第183話 アルテミスと盗賊
王都『ベル=フレッタ』の住居区画。
この王都の住居区画はモルトやアカシアそしてルーテリアなどの拠点と違い、所持金で増改築することができる。何より大きな違いは、他の冒険者を招待できる区画を作製出来ることだ。
そんな『ベル=フレッタ』の住居区画に一つの豪華な招待区画を構えた部屋があった。
部屋の中は多くの高級調度品が並べられ、中央には革製……のようなソファが設置されている。
が、よく見るとおかしな点があった。
部屋の中が常に帯電しているかのようにパチパチと小さなスパークがそこかしこに発生している。
「ボス、失礼いたしま……」
一人の冒険者の男の声と共にその部屋のドアが開く。
同時にバチッ!という衝撃音とともに激しい放電が起こり、ドアを開けた声の主が外へと吹っ飛んでいった。
「何の用?気分最悪なの!今入ってこないでくれるっ?」
既に聞こえているかどうかも分からない吹き飛んだ冒険者に向かって、全く苛立ちを隠していない不機嫌そうな声が飛んだ。
「おいおい。いくら気が立ってるってったって、いきなりそりゃねぇだろう?仮にも部下で仲間だぞ?」
そう言って吹き飛んだ冒険者を抱えながら入ってきたのは、盗賊で若頭と呼ばれている男……ベネットだ。
「ふん?!あたしが苛立ってるの分かってて、そいつを先に寄越したのはアンタでしょ?何の用?」
「……なにってほどの用じゃねえさ。負けたんだってな?ダンジョンボスごとき……おぉっ?」
若頭が言い終わる前に、部屋いっぱいに充満していた雷の魔力がバチン!という恐ろしい音と共に一瞬にして放電する。
「あたしに喧嘩売りに来たのかい?いいよ買うよ?ギタギタに分解してあげるっ」
「待った!待てって!……ぐおっ?!」
部屋の中で稲光と雷鳴が轟くと、今度は四肢をもがれた状態で若頭が部屋の壁に激突した。そして一撃で虫の息となった若頭に回復魔法が飛んでくる。
「ったく。毎度毎度言いようにバラしてくれやがって……」
「ふん。あたしの傷にわざわざ塩を塗りに来るからいけないのよ?ちゃんと回復させてあげてるんだからいいでしょ?」
「……そいつを拷問っていうんだよ。おい!そろそろお前も起きろや」
若頭は最初にボスに吹き飛ばされた冒険者の頭をペシッと叩く。
頭を軽くハタかれた冒険者は、うーんという小さな唸り声をと共に、ゆっくりと頭を上げた。見覚えのある顔だ。
「あ!若頭!えっと……あれ?」
「フィリップ、いつまで伸びてんだ。もうお前の用は終わった。戻って良いぞ?」
「あ!はい」
完全に目を覚ましたフィリップはそそくさと部屋を退出していく。一番最初にまんまとファクトから金を巻き上げたものの、反撃でレア装備を失った盗賊だ。
「可哀想に。完全に雑用駒扱いじゃない?」
「それをボスが言うなや。ボスの機嫌一つでいいように攻撃されるこっちの身にもなってくれねえと」
「あら?人聞きの悪いこと。ただ、貴方が強くなればいいだけのことなのにね?」
ここでボスは初めて姿を現した。雷撃の賢者……アルテミスその人である。
「そいつは言わねぇ約束だぜ。いずれぶっ倒してやるから首洗って待ってろや」
「……えぇ。楽しみに待ってるわ。それで?」
アルテミスはフワッと重力を無視した動きで宙を舞うと、若頭の視線の先にある一際豪華なひとりがけのソファに座り降りた。
「先に言っておくが、別にボスを軽んじてるわけじゃねえ。その上での話なんだがボスが討伐出来なかったっていう《ラミーラ坑道》のボス、俺達の手伝いはいらねえか?最近ヒマでよ?手応えのあることなら、ちょっとやってみてえんだよ」
実際には鳴ってないが、回復した身体をポキポキと鳴らす仕草をしながら若頭はぼやくように訴える。
そんな若頭の様子を見たあと、アルテミスは静かに目を閉じて首を横に振った。
「ダメよ。アレはあたしの獲物。どうしても戦りたかったら、仲間連れて勝手に行ってくるのね。あたしは同行しないわ」
「なっ!なんでだよ?ボスがいねえとあの第二階層突破出来ねえだろうがよ!」
若頭の反論を聞いた途端に、アルテミスの表情が険しくなった。そしてその両手からバチッと強烈な雷放電が起こる。
「なに?アンタ?甘えてんの?ふざけたこと言ってんじゃねぇよ。やっぱりいっぺん死んどく?」
「ちょ待て!待ってくれ!横暴はマジでやめてくれ。……それに無茶言うなや。あんな特殊能力が必要なダンジョン、一般能力の冒険者には無理ゲーだろうが。ボスの他にあんなところへ誰が行けるってんだよ?」
若頭の反論を聞いてキョトンとするアルテミス。そしてニヤァと意地悪い笑みを浮かべた。
「だから甘えてるって言ってんのよ。居るわよ?第二階層突破してる連中」
「ぇ……?!マジかよ。って、そいつもボスと同じ気配消す能力を持ってんじゃねえのか?」
衝撃を受けている若頭を実に愉快そうに笑っているアルテミス。
慌てている姿がよほど面白いのだろう。
「あはは。アンタのお陰でちったぁ気が晴れた。……どんな能力を持ってるか知らないけどね?職業として持ってる連中じゃなかったことは間違いないね。どうやって突破したのかねぇ?え?アンタの努力と想像力が足らないだけかもねぇ」
アルテミスはソファに身体を預けたまま腕組みをし、そしてゆっくりと脚も組んだ。
「……どこのどいつだ。ボスは知ってんだろ?」
「当たり前さね。第三階層で楽しく会話してきたからねぇ……」
そこで腕組みを解いたアルテミスは手すりを持ってグッと身体を前のめりにしてみせる。
「誰だと思う?……くっくっく。アイツだよ。ファクトんとこだ。ファクトとあの刀持った女……えっと誰だっけ?まあ名前なんてどうでもいい。たった二人で第三階層にいたよ?」
「まさか?エルナか?!」
「あ~確かそんな名前だったかな?女にあまり興味無いんだよ。あたしは」
若頭は一度平原で戦った手練れの少女を思い出していた。
その時にはボスの言うファクトは居なかったが、その後少女がファクトと共に行動していることくらいは当然情報として入手している。
「なんで……どうしてあいつらが第二階層を突破出来る??」
「さぁねえ?どう?この話を聞いても、アンタは甘えてないって堂々と言えるかい?」
前のめりになっていた身体を再びソファに預けると、やや気だるそうに若頭を挑発した。




