第207話 炎の魔石
『そうだなぁ……だいたいこんなとこかなぁ?』
カウンターをガサゴソとあさっていたクリエダが出してきたのは、いくつかの薬品系アイテムの納品クエストだった。薬師のフィーロならともかく、残念ながらオレにはその辺のアイテムを『調合』することが出来ない。
となれば、もともと請け負っている納品クエストで処理するしかないか。
その中でも……特に実入りが良さそうなのは、
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回復薬中の納品(束)1,500G/10個
魔力粉の納品(束)6,500G/10個
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この辺だろうな。
とりあえずすぐに用意できる分として、回復薬中を20束、魔力粉を10束納品し、95,000Gほど現金化した。これだけあれば、エルナへの借金返済分としての65,000Gのほかに魔石素材の購入資金も30.000Gほど確保できる。
現金としてGを保持するより素材のまま持っていた方が良いと考えるのは、調合士ならではの発想だろう。オレとしても魔力粉が減りすぎるとまたマンドラゴラを集めまくる必要が出てきてしまうので、これ以上の現金化はしない。
ちなみにクリエダによると魔石系だろうとなんだろうと、素材の売価はギルドも素材店も変わらないそうだ。
じゃあ何故わざわざ差が付けられているかと尋ねると、そこは店としての付加価値の問題らしい。
ギルドショップではギルド員が納品した素材在庫数に即した数を販売し、数を越えたら売り切れ扱いになる。それに対して素材店では販売されているラインナップが変わらない代わりに、売り切れもないというメリットがあるとのこと。
改めて言われてみるとその通りだ。だから、ギルドショップにはレア素材などの掘り出し物が並ぶことがあるのだ。ここに来るにあたって、ギルドショップカウンターが混雑していた理由をそれとなく聞いてみると、大量の強化系アイテムがギルドに納品されたことで数量限定で販売されたからだそうだ。
フィーロのやつ、相変わらずいい商売してるな。
……話は逸れてしまったが、オレが今回検討している素材は主に『炎の魔石』である。素材店に売られていることはエルナと一緒に行って確認済みなので、価格差がないのなら、わざわざギルドショップで買わないといけない理由もない。
オレはもう一度素材店を訪れて魔石系素材を仕入れていくことにして、調合士ギルドを後にする。
外へ出る際に再び混雑したギルドカウンターを横切ったが、オレには同じ人がぐるぐる何度も並んでいるだけに見える。
この人達はヒマなのかね。まあそれぞれの楽しみ方があると思うので、カウンターに列を成して並ぶ楽しみ方を否定はしないが……オレだったら並ばないというだけで。
外扉を開けると、既にエルナはそこで待っていた。オレの姿を確認すると、笑顔で手を振ってくる。
なんでもエルナがギルドに寄った理由は、剣士に昇格するにあたって世話になったギルドマスターに挨拶をするためだったらしいのだが、王都のギルドには居なかったとのこと。
どっかの調合士ギルドと違って、さすがは多忙そうな戦士ギルドのマスターだ。エルナの話を聞く限り、分身を使ってなんちゃって対応をしているうちのギルドマスターとはずいぶん違う。
と、そんなわけでそこそこ外で待たせてしまっていたようだ。
申し訳ないと思いつつ、早速エルナに複合弩の借金返済をする。
「えぇっ?別にいいのにぃ」
などと言ってくれるが、こういうことこそしっかりしておいた方がいい。
現実だろうが仮想だろうが、お金の問題は良くも悪くも関係をこじらせるもんだ。
所持金が30,000G程度となったところで、オレはエルナと共に再び素材店を訪れる。
調合士ギルドのショップカウンターの混雑具合を考えると閑散とした雰囲気だが、冒険者がゼロというわけでもない。確か《調合》をしなくても、魔法使いや探索者の魔法の支援が出来るんだっけ?
自分に関係ないのであまり詳しく覚えてないが、例えば炎の魔石を使って火炎系魔法を使うと威力が上がるとかそんな使い方じゃなかったかと思う。どう使うのかはよく知らん。知りたい時にげいるにでも聞けばいいだろう。しゃべってくれるかどうかは分からんが。
欲しいのは当然『炎の魔石』だ。
言うまでもなく火炎陣の《調合》に必須の素材である。
だが、初期街にはこうした素材店はなかったので、品揃えが気になる。
店内を軽く見回す程度ですぐに目につくのは『火の魔石』のような属性系の魔石素材だ。それからクリエラが調合レシピとしてはハズレだと言った『魔力粉』も束で置かれている。確かに目新しい素材というわけではなさそうだ。価格も700G/個、6,800G/束とリーズナブルだ。
まあ《調合》できるから要らんけどな。
ちなみに『炎の魔石』の価格は3,200Gとなっている。
魔石系は大体同じような価格で統一されているが、光属性と闇属性の魔石のみえらく高く設定されており、一個あたり10,000Gだ。何に使うか知らないが、今のところ必要なくて良かった。
所持金の全力を使えば9個は買えそうだが、少しくらい余裕は持たせた方がいいだろうという何の根拠もない理由で『火の魔石』を7個購入した。
そして、その場で魔導具火炎陣を制作する。
周りにいた冒険者の何名かがそんなオレの行動を見て不思議そうな顔をしていた。調合士という職の実態を知らなければ、オレが何をしたのかの想像もつかないのかもしれない。もちろんエルナは笑顔でオレの様子を見ている。
これで火炎陣を7回使えるようになった。多少は戦闘でも役に立てることだろう。
レシピさえあれば水や風の魔石を使って面白い魔導具が《調合》できそうなんだが……レシピが無くても想像とアイデアで作れたりしないのかね?その辺はクリエラに聞いてみるとしよう。
「そろそろいくか」
「おっけぃ!」
素材店を出たオレはエルナと共に王都『ベル=フレッタ』の中央通りに向かう。すると丁度向かいにあった店からミゲルとスフィアさんが出てくるところだった。
スフィアさんの……服装?装備?がえらく豪華になって見えるのは気のせいだろうか……気のせいということにしておこう。ミゲルの見た目には変化がないが、表情には少しばかり疲れがみてとれる。
確かに猫の仕事って、わりと重装備が多い傾向だからな。魔法使い向けの装備をつくっているイメージがない。やりゃ出来るのかも知れないが。
「ミゲル。ガドルとげいるはどこいった?」
「……」
「ミゲル?」
「……あ?お、おぅ。わりぃ。あいつらはそれぞれ別行動だ。ギルドに行くとは言ってた気がするが」
オレの問いに反応のなかったミゲルに、エルナが改めて声を掛けるとそこで初めて気づいたような返事が返ってきた。大丈夫か?心ここにあらず状態だ。
「ちょっと、ミゲルに色々お買い物してもらったので」
「あ、あぁ。そうなんだよ」
スフィアさんの笑顔が初めて怖く見えた瞬間だった。
深くツッコむのはやめておこう。オレの危険回避アンテナがそう悟っている。……スキルとは異なる『虫の知らせ』だ。
「別行動だが、多分シナリオが始まる王城に向かうはずだ。あっちで合流しようぜ」
ちょっとだけ元気を取り戻したミゲルの声に従い、オレたち4人は中央通りをそのまま抜け、王城へと向かった。
げいるの行動はよく分からないことが多いが、猫は連絡も取れるしどうにでもなるだろう。




