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イルグラード(VR)  作者: だる8
第四章 バージョンアップ
184/352

第184話 ベネット

 アルテミスの言葉に若頭(ベネット)はピクリと眉を引きつらせる。そして徐々に額にしわが寄る。


「……あり得ねえ。まさかボス、俺を(たばか)っ……んぐぅ!」


 若頭(ベネット)が言葉を終える前に、どこから発したかも分からない紫電が若頭(ベネット)を直撃……そして直後に優しい回復魔法の光が包み込む。


「懲りない男ねぇ。あたしがアンタに嘘をつく必要がどこにある?相変わらず失礼な奴だ」


 ソファに身体を預けた状態から体勢を一切変えること無く一連の動作をやってのける。紫電の直撃を食らった若頭(ベネット)は、回復魔法を受けつつもその身体はソファから崩れ落ちていた。


「悪かった。確かに俺が悪い。だが、少々の手加減もなしかよ?一回死んだぞ?」

「ふん、それがどうしたのよ?あたしがアンタから受けた屈辱の礼には足りないわ?一遍死ねて丁度いいんじゃないかしら?」

「無茶をいいやがる」


 再びソファに座り直した若頭(ベネット)は、一度だけ相対した少女エルナのことを思い出してみる。

 どう考えてもエルナは戦士だ。その上、器用にこの世界をスキルで生き抜くというより真っ向勝負……要するに戦闘によるごり押しタイプだ。とても単身であの第二階層を越えられるようには思えない。


 と、なると……ボスが一緒にいたと言っていたファクトとやらが要に間違いない。若頭(ベネット)は、まだ直接遭ったことがあるわけではないが、情報として話はいくらでも耳にしている。


 そもそもファクト(・・・・)という名前自体がMMOゲーマーの中では有名なプレイヤーだ。

 様々なMMOにその名前と共に現れ、トップゲーマーとしての名前を残してきている。しかも行動や発言もとても似ているようで、同一人物であることは間違いないとの噂もよく聞くとこだ。


 そんなファクト(・・・・)の名を冠するプレイヤーキャラが、イルグラードにも現れた。プレイ開始早々に初心者狩り(フィリップ)の獲物になったわけだが、なんとそう時間も経たずに反撃されるという事態になったことは記憶に新しい。

 フィリップはプレイヤーとしては並以下だが、あいつが盗賊として入手した擬態(・・)スキルは優秀だ。そもそもが擬態(・・)を行使しているフィリップに反撃をかますなど普通の初心者プレイヤーに出来るはずはない。


 間違いなく有名なあのファクト(・・・・)であろうと考えて、若頭(ベネット)は一度、盗賊団に(ファクト)らの周囲を獲物(ターゲット)にすることを禁じたほどである。

 

 だが……もう、いいだろう。若頭(ベネット)は自答する。

 あいつらはあいつらで単独によるラミーラ第二階層を突破をこなせる力があるってことだ。これ以上離されるわけにはいかない。雑魚連中は無理だろうが、幹部の精鋭達ならなんとかなるだろう。


「おや?なんか悪いこと考えてるね?良い顔してるよ?ベネット」


 気づけばアルテミスがわざわざ近くまで寄ってきて、若頭(ベネット)の顔を覗き込んでいる。


 チャンス!


 射程範囲内にいると認識したその瞬間に、死角にから全力で拳を突き出した。が……若頭(ベネット)の渾身のフックは何故かアルテミスの掌に寄って受け止められていた。拳には言いようのない抵抗感と衝撃が走り、パァン!と嫌な音を立てて弾け飛んだ。


「まだまだね。体捌きでさえあたしに敵わないのに、どうしてそれ以上だった《ラミーラ坑道》のボス戦で助けになれると思ったのやら。……ま、これで嫌でもわかったでしょ?残念だけどアンタの力じゃ弾よけにもならないわ。出直してらっしゃい」


 そう言って背を向けたアルテミスの後ろで、吹き飛んだ若頭(ベネット)の腕がむにむにと再生していく。

 流石に若頭(ベネット)には、もうこれ以上攻撃する意思はなかった。いくら無防備な背中を向けられていたとしても。


「悔しいが、ボスの言う通りのようだ。俺はまだ甘かったらしい」

「わかればいいのよ?それに、次のバージョンアップで盗賊職は少し下方修正されるそうじゃない?まあ元々優遇されてるからねぇ。盗賊の基本能力に加えて通常職をセカンドジョブとして選択出来る上に、レアスキルを最初に三つも選べるとか」


 両手をゆるく広げて『お手上げ』のような仕草をしながら、アルテミスはその場でクルリと回転し、ボフッと軽い音と共に再びソファに収まった。


「普通に考えたらやりすぎよね?まああたし(・・・)には勝てないみたいだけどね?」

「ボスが強すぎるんだ。これでも俺がここまでやられる相手なんざ、ボス以外にいねえぞ?……で、弱体化だと?」

「なんだ。アンタ通知読んでないのかい?情報は武器よ?ちゃんと集めときなさいな」


 アルテミスはこれ以上、盗賊の弱体化について話す気はないようだ。その証拠にローテーブルの上にはいつの間にか紅茶が置かれている。ティータイムはボスのお気に入りの時間だ。興味のない余計なことを口走ると、途端に致死性の紫電が飛んでくる……筈だ。


「自分で調べろっつーことか?まあいい。俺も興味あるからな、AIメイドのねーちゃんにでも聞くわ」


 若頭(ベネット)はソファから立ち上がると、ティータイムに夢中のアルテミスに背を向ける。特に声を掛けられる気配もない。

 そのまま部屋の出口まで歩き、ドアを開ける。


「バージョンアップか。ストーリーがやっと配信されるらしいな。ボスはもちろん……」


 若頭(ベネット)はチラリと背後のアルテミスの様子を見る。

 呟きの声が聞こえているか聞こえていないのかも分からない。普段見せないようなにこにこ顔で、紅茶に顔を近づけて香りを楽しんでるようだ。


「……最速クリアでも目指すんだろうな。ボスはよ」


 捨て台詞のように呟くと、若頭(ベネット)は部屋を出て行った。

 残されたアルテミスは紅茶を手に持ったまま……表情が満面の笑みから怪しげな笑みへと変化していく。


「当たり前だろう?あたしが一番に」


 若頭(ベネット)の呟きに応えるように言うと、アルテミスは再び紅茶を啜った。



第四部 完です。

と同時に、本作品の前編がここまでです。

ちょっと登場人物整理やら、マップやら、少しデータ整理を投稿してから後編の第一幕となる第五部へと入りたいと思います。


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