第208話 東側世界
王都『ベル=フレッタ』の王城は、街から見ると湖面に堂々とそびえ立っているように見える。
その優美な姿はさながらフランスの世界遺産『モン・サン=ミシェル』を思わせる佇まいであったが、近づくにつれてその全貌が明らかになっていく。
要するに城の周りに巨大な堀を作り、そこへ巨大湖セプテルから水を引いているような構造だ。そしてその堀を飛び越えるかのように王城へと続く巨大な石橋が、街の中央通りに繋がっている。
仮想世界だというのに、そうした現実でも通用しそうな演出がにくい。
オレはその妙に納得感のある絶景に、思わず見入ってしまう。
「完全に観光気分だ」
「ほんと!凄いよね。アカシアも綺麗だったけど、王都も本当に綺麗」
お上りさん状態のオレとエルナは景色を堪能しつつ、キョロキョロしながら巨大橋を進む。その後ろをミゲルとスフィアさんがゆっくりと歩いてついてくる。
「なんだ?ミゲルは驚かないのか?」
「……あぁ、さっき少し見てきたからな」
「なんだ、そうか」
オレ達が武器屋や素材店に行ったりギルドでクエスト消化をしたりしている間に、ミゲル達は王都内をひとまわりしていたようだ。それならオレたちほど驚かないのも理解出来る。
それにしてもイルグラードには景色に拘っていると思われるスポットが多い。プレイしている側からすれば、視覚的にも楽しめるのでありがたいことこの上ないが、作り込むのは大変だったろうと思う。
デザイナーにお城マニアとかいるんだろうな。
「そう言えば、ストーリーの開始って王城で開始……ってみんな言ってるが、どうして王城から始まるんだ?そもそもオレ達冒険者が、ご立派なお城に招かれるとかどういう理由になってたんだっけか?」
RPGの定番と言えば、プレイヤーが始まりのお城で王様と会話して……っていうのは鉄板展開ではある。しかしそもそも流れものである冒険者が、一国の主である王様に会う機会とか普通あるか?と思ってしまう。
ゲームなんだから良いじゃないか?と思考停止して楽しむのも一つの選択肢だが、どうしても気になってしまうものは仕方ない。
大体そういう時は何かしらの理由をこじつけて王様への謁見を強引に裏付けたりしているものだが……はて?イルグラードはどうだったか?と。
隣を見るとエルナもよく分かっていないようで、首を傾げている。
「ファクトさん。最初に配られたマニュアルは読みました?」
「ん?マニュアル?」
なんだっけ?と思いながら記憶を辿る。
あ、もしかして宅配で最初に受け取ったあの分厚い冊子のことか?だとしたら……チラ見しただけだな。うん。
中身の記憶なんて全く残ってないし、読んだうちには入らないだろう。
「ん。読んでない!」
「わたしもそう言えば読んでない」
「……ですよね」
良かった。エルナも読んでないようで。仲間だ!
「実は王城からストーリーが始まることはマニュアルに書いてあるんです」
なんと。そうだったのか。
……いやまあ普通は書いてあるよな。オレが面倒くさがって読まなかっただけのことだ。
しかもあとからイズダテもいろいろ説明してくれていたが、それすらちゃんと聞いてなかったくらいだからな。そんなオレがちゃんと分かってるわけがない。そう言う意味ではよくよく考えると、オレにストーリー展開など気にする資格がなかった。
「そうなんだ!知らなかった。ちゃんと読んでなかった。到着するまでに良かったら教えて?」
エルナ。本当に助かる。
オレが言い出しにくいことでもエルナなら言える。言ってくれる。とってもありがたい。
「いいわよ……そもそもイルグラードっていう世界はね……」
こうしてスフィア先生による世界設定の講義が始まった。
熱心に聞いているのはエルナとオレ。ミゲルは今更なようで、特に興味を示している様子はない。
スフィアさんによると、つまりこういうことらしい。
イルグラードという世界は周囲を山岳地帯で囲まれた盆地のような世界。そして中央に位置する巨大湖セプテルを境に、世界は東側と西側に分かれている。
そして東側世界を治めるのが『ベル=リアーナ王国』……つまり今、オレ達がこれまで活動してきた世界だ。
西側世界にもかつていくつかの王国があったのだが、山岳地帯の外からやってきたという魔族と呼んでいる異民族によって西側世界は滅ぼされた。今では西側は魔族による暗黒の世界となっている。
これまで魔族の侵攻を退けてきた『ベル=リアーナ王国』であるが、魔族の脅威は日々強大化していて『ベル=リアーナ王国』は防戦が続いており、対魔族国との戦いで窮地に陥っている。
『ベル=リアーナ王国』は国内の各ギルドに呼びかけ、戦力として力ある冒険者を募っている。さあ世界の窮地を救うため共に立ち上がろう!……というのが、このゲームの一番の目的だそうだ。
へえ……初めて知った。
いや、普通は始めるときに理解しておくべき話ではあるが、聞いておいて良かった。前提の目的も知らずにストーリー始めてたら、楽しみが半減するところだった。
個人的に一点だけ違和感。
そうやって冒険者同士の協力を求めようとするゲームなのに、なんでPK上等の『盗賊職』があるんだろ?と。
ストーリーをちゃんと進めればその辺も分かるんだろうか?
「と、大体こんなところね」
「ありがとう!すっごくよく分かったよ!」
おっと。スフィアさんの説明が終わったようだ。
またかよと言われそうだが、盗賊のことを考えていたら最後の方をすこし聞き逃してしまった。まあ大丈夫だろう。一番大事な世界観と目的のところは聞けたし。
そうこうしているうちに王城へ向かう石橋も丁度渡りきり、目の前には荘厳な王城の門が見えてきた。
門前にはそこそこ冒険者が集まっており、街の中より混雑している。
「お、げいるじゃねぇか!先に着いてたのかよ!」
ミゲルが手を上げると、門前に佇んでいた目立たないフードの男も軽く手を挙げた。たしかにあの佇まいはげいるだ。
相変わらず地味だなぁ……。ミゲルが声を掛けなかったから居たことに気づかなかったぞ。
門前が混雑しているのは、このげいるみたいに待ち合わせに使っているからかもな。
……と、まだ猫の姿は見当たらないか。
オレはげいるの周囲に視線を配ったが、猫らしき姿は見当たらない。
「げいる、うちのガドルは見てないか?」
「……(首を横に振る)」
まだ来てないのか。それならここで猫を待つ感じになりそうだ。フレンド通信で声掛けてみるか。
「ん~ここは冒険者が多いな。街ん中よりよっぽど多いじゃねぇか。なんでだ?」
どうやらミゲルもオレと同じ疑問を抱いたようだ。そりゃそうだ。これだけあからさまに人口密度が違えば不思議に思う。
だが、その答えはげいるが教えてくれた。
ミゲルの疑問を聞いたげいるが、門の上の方を指差したのだ。そこには……
(この先は4人以上のパーティを組んで進むこと)
と、でかでかと説明分が浮かんでいたからだ。
さっきまでそんな文字は出てなかったような気がするんだが……錯覚か?ともかく理由はわかった。
やっぱり待ち合わせで間違いない。あとは、先に進むための仲間補充か。
少人数パーティでここまできてたら、協力して進むしかないしな。オレ達だって、ミゲルたちと来てなかったら3人だ。人数制限に足りてない。
「どちらにしてもガドル待ちか」
そんなミゲルの言葉を隣で聞きながら、オレはフレンド通信で猫に呼びかけた。




