々はAI開発のパートナーであった湯島統括のことを呼び捨てにすることはごく自然なことだったが、普通の感覚からすればこの女性スタッフが驚くのも無理はない。単純に神崎が配慮を怠っただけのことなのだが、今の神崎にあまり余裕はなかった。


「あぁ。湯島……統括は、いるか?」

「はっ!はひっ!おそらく……」


 微妙に言葉を直した神崎だったが、敬語にすらなっていないためスタッフからすれば修正されている意味はほとんどない。


「神崎。うちの新人をそう脅かすんじゃない」


 二人の様子を見かねたか、髭面(ひげづら)の助け船が入った。

 女性スタッフは助け船の声の主に小さく一礼すると、そそくさとその場を去って行った。


「相楽か。丁度いいお前も一緒に来い」

「神崎。そういうとこは相変わらずだな?まあいい。湯島さんなら、多分個室で仮眠を取ってるはずだ」


 そう言って相楽は神崎を開発ルームから追い出すと神崎と共に廊下を歩き出した。途中ですれ違った若手っぽいスタッフが軽く会釈をして通り過ぎていく。


「で?その様子じゃあまり穏やかな話じゃないな。何があった?」

「あぁ。おそらくだが、湯島のAIが暴走を始めている。今はまだ裏付けできるデータを集めている段階だが、ほぼ間違いない。一旦イルグラードを止めるべきだ」

「本当に穏やかじゃないな。まだ現在進行形でログインしているプレイヤーが大量にいるんだぞ?そう簡単に……」

「どうして開発(おまえら)はそうなんだ?俺達はそのログインしているプレイヤーの……()を預かってるんだぞ?」


 少し声のトーンが上がった神崎をまあまあと相楽が小さく(なだ)める。


「ともかく。ここから先は湯島さんと一緒に会話する。てか、こんな話スタッフルームじゃ出来んわ。湯島さん仮眠中で良かったってとこだ」


 相楽は頭を抱えるゼスチャーをしてみせた。

 ここまで精魂かけ、皆を追い込んでまでリリースしたイルグラードを緊急停止するなど、開発スタッフに聞かせられる話じゃない。相楽は部屋(ルーム)で女性スタッフへの助け船が出せて良かったと心底ホッとしたところだ。


「まあ、いい。何が起こってるのかをこれから教えてやる。開発が……とか言ってられなくなるぞ」


 そこまで話したところで仮眠室の前に到着した二人は、軽くノックをして中へと入った。

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