第173話 るージュの秘密
(ふっふ~ん!ついにやったぜ!これで俺……いえ、あたしも上位職への仲間入りよ!)
ファクトたちから離脱したるージュは、ルーテリアの街に全速力で向かっていた。
ルーテリアへ向かった一番の目的は、ファクトたちから離脱するためである。ファクトとエルナが向かうといっていたモルトでは、思わぬところで鉢合わせする可能性があるし、ミゲル達は恐らく拠点のアカシアに向かうだろうとの予測を立ててのことだ。
もちろん最初はともかく彼らに追跡されてはいけない……そもそも追跡するつもりがあるかどうかはともかくとして、どこへ向かったか分からないようにしたかったるージュとしては、まずは彼らと離れる必要があった。
正直、るージュにとってファクト達は使える冒険者である。
しかし。るージュ自身が珍しく『探索魔法』を伸ばしている冒険者であると知られたため、逆にいいように使われる可能性もあった。るージュにとってはそれが我慢できない。
あくまでも自分が『利用する』のはいいが『利用される』のが大嫌いだからだ。
るージュはそのための準備に関しては全く抜かりない。
探索者の使用出来る隠蔽魔法……そのうち《ラミーラ坑道》で披露した《視覚遮断》に加えて、《聴覚遮断》を使用して完全に冒険者と魔物の知覚を遮断している。
パーティを解除している以上、この魔法を使用している状態で冒険者に存在を認識されることはない。
次にるージュにとって邪魔なのはフレンド登録リストだ。
一番良いのは登録を削除してしまうことなのだが、るージュとしても利用できる冒険者の登録を削除するのはデメリットでしかない。だからといって自分が使われるのは極力避けたいのが本音である。
通常のオンラインゲームに実装されているような『ログイン通知機能のON/OFF』があればいいのだが、現時点で冒険者向けには実装されていない。まだ正式運用前であるからなのか実装を後回しにされているのかは不明だが、いずれ正式サービスが開始される頃には実装されるのだろうとは思う。
なぜなら、るージュは『ログイン通知機能のON/OFF』機能を使用しているからである。
とは言っても、るージュがこの機能を使えるようになったのは、本当にたまたま運が良かっただけだ。
それはるージュがモルトの街を隠蔽状態で闊歩していたときのことである。
ギルド通りの裏道を差し掛かった際に、運営側のテストプレイヤーらしき冒険者が仲間と検証すべき機能について相談しているところに遭遇したのだ。その時の会話内容こそが、本来機密情報であるべき管理者権限を行使する際の隠しコマンドについてであり、これをるージュは立ち聞きしたのだ。
もちろん、このことはテストプレイヤー側のミスなのだが、るージュにとっては知ったことではない。
すぐに管理者機能を解放したるージュは、現時点で冒険者に解放されていない機能やアクセス権を入手することに成功する。以降、管理情報やシステム上のデータ、フラグ情報などについてるージュには筒抜けであった。
そして、現在でも時々中枢情報へ不正アクセスをすることがある。
例えばキラサカスコによるレンジャー昇格条件のクリア情報などがそれにあたる。実はるージュはギルドで正式に情報を得てきたわけではなかったのだ。
だがあまりにも頻繁に、おおっぴらに行うとバレる可能性が……いやすでにバレているのかもしれないが、出来るだけ問題行動として余計ない制限が入らないよう必要最低限の情報しか入手していないつもりである。
管理権限でのみ解放されている機能もおよそ『ログイン通知機能OFF』くらいしか使用していない。
(くくくっ!俺……あたしはなんてついている)
るージュは『ログイン通知』をOFFにし、知覚遮断魔法を保ったまま《あやかしの森》をひた走る。
《ラミーラ坑道》を出た時点で、るージュはLV18。
だが、レンジャーへの昇格条件を取得出来た今、るージュに全く躊躇はなかった。
システム情報へとアクセスして得た情報、つまり探索者として今のるージュにとって最も効率の良い経験値の取得……《視覚遮断》と《聴覚遮断》連続使用を繰り返し、既にLV19……もう少しで20に到達するところまで来ている。
もちろん、ちょうど同じ頃ファクトがクリエラから得た『昇格の際のステータスの引き継ぎ』に関してなどとっくに把握している。
現在、上位職資格を得て既に活動している冒険者は約5人。その中で最も有名なのは『賢者』を取得して昇格した雷撃の賢者アルテミス。他の4名は戦士系と魔法使い、そして盗賊系。探索者においてはまだ一人も昇格した者はいない。
あたしがレンジャー一番乗りを果たすのよっ!
既に《あやかしの森》を抜け、ルーテリアの街が見えてきている。
意気揚々のるージュは、さらに走る速度を速めた。
……
『ぬるい……脆弱な『賢者』の身で我に単身挑みしことは称賛に値する。が、そのようなぬるさでは倒れてやるわけにはいかんな』
「想像以上の化け物ね……なんでこのダンジョンにあんたみたいなボスがいるのかしら」
《ラミーラ坑道》の最下層に迸る稲光。しかし意に介すことなく剣で稲光をいなす首のない大男の影がくっきりとダンジョンの壁に浮かび上がる。
雷撃の賢者アルテミスは目の前で仁王立ちをする強者を睨みつける。そんな雷撃の賢者の視線を、デュラハンナイトが小脇に抱えている禍々しい頭部は実に愉快そうに笑っている。
「《雷矢》!《雷撃》!《轟雷》!」
雷撃の賢者は両手杖を振るって矢継ぎ早に、雷系魔法を連射する。
並の魔物であれば、とっくに数回倒せている筈の攻撃魔法であるのだが……。
『主の雷系魔法など効かぬと、まだ分からぬか』
全ての攻撃魔法の直撃を受け、なお揺るがないデュラハンナイト。
だが……
ゴトリという音とともに、デュラハンナイトの剣を持つ右腕が床に落ちる。肩口には鋭利な刃物で抉られたような傷が残されていた。
『ほう……やるではないか。そうでなくてはいかん。雷系魔法の中に風刃を混ぜたな』
「くそったれめっ」
同タイミングで雷撃の賢者は地面に倒れ伏した。
腕から離れる前に、デュラハンナイトの放った斬撃が雷撃の賢者を捉えていたのだ。そのまま雷撃の賢者の身体は身につけていた装備品を残して消え去った。
雷撃の賢者の敗北である。
『誇るがいい。我の腕を落とした者はお前が初めてだ。強者として覚えておこう。再戦を楽しみにしている』
誰も居なくなった《ラミーラ坑道》最下層で、ダンジョンボスであるデュラハンナイトの声だけが空虚な部屋に響いた。




