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イルグラード(VR)  作者: だる8
第五章 イルグラードの夜明け
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第191話 アカシアからモルトへ

 エルナにとってイルグラードで最も見覚えのある街並み。それがアカシアの街の中心を貫く中央通りである。

 だが、いつもの見慣れた景色と大きく異なっている光景がそこにはあった。それは……


「人が……いない?」


 そう。住宅エリアから飛び出したエルナが真っ先に違和感を感じたのは、アカシアの街の活気のなさであった。

 少なくともメンテナンス前のアカシアの街には人……つまり冒険者(プレイヤー)が沢山いたはずである。パーティ勧誘が盛んに行われていたアカシアの広場にも数名の冒険者(プレイヤー)の姿が見えるだけで、とても賑わっているとはいえない。


 要するに皆、実装されたストーリーを遊ぶために、王都に向かって出発してしまっていたということである。


 ただし、出かけたからみんな王都に到着出来るというわけではない。

 もともと王都に向かうことの出来る強さのパーティでないと、簡単に王都にたどり着くことは出来ないよう魔物(モンスター)が配置されているため、向かったパーティの全てが王都に到着出来ているとは言えないのだが、そんなことはエルナが知っているはずもなく……。


「うっそぉ……みんなそんなに一斉に王都行っちゃったの?もう誰も残ってない?」


 アテが外れたとエルナはガックリと肩をおとす。方向音痴のエルナにとっては由々しき事態発生である。


 エルナのいるここは『アカシアの街』

 合流しようとしていたガドルのいる場所は『モルトの街』


 特にガドルに確認を取ったわけではないが、支援AIであるセバスの情報網が間違ってるわけはないので、ガドルがモルトに居ることは確実である。


 対象がルーテリアの街でないだけマシだが、エルナにはモルトの街に正しくたどり着ける自信が全く無かったので、声かけしている冒険者(プレイヤー)で『モルト方面』へ向かうパーティがいたら同行させて貰おうと思っていたのだ。パーティへの参加ではなくていいので、ついていくだけならすぐ見つかるだろうと(タカ)(くく)っていたが、とんでもない誤算だ。


「ど……どうしよう。どうやってモルトに行こう」


 エルナはフレンドリストを表示させて、オンラインになっているユーザーを確認する。

 もちろん、モルトへ連れてってくれる冒険者(プレイヤー)を探すためだ。ファクトとパーティを組む前はミゲルと組んでいたエルナだが、更にその前に(さかのぼ)ると臨時で組んでいた知り合いもそれなりに居る。


 既にオンラインになっており、その中でも急なお願いを聞いてくれそうな二組のパーティに声を掛けてみたが、どうやらどちらも既に王都に到着しているようだ。それではエルナの依頼をお願いするわけにいかないため、礼を言いながら通信を切る。


「お願い出来る人が……いない」


 途方に暮れるエルナ。

 こうなったら時間は掛かるかも知れないが、思い切ってモルトに向かって出発しようかと決心を固めようとしたその時である。


 開きっぱなしだったフレンドリストのうちの一人がオンラインになった。その名前はエルナにとって天の助けと言っていいほどの冒険者(プレイヤー)だ。


「ミゲルっ!」


 続いてスフィアもオンラインになる。

 エルナは急いで二人にフレンド通信で話し掛けた。


……


「方向音痴でお困りのお嬢様はこちらかねぇ?」

「ふふふ。こんばんは」

「待ってたよぉ!ありがとう!めっちゃ助かる!」


 しばらくして、アカシアの広場で突っ立っていたエルナの元にミゲルとスフィアが現れた。二人はまだ王都に向かって出発してはいなかったのだ。


「で?お嬢様(エルナ)のご要望は、モルトまでの連れて行くこと……だっけか?ファクトはどうしたんだ?まだいねぇのか?って、そもそもお前らモルトで解散したんじゃなかったっけか?なんでアカシアにいるんだ?」


 不思議そうに聞いてくるミゲルに、なぜ自分(エルナ)がアカシアの街にいるのか?を伝えると、ミゲルは大笑いを始めた。


「くっくっく。はっはっは!お前(エルナ)らしい理由だよ!見境なしにフィールドに飛び出して、んで迷って、たまたまアカシアにたどり着いたって!」

「ミゲル、それ以上笑ったら可哀想よ?」


 自覚はしているものの、方向音痴をそこまで大笑いされると思ってなかったエルナは口をへの字に曲げている。


「俺達はこれからげいると合流出来次第で王都に向かおうと思ってたんだが、まだアイツが入っている気配はねぇしモルトに寄るくれぇの余裕はある。そもそもげいるがどこにいるかもよく分からねぇんだ。俺達もよ……まあなんだ。早くストーリーをやりたい気持ちはあるが、別に早い者勝ちってもんでもねえだろうからよ」

「ですので、安心してモルトまで一緒に行きましょう!」

「スフィアさん!本当にありがとう!」

「どうせファクトのやつも、ログインしたらモルトに現れるんだろ?タイミングが合えば一緒に行ったっていいしな」


 こうして、エルナはミゲルやスフィアの助けを得ながらアカシアの街からモルトの街へと移動することが出来た。

 モルトの街の城壁が見える頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。


「雑魚だが、予想以上に魔物(モンスター)に襲われたなぁ。みんな王都に行っちまってるから、こういうとこの雑魚を狩ってるやつがいねえんだろう。お陰で随分と時間を食っちまった」


 ミゲルがそう愚痴る。これまでの移動時間を考えると、もともと想定していたより倍の時間が掛かっていた。

 エルナと違って、ミゲルは特に迷うこと無くモルトへと向かっている。道は間違っていない。時間が掛かった理由は単純に戦闘に掛かった時間分である。


「若干ですが、フィールドのゴブリンの強さが強化されているように感じました。やっぱりこういうちょっとしたところにもメンテナンスで修正が入っているのかも知れません」

「え~?そうかなぁ?わたしにはそんな風に感じなかったけど」

「そうか。スフィアがそう感じるんなら、そうなんだろうよ」

「ちょっと!わたしの感覚はアテにならないってこと?」


 エルナがむくれる。

 まあチラチラ様子を伺っているようなので、本気の抗議というわけではなさそうだが。


「アテになるわけねえだろ?お前(エルナ)、メンテナンス前後でクラスチェンジしてんだろうが。そんなお前(エルナ)の強さ感覚なんてアテになるかよ」

「あ……そうか」

「ふふふ」


 やり取りを可笑しそうに笑っているスフィア。


「あー!スフィアさんにも笑われた!」


 すぐに恨めしそうな声で反応するエルナ。ただそれもすぐに笑いに変わる。


「さあ、さっさとモルトに入ろうぜ。こっちの街もどうせ閑古鳥鳴いてんだろ」


 三人は、ミゲルを先頭に城壁で囲まれたモルトの街の入り口へと向かう。

 するとエルナがポンッ!と手を打った。


「そうだ!二人をガドルに紹介するよ!腕の良い鍛冶よ!わたしの装備とか全部作って貰ってるんだから!」

「ほぅ……じゃあ、俺の盾でも作ってもらおうかね?」


 ミゲルは盾を構えるジェスチャーをしてみせる。

 《ラミーラ坑道》で無くした盾の補充はまだ出来ていないらしい。


無料(タダ)じゃないよ?わたしは仲間だから作ってもらってて……」

「じゃあ格安で……な。足りねぇ分はエルナが出してくれるとして」

「なんでわたしが?!」

「ここまでの案内料(・・・)だ」

「えぇ~」


 賑やかな会話は、三人がモルトの城門を抜けて街に入るまで続いていた。


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