第182話 意志薄弱
「……で、あんなにかっこつけて『封印する』って言ったくせにまだ使ってるの?」
ややニヤニヤしながらではあるが、ミアの辛辣な言葉がランスロットの背中に刺さる。一瞬ピクッと反応したランスロットだったが、すぐに気を取り直したように目の前の魔物を切り捨てる。
ランスロットの斬撃は、巨大なトンボのような魔物を真っ二つにしていた。
「だって、仕方ないでしょ?他に武器を持ってないんだから、使わなかったら戦えないよ」
「じゃあなんで『封印する!』とかかっこつけちゃって……」
ミアのからかいがとまらない。普段ランスロットにやり込められているせいだろう。ミアの声が戦場に飛ぶたび、ランスロットの肩がプルプル震えては止まりを繰り返している。
「ダメよ?ミアちゃん。ランスの羞恥心はとっくに限界越えてるんだから」
「そっかぁ」
フォローしているようで、結局ダメージとなるティアナの言葉もいつも通りだ。
銀狼率いる魔狼の群れとの戦いのあと、ランスロットのパーティは特に進路変更をすることもなく、真っ直ぐ南西方向へと向かっていた。
すぐに魔狼の群れと戦闘に入ってしまったので、ミアから南西に向かうことが王都『ベル=フレッタ』へ向かうこととの関連性を聞けずにいたランスロットとティアナだったが、銀狼戦の後でゆっくり聞くことが出来た。
結論から言うと、王都『ベル=フレッタ』は巨大湖セプテルの湖岸に居を構えているらしい。
情報ソースこそ怪しかったが、要するにミアが探索者ギルドで仕入れた『王都への道』とは、同じく巨大湖セプテルに隣接する『湖畔の街アカシアから、湖岸沿いを南下する』と到達出来るというものだった。
そもそも王都『ベル=フレッタ』が巨大湖セプテルの湖岸にあるかどうか自体に信憑性は薄かったが、『湖岸にそって南下』であれば最悪迷うことはないし、逆に北上すればいつかはアカシアに帰還できるということから、ティアナとランスロットの二人も最終的にミアの提案に乗っかった形だ。
ただ……問題はまだ肝心の湖岸にたどり着きすらしないということくらいだ。
周囲の地形は平原から丘陵地帯となり、アップダウンがあるせいで方角や進行方向が分かりづらい。そのため正確に巨大湖セプテルに向かっていたとしても、それが感覚的にでよくわからない状態が続いていたのだ。
それでもなんとか進行方向を維持出来てるのは、ミアがダンジョン探索で得た『修練スキル』のお陰である。
『修練スキル』なので、ダンジョンでのマッピングスキルなど探索者を極めることで得られるスキル系統のものとは少し異なり、『南に行きたいなぁ?』などと思ったときに『それはこっちだね』くらいの感じでなんとなく方角が分かるという特殊スキル……スキル名《羅針盤》である。
昔の帆船などで使われていた本当の羅針盤と違うのは、ダンジョン内でも方角が分かるというものだ。ただし、今のところダンジョンで方角が分かることの恩恵を預かれるシーンには巡り会っていないのだが。
「キリが無いな……」
ランスロットは次々に襲いかかっている巨大な蜻蛉型の魔物を右へ左へと切り捨てていく。その醜悪な風貌と裏腹に簡単に倒せるのは拍子抜けだが、数が痛い。
範囲をターゲットに出来る攻撃魔法が欲しいところだ。
残念ながらランスロットは魔法の使えない戦士だし、ミアは接近戦が得意な支援型。ティアナに至っては完全な回復専門の白魔法使いなので、広域魔法を使える仲間がランスロットパーティには居ないのだ。
「ランス!仕方ないよ!使っちゃお?」
パーティの最後列からティアナの悪魔のささやきが発せられた。もちろん使うというのは魔剣『風神』のことである。
「大丈夫だって!あたしもティアナちゃんも、ここでランスちゃんが『風神』を使ったからって、意思の弱い決意だったねだなんて思わないから!」
「……それ、思い切り言ってるよね?」
あけすけなミアの物言いにやりきれない思いのランスロットであったが、冷静に考えてパーティの戦力バランスとして火力が圧倒的に足りていないことを痛感している。ミアとティアナの二人がいるからこそ、それなりに楽しくプレイ出来ているわけだが、魔物を直接攻撃して倒しきる戦力は?と言ってしまえば、自分しか持っていないのだ。
そんなランスロットパーティにとって、ミアが引き当てた魔剣『風神』はパーティ戦力を大いに高めてくれた。
パーティに足りなかった広範囲殲滅力を得たことで、このパーティは飛躍的に伸びたのだから。
「封印の誓いなんて解いちゃえ!」
「そう!解いてしまっていいですよ!」
ミアとティアナは完全に魔剣『風神』の使用封印を否定し始めた。
タダでさえ『物理的使用』で封印の誓いをあっさり破ってしまったのに、魔力による特殊能力行使まで使ってしまったら……ランスロットとしては負けも同然だ。
が、ランスロットももう我慢の限界だった。
「もう使う!使ってやる!覚悟してよ?とんぼめ!」
ランスロットの気合いと共に、魔剣『風神』はランスロットの魔力を吸って淡く輝き始める。暴走した時のような眩い輝きではなく、今まで使ってきた通りの効果だ。
その状態で魔力の剣身をグッと延長し、一気になぎ払った。まだパーティに到達もしていない魔物の群れまで一斉に散っていく。
《主よ……それで良いのだ。封印など……クックッ。つまらぬコトを考えるでない……ただひたすらに儂を使い、慣れ、制御してみせよ》
魔物の群れの中に飛び込み、夢中で『風神』を振り回すランスロットに語りかけてくる声。
それは紛れもなく、暴走して意識を失う直前に聞いたあの声だ。だが、ランスロットは目の前の魔物に集中する。
そしてあらかた魔物を倒し、敵の群れが撤退していく頃にはもう声は聞こえなくなっていた。『風神』へ、意図的に声を掛けても応答する様子もない。
「随分と一方的な魔剣さんですね。でも、ボクは必ず風神を使いこなしてみせます」
パァっと自分に掛かるティアナの回復魔法を感じながら、自分の元へと駆け寄ってくるミアとティアナの二人をランスロットは笑顔で迎えた。




