第193話 ミゲルの盾
「そう言えば、まだファクトさんは入ってきてないだな?オラも連絡とれてないだよ」
挨拶もそこそこに再び鍛冶台と向き合い始めたガドル。
鍛冶で装備を作ることがどういうことなのか知らないミゲルとスフィアは、そんなガドルの様子を覗き込んでいる。
「そうよ。ファクトが入ってきたら一緒に王都に行って遊べるようになったストーリーをやってみようと思うんだ!猫ちゃんも一緒に行こうよ!」
「猫だす。……オラもか?いいんだか?」
ハンマーを振るう手を止めることなく、つぶらな猫の瞳がエルナの方を向く。叩いている時に見なくて大丈夫なのかどうか……はよく分からない。エルナのそんな一瞬の心配をよそにガドルは再び視線を戻して材料を叩き始めた。
「もろろんよ!仲間でしょ!」
「ちょっとレベル差が開いただど、迷惑掛けるかも知れないと心配してただ」
「なんだ。そういうことなら心配いらねぇよ」
二人の会話に混ざってきたのはミゲルだ。すると今度は完全に鍛冶の手を止めたガドルが、作業を覗き込んでいるミゲルの方へ視線を向ける。
「ファクトの奴がログインしてきたあと、王都に向かうんだろ?それに俺たちも同行することにした。今はまだ合流出来てねぇが、うちには黒魔法使いもいるんだ。少々のレベル差なんて気にならんように、魔物どもを弾き返してやるから心配いらねえ。……で、実は相談なんだが」
「んだ?」
問題ない!と言いながらも相談を交換条件のように持ち掛けてくるミゲルにガドルは怪訝な表情で返す。といっても実際には猫顔なので、そんなガドルの不安そうな表情は一切表現されることなく、可愛い猫が首を傾げた程度に見えるだけなのだが……。
「あぁ。実はな、盾を作ってもらいてぇんだ。……あ、もちろん代金は出す。材料費も必要なら出そう。どうだ?」
「……どんな盾がいいだ?見たところ盾を持ってなさそうに見えるだども?」
「いや、それがな……」
ミゲルは本来の自らの戦闘スタイルとして、盾を酷使するタンク系戦士であることを伝える。であるにも関わらず現在盾を持っていない理由を説明するため、ミゲルは隠すことなく、盾を消費する自分のスキルについても話していく。
「凄いんだよ!ミゲルの盾スキルは!」
エルナがミゲルの説明に割り込んできた。
まるで自分のことのようにミゲルのスキル自慢をしつつ、直近で向かった《ラミーラ坑道》でファクトと共に助けられたことをガドルに伝える。
「つまりだ……。実戦闘で使用する強い盾とスキルで消費させるような消耗品と両方あるといいだな?そのミゲルさんの盾スキルは、盾の性能に依存するだか?」
「あぁ、影響する。影響はするんだが、良い盾だからってそこまで大きな性能差があるわけじゃねぇんだ。要するに単純に盾の持つ守備値だけの話だから、スキルがついてるような高性能なもんじゃ無くていい。ぶっちゃけいい盾使うのは本当にもったいねぇ」
ミゲルは、回避強化スキルのついたお気に入りの盾で《皇宮の守護者》を使ってしまったことを思い出してため息をついた。
《皇宮の守護者》に盾についたスキル効果は一切関係ない。盾の持つ守備力値だけが、《皇宮の守護者》の耐久値として効果に影響するだけである。
「わかっただ。普段の盾は後から考えるだが、消耗品は鋼鉄製のカイトシールドで良さそうだか?」
「問題ねぇ。それで頼む」
「はい。これだ」
ミゲルが頭を下げたその間に、目の前に差し出されたカイトシールド。あまりの早さにミゲルが一瞬言葉を失う。
「?!なんだ?作り置きがあったのか」
「いや?いま確認したあと造っただよ」
「「「えええっ?!」」」
これにはガドル以外の全員……エルナ、ミゲル、スフィアの三人が驚いた。
ガドルの説明によると、これこそが《戦闘鍛冶》というゴールドマイスタークラスで取得した固有スキルだとのこと。自分の鍛冶レベルに対して下位の装備品は、材料さえあれば戦闘中であっても一瞬で装備品を用意出来るというスキルなのだそうだ。
「お前!すげえな!俺のスキルと相性バッチリじゃえねぇか!」
「痛いっ!痛いだす!」
目を活き活きと輝かせたミゲルがガドルの背中をバシバシと叩いたため、ガドルが悲鳴を上げた。そうとう痛かったようで、大きな瞳がウルウルとしている。
「ミゲル!猫ちゃん虐めたらダメ!」
エルナが二人の間に割って入るのと同時に、スフィアはミゲルの腕を掴み、思い切り引いてガドルから引き離す。
「ミゲル。相手は鍛冶よ?戦闘職じゃないの。手加減をお願いね」
「……お、おぅ」
「スフィアさん、凄い迫力だ……」
上機嫌だったミゲルを笑顔の一睨みで沈黙させたスフィアに、今度はややガドルが驚いている。実は夫婦だから……という内情を知っていると理解出来るのだが、そんなことは知らないガドルには驚きの展開である。
「……痛かっただが、もういいだ。で、これからどうするだ?オラはみんなの装備を造ればいいだか?」
「うん。お願い!で、準備出来たら、ファクトがログインしてくるまで、猫ちゃんのレベル上げ一緒にしてない?」
「そいつぁいいな。戦闘連携の確認も出来そうだ」
エルナの提案にミゲルがすぐに同意する。スフィアも笑顔なので、同意ということらしい。
「わかっただ。是非お願いしたいだ。じゃあオラは装備作りに集中するだ。エルナさん?」
「はいはい?なぁに?」
ガドルに呼ばれてエルナが一歩前に出る。
「刀を打ち直すんで渡して欲しいだ……ん?脇差はどうしただ?」
「あぁ、えっとね。ダンジョンの魔物に壊されちゃった」
エルナは《無心》スキルのついた傑作をデュラハンナイトの攻撃によって刀身を落とされてしまったことを伝える。以降、代わりになる副武器がないままであることも。
「スキルのついた武器はそうそう壊されない筈なんだども……恐ろしい敵がいるだな。わかっただ。脇差に関してはイチから打つだ」
「ありがとう!」
お礼を言うエルナから、以前造った打刀を受け取るとガドルは鍛冶台に向き合った。
「少し、時間が掛かるだ。《戦闘鍛冶》のようにはいかないだど。しばらく外で時間を潰してて欲しいだよ。終わったらフレンド通信でエルナさんに連絡入れるだよ」
「わかった!」
「お、俺の盾は?材料渡してねぇけど?」
ミゲルが慌てて割り込む。
「材料は問題ないだが、予算を聞いてなかっただよ。いくらまで使っていいだ?」
「ぅ……」
言葉に詰まるミゲル。
代金を支払うとは言ったものの、いくらまで出せるか?なんて全く考えてなかった。そう言えばげいるに借りたナイトシールドも返せていない。
「わかっただ。あんまり高い素材を使い過ぎないように、適度に造っとくだよ。素材の代金は貸しとくだ」
「すまん!わりぃ!」
「ごめんなさいね。必ず返させますので」
ミゲルの言葉にスフィアが被せてくる。その様子を見てガドルは頷いた。ガドルの認識の中で『ミゲル<スフィア』という力関係が確定した瞬間である。
「じゃあ外で待っていて欲しいだ」
「またあとで!」
「んだ!」
エルナ達が鍛冶工房から退出するのを確認したうえで、ガドルは集中力を高めて全力で装備品造りを開始したのだった。




