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イルグラード(VR)  作者: だる8
第七章 変異
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第273話 湯島の見解

「誰だ?誰も入るなって言っておいたはずだが?……あぁ、神崎か。じゃあ話なんて聞かないか」

「随分な言われようだ。だがまあそれどころじゃない」


 仮眠室の右奥に設置された簡素なベッド。そこで上を向いて寝転んだままの湯島統括。首の角度を少し変えて来客の姿をチラッと確認するとすぐに上を向いてしまった。神崎の姿が見えたところで特に起き上がる気もない様子である。ただ神崎の言葉に小さく眉をひそめたのみだが、そんな表情の変化は神崎のところからは見えない。


 その神崎の後ろから相楽の姿も現れた。


「申し訳ありません湯島さん。神崎のやつがどうしても……と」

「なんだ相楽もいたのか。あんまり寝てないんでちょっとくらい休みが欲しいんだがな?」


 神崎は相楽の言葉を背中に聞きつつ、ずかずかと湯島の寝るベッドのところまで歩いて行く。そして無機質に並べられた隣のベッドにドカッと腰をかけた。その様子を実に迷惑そうな表情で湯島がにらみ付けたが、神崎が気にする様子はない。

 そんな神崎の隣に相楽がやや遠慮がちに腰をかける。


 そこまできて、湯島はゆっくりと身体を起こした。

 ベッドの上にあぐらをかいて座った湯島は、そのままもたれかかるように壁に背中をつける。


「で、なんのようだ?」


 小さくあくびをしながら、湯島は神崎を見る。

 神崎は真剣な表情を崩すことなく湯島の視線を受け止めると、ゆっくりと切り出した。


「単刀直入に言うぞ。恐らくコアシステムAIヘレネは暴走した。今、その証拠となるデータを集めているところではあるが、すぐにイルグラードを止めるべきだ」

「根拠は?あぁ、言葉が足りんな……つまりだ。聞きたいのはだな、今おまえが必死で集めている細かい証拠データではなく、おまえ(・・・)暴走(・・)したと判断した理由のことだ」


 証拠は?……の言葉にすぐに反応しそうになった神崎を手で制した湯島は、そのまま言葉を続けた。

 相楽も隣で神妙な顔つきで座っている神崎を見る。


「決定的に暴走(・・)と断定したのは、ヘレネが管制(こちら)呼びかけ(クエリ)に応答しなくなったからだ。だが、決してヘレネが止まっているというわけではない。ヘレネの稼働ログは正常に……いや、平常時以上に元気にログを吐いている。システム上は正常に見えるが、呼びかけ(クエリ)に応答しないのは明らかにおかしい。覚えてるだろ?湯島。かつて開発段階で同じようなことがあったよな?あれはヘレネではない前世代のコアシステムAIだったが、同じように応答しなくなり……数時間後に世界を改変させて崩壊させたよな?」


 湯島は右手を顎にあて、少し伸び始めた髭を触った。


「同じことが起こる……と?」

「間違いないな。このままでは近いうちにイルグラードは崩壊する」


 少し考え込み、顎の髭を遊ぶように(いじ)っていた湯島だったが、ここで湯島は相楽を見た。

 すると相楽の表情が少し堅くなる。


「俺だって阿呆ではない。過去の失敗をそのままにしておくほどな。相楽、あのパッチは当ててあるんだろ?」

「ええ。AIチームの丸川から適用した(・・・・)と報告を受けています。ですので適用済という認識ですね」

「そうか。丸川の言葉を信じるなら、暴走をしたとしても影響は最小限で食い止められる筈だ」


 と、そこで湯島が軽く身を乗り出した。


「ということで、何の心配もない。俺はまだ寝足りないんだ。出てってもらえるか?」

「いやいや。何も解決してないだろう。丸川が適用したパッチって、具体的に何をするんだよ。相楽は知ってんのか?」


 神崎が刺すような視線で相楽を睨み付ける。が、相楽はお手上げといった様子だ。


「残念ながら内容は知らない。PL(プロジェクトリーダー)として実施の進捗管理をしたまでさ。知ってるだろ?俺の専門はグラフィックだ」

「そうかも知れないが、そういう問題じゃないだろ?コアシステムAIの致命的(・・・)なエラーを解消するためのパッチだってんだぞ?PLなら少なくともどんなものかぐらいは押さえておけよ」


 神崎はアテにならない相楽から視線を外し、再び湯島を見た。


「もちろん説明してくれるんだよな?」

「……そろそろ寝かせて欲しいんだが?」

「対策に妥当性があって問題ないならいくらでも寝ればいいさ」


 神崎にこの場を立ち去る様子はない。やれやれといった様子で湯島が小さくため息を一つつく。


「単純な話だ。前の失敗作(コアシステム)が何故世界を崩壊させることができたか?を考えればその対策は自ずとわかるだろ?簡単に言えば世界を構成するデータが格納されているデータプールへのアクセス権を取っ払っただけだ。もちろんデータプールも暗号化した上で鍵もかけている。ヘレネの扱えるデータ範囲じゃ突破できない。以上だ」

「湯島……本気でそれで大丈夫と思ってんじゃないだろうな?それに問題はいわゆる世界構成データへのアクセスじゃない。ゲームバランスやゲーム内の仮想人格だって立派な世界を構成するデータだ。そのデータに対するアクセス権はどうなってる?ちゃんと操作できないようになってるか?」


 神崎の主張を聞きながらもすでに寝る気満々で一度横になった湯島だったが、神崎の剣幕に答えるように再びゆっくりと身体を起こした。


「俺のコアシステムAIは、もともとゲーム内の自動修復(メンテナンス)も含めて役割を与えてるんだ。むしろプレイヤーとAI魔物のバランスを見て、最適化してくれるくらいの行動はヘレネの行動として最初から想定済みなんだよ。じゃないとAI性能で運用コスト削減なんてできやしないだろ?だからそこは問題ない。そしてもっとも致命的になる世界構成データへのアクセスはさせない。だから、問題はない。さあもう戻れ。俺は眠る」


 湯島はそう言うと神崎がその場にいることなど気にせず、布団に潜り込んでしまった。

 その布団を引っぺがして首根っこをつかみ……などということは、さすがの神崎でもすることができず、その場で深いため息をついた。


「神崎。俺の方でも少し調べてみる。湯島さんが作って丸川が適用したっていう暴走対策パッチの中身……実態をな」

「あぁ……すまんな。できれば結果がわかり次第教えてくれ」


 神崎は相楽とともに湯島のいる仮眠室を出た。


「一つ聞かせてくれ」

「なんだ?」


 相楽が改まって神崎に声をかける。そんな相楽に向かって神崎はチラっと振り返った。


「おまえはここに来る前に『ログインしているプレイヤーの()を預かってる』と言ったな?あれはどういうことだ?」


 相楽の質問を聞いた神崎の足が止まる。


「プレイヤーがどうやってイルグラードにログインするのか。そしてどうやってこちらに戻ってくるのか。そのプロセスをよく考えろ。そして暴走したヘレネに何ができるのか?を併せて最悪の事態を想定するんだ」

「……まさか?」


 相楽の表情が一気にこわばった。


「そういうことだ。コアシステムAI(ヘレネ)が間違いを起こしたら、イルグラードで人が死ぬぞ」


 神崎の言葉は低く、重いものだった。

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