第174話 レンジャー
ルーテリアの街に到着する頃、るージュのLVは20に到達した。
このレベル帯の探索者としては異例のレベルアップ速度ではあるが、既にファクトたちと別行動になっているるージュは自重していない。最高の効率で昇格のための準備を一つクリアする。
るージュは街に入ると迷い無く探索者ギルドへと向かうべく、中央広場の地下……第二階層への階段を駆け下りる。ルーテリアの第二階層である地下街は今日も賑わっており、行き交う冒険者が途切れることはない。
そんな冒険者たちの間を縫うようにすり抜けていくるージュだったが、周囲の冒険者たちが視線をるージュに向けることはなかった。なぜなら、この時点でもるージュの認識阻害魔法は解除されていなかったからである。もちろん意図的だ。
スルスルと人混みの中を抜け、探索者ギルドに到着したところでるージュは認識阻害魔法を解除した。
そして、意気揚々とギルドの中へ入っていく。
ギルド内にいた数名の冒険者がチラリとるージュの方に目を向けるが、すぐに興味を無くしたように視線を外す。というのも、るージュのようなエルフ女性キャラの冒険者は沢山いるため、さほどの珍しさはないからだ。また、ルーテリアを拠点にしていたことがほとんどないため、ギルド内に知り合いが少ないことも理由の一つだろう。
るージュはそんな周りの反応に満足しているようで、気分良くギルドカウンターの受付スタッフの前まで大股で向かった。
『探索者ギルドにようこそ!どういったご用件でしょうか?』
受付の女性スタッフが、るージュに笑顔で話し掛けた。
「マスターいる?ちょっと上位職『レンジャー』について話したいことがあるんだけど?」
『……あ、はい。少々お待ちください』
一瞬キョトンとした表情を浮かべた女性スタッフだったが、すぐに元の表情に戻るとパタパタと奥に引っ込んだ。そしてすぐにるージュの待つカウンターのところまで戻ってくる。
『奥へどうぞっ!』
「ありがとっ!」
女性スタッフに促されて奥の部屋に向かったるージュは、そこで久しぶりに探索者ギルドのマスターと対面した。
『久しぶりだな。えっとるージュ君だな?』
「あら?あたしは君じゃない……」
『我々の前で、内面を偽装しても無駄だぞ?まあそれはともかくとして『レンジャー』についてだと?』
探索者ギルドのギルドマスターは、ナイスミドル……中年のイケオヤジのようにダンディな風貌だ。喫茶店のマスターだと言われても特に違和感を感じないだろう。
「……相変わらずこのオヤジは。折角こっちがロールプレイを楽しんでるってのによ」
『ふっ。るージュ君の様子では、とてもロールプレイが出来ていると思えないがね』
通された客間のソファへ脚を放り投げるようにドカッと座るるージュ。これでは座るというより寝転んでいるに近い。が、ダンディなマスターはそんなるージュの態度を意に介すこともなく、対面にある一人がけのソファに腰を下ろした。
『さて。私が対応した記憶はないが、既にるージュ君は『レンジャー』の昇格クエストを受けているようだ。が、その上で私に何か用があるのかね?』
「あぁ……実はクエストをクリアしてきた。おまけに俺のレベルはもう20だ。さっさとクエストをクリアして昇格したいんだけど、どうしたらいい?それを聞きに来た」
ソファから身体を起こしたるージュは、対面に座るダンディマスターをジッと見る。
『なるほど……確かに、るージュ君の戦闘記録にキラサカスコの条件討伐が確認出来る。クロスボウに関しては……パーティメンバーに依頼したようだな?それでいい。実は『探索者』のスキルでは満足に『クロスボウ』を使いこなせない。遠隔武器のエキスパートへの第一歩を踏み出すための最初のハードルとして課題としている。自分で使用するにしろ、メンバーの使用を見学するにしろ、その武器による戦い方を知ることがクエストの目的だ。故に充分に条件は満たしたと言って良い』
「マジかよ。じゃあ俺が自分でクロスボウを必死に使おうとしてたら、もっとクリアハードルが高かったってことかよ」
はぁぁ。と、あからさまなため息をつくるージュ。
『一概にそうとも言い切れんのだが、そんなことは些細な話だ。さあクエストのクリアを承認しよう』
そう言って差し出したダンディマスターの手にるージュはクエスト板を乗せる。そして再びるージュの手元に戻った時には既にクリア扱いになっていた。
「おっし!まずは資格ゲットだ。で、次は実際のクラスチェンジだな?どうしたらいい?」
『そう焦らぬよう。上位職への資格資格を得た冒険者に説明することになっている事項がいくつかある。それを説明するので、よく聞いて頂きたい』
そういってダンディマスターが説明した内容は、既にるージュが裏の手口で入手済の情報ばかりであり、目新しい話は特になかった。
といっても『元々知ってたので説明は不要です』というわけにもいかず、るージュは早く昇格したい気持ちを必死に押さえながら、やきもきすること小一時間。やっと説明をし終えるダンディマスター。
「説明が長げぇ!もっと簡単にスパッと説明できねぇのかよ!」
相変わらず悪態の多いるージュである。
『そう言われても、説明行為は仕様上必須となっている。こいつを省かれると、私たちとしても昇格を認めるわけにはいかないのでな。まあ我慢してくれ』
ダンディマスターはソファから立ち上がると客間のドアに手を掛けた。
『さあ……お待ちかねの昇格だ。ついてくるがいい』
ダンディマスターの言葉を聞いたるージュはソファから飛び起きると後について部屋をでた。部屋を出たところにある廊下を更に奥に進み、階段を降りた先のドアを開けるとそこは中央に淡い光を放つ魔方陣がある部屋だった。
「お!あれか。あの上に乗ればいいんだな?」
『ちょっと待つんだ。全くせっかちなことだ。今乗っても何も起こらないぞ』
魔方陣を見つけるなり駆け寄ったるージュにダンディマスターが待ったをかける。
「どういうことだよ?」
不満そうなるージュにダンディマスターが静かに応える。
『あの魔方陣は確かに昇格のために使用するものだが、『レンジャー』専用と言う訳ではない。ちゃんと設定せねばならんのだ。まあ待ちなさいな』
ゆっくりとるージュが待つ魔方陣まで近づいたダンディマスターは、るージュに魔方陣から出るようジェスチャーで伝え、陣内から外へ出たことを確認した上で手を魔方陣にかざした。
すると魔方陣の輝きが変化する。
何色と言えばいいのだろうか?少なくとも原色系ではない色合いの光で魔方陣内が満たされた。
『さあるージュ君。魔方陣に乗ってみなさい。ここに新たなるレンジャーの誕生だ』
ダンディマスターは片手を上げ、高らかに宣言した。




