第176話 ハンドガン
「よし、あと10本ほどで魔力障壁も二つ目だな」
オレは単身《ラミーラ坑道》第三階層にやってきていた。
モルトのギルドで出会った三人目の調合士……ミルフィーユ。彼女から貰った『透明剤』を利用して第二階層を突破したファクトは、予定通りマンドラゴラ採集大作戦を決行中である。
……
実は、モルトのギルドで『透明剤』を譲り受けたあと、案の上……というかやはり思うようにはいかなかった。クエストクリアを心待ちにし、入手することを待ちわびていた武器……『銃』についての問題が浮上したのだ。
結論だけものすごくざっくり言ってしまうと、要するに『銃弾』がないという問題である。
モルトのギルドで『透明剤』を数個入手したオレは、その脚で鍛冶ギルドへと向かった。
目的は当然、入手した『クロム鉱』をクエストクリアのために『クロムインゴット』へ精錬してもらうためである。猫がログインしてくるまで待とうか悩みもしたが、よくよく猫の言葉を思い出してみれば、次に猫がログインするのはバージョンアップのためのメンテナンス後だ。
すぐにクエストを終わらせるためには待っててはダメだと考えたオレは、鍛冶ギルドへ持ち込むことにしたのだ。
その結果、鍛冶ギルドで『クロム鉱』を精錬して『クロムインゴット』を手に入れることには成功した。
もともと鍛冶ギルドからの依頼クエストであるため、さらにその場でクエストクリアの手続きを済ませることも出来た。手に入れた報酬は『ハンドガン』という片手で取り回しが効く拳銃一丁。
思わずにんまりするオレ。
デザインがリボルバー式ではなく自動拳銃型なのが少し残念だったが、オレにとっては些細な出来事である。
だが……そこでオレは気づいてしまったのだ。装填する銃弾はどこにあるのか?と。
まずは素直に鍛冶ギルドのAIに確認するが、取り扱っていないとの回答が返ってくる。つまりはクロスボウや弓の弾矢や矢と同じで、武器ではあるのだけど、アイテム分類上は道具扱いだから管轄外だということらしい。
弾矢と同じ扱い……と、いうことは少なくとも《調合士》の管轄だということだ。すぐに鍛冶ギルドに礼を言って鍛冶ギルドを後にしたオレは、調合士ギルドへととんぼ返りする。
調合士ギルドはいつもの閑散とした雰囲気に戻っていた。
先ほどまで居たはずのミルフィーユは既に出かけたあとのようで、ギルド内にはクリエラの姿しか見えない。
「おぅい、クリエラ!ちょっと聞き……」
『あ!ファクトじゃないか!戻ってきた?銃は手に入ったかいっ?!』
オレが声を掛けようとしたところへ、被せるようにクリエラから声がかかる。
「あぁ、そのことで聞きに戻って来たんだ。拳銃は確かに手に入れたんだが……弾はどうやって調達するんだ?」
そう言ってオレは手に入れたばかりの拳銃をクリエラのカウンターの前にゴトリと置いてみせる。それなりの重量感が再現されているのは流石だ。もうイルグラードのこだわりの表現に驚かない。
『おぉぉ!これが拳銃!見てみたかったんだよねぇ!ボクも見るのは初めてなんだっ!』
クリエラが手元に置かれたオレの拳銃を手に取って食い入るように眺め始めた。当然のようにオレの話は……聞いてないな。
「クリエラ。いくらでも見て良いが、オレの質問にも答えてくれよ」
『ん?なんだっけ?』
「なんだっけ?じゃねえし……弾だよ、弾。銃弾がないとこれただの鉄くずだろ?銃弾はどうやって手に入れたらいい?やっぱりレシピを手に入れないとダメな感じか?」
子供のようにはしゃいで拳銃をいじくり回しているクリエラに、再度質問をぶつける。
『そうだよ!クロスボウとかと一緒。弾丸はちゃんと《調合》で造れるんだよ!』
「……造れるのはいいんだが、レシピがないとどうしようもないだろうが。手に入れる方法はないのか?レシピじゃなくても売ってるとか……」
相変わらず、クリエラは拳銃に夢中だ。オレの話をちゃんと聞いてるのかどうかも怪しい。
オレはしばらく待ってみたが、クリエラの意識が拳銃から離れない。
「聞いてんのか?」
サッとクリエラから拳銃を取り上げた。
『あっ!ボクの拳銃』
「オレのだっ!」
クリエラから拳銃を取り上げたオレは、さっさとアイテムボックスへと仕舞った。クリエラの恨めしそうな視線がオレに突き刺さっているのを感じるが、そんなことを気にしてたらいつまで経っても情報が引き出せない。
『あぁ……仕舞っちゃった。折角じっくり観察してたのに!』
「夢中になりすぎて、オレの質問に全く答えないからだろ?自業自得だ。……で、どうなんだ?オレの質問には答えられるのか?」
恨めしそうな顔から一転してキョトンとした表情になるクリエラ。
『あ~えっと?なんだっけ?弾がないんだっけ?造ればいいじゃん?って話?』
「グダグダかよ。近いようで全然話が噛み合ってないし」
オレは改めて、クリエラに質問する。
銃弾はどうやって手に入れたら良いのか?
レシピを入手したら《調合》出来ることは分かったが《調合》できない場合は、どこかで購入出来たりしないのか?
この2点だ。
「そうねぇ。調合士としては基本はレシピから《調合》するのが一番かな?ボクも確定レシピを持ってるわけじゃないからねぇ。で、売ってるかどうか……か。どうだっけ?あんまり売ってた記憶ないんだよね。でも、売ってなかったら他の職で拳銃なんて使えないよねぇ?」
クリエラが本気で考え込んでしまっている。
てことは、本当に情報がないのか。なんだかんだいってクリエラは中枢情報にアクセス出来るはずの支援AIなわけなので『知っているけど公開できない』情報はあるかもしれないが、知らないということはないと思うわけで。
「わかった。本気で知らないんなら仕方ない。銃弾のショップ販売はまだ情報として実装されてないのかもしれないしな。そもそもこのクエストをクリアして拳銃を手に入れられること自体が稀っぽいし」
「そう!多分そうだよ!だからボクも知らないんだ!」
オレの想定にちゃっかり乗っかろうとしているクリエラの額にチョップをカマしておく。
知ってるにしろ、知らないにしろ調合士ギルドを支える立場としてもう少ししっかりして欲しい。そう願ってやまない。こんなんでもギルドマスターだしな。
『なにすんのさー!酷いじゃないか』
そんなに強く叩いたつもりはないが、額を押さえて文句を言ってくるクリエラ。
銃弾のレシピを引き当てないと、当面拳銃を使うことは出来ない。それは分かった。
それならば次の取りうるアクションとしては、引き当てるためのレシピ板を入手することだ。だからオレはクリエラにこう言う。
「銃弾のアイテムランクはいくつだ?もし引き当てる事が出来るランクなら、低ランク限定レシピ板を売ってくれ。チャレンジしたい」
実装されているアイテムなら、アイテムランクくらい答えられるだろう。
オレの頭の中は『気合いでレシピを引き当てる』……そのことでいっぱいになっていた。




