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龍女皇陛下のお婿様  作者: 俄雨
キシミア編
74/325

此処は何処か3




「我が神、エオ嬢、お怪我は」

「ないよ」


「もーびっくりしましたよ! 突然現れて『なんだあ雌ガキばっかりじゃねーか』なんてもう、サンシタ感丸出しのセリフ吐いて!」


「驚くべき三下ですね。ある種貴重です」


 仮本拠地に戻ると、外の入口ではボーグマンが見張りを、エオとリーアが中の掃除をしていた。多少荒らされたようだが、被害は少ない。


「エオ嬢。なんともありませんか?」

「はい?」


 彼女は一度、暗殺者の手によって『殺されて』いる。

 もしかすれば、自身の命を狙う者が襲撃して来たと勘違いし、恐怖に怯えているのではないか、などと考えたのだが、彼女はケロッとしている。


 何故二度も聞かれたのか、何となく悟ったらしいエオが大きくコクコクと頷く。


「あーいうカンジには来ないと思います!」

「で、ですよね」

「やだー! 心配してくれたんですか? エオ嬉しい!」

「はいはい、分かりましたから」

「そっけない!」

「それより、ボーグマン氏。ならず者、という事でしたが」

「おう。俺達兄妹が色街の実権握る前に好き放題してた奴等だあな。見覚えがある奴がいた」

「ふむ。後で少しお伺いしたい事が。グリジアヌは?」

「姐御の店の地下だ。防音仕様だとよ」

「そりゃあ都合が良い。見てきます」


 隣を覗く。こちらは無事のようだ。ミサンジには一切関係無く、元から治癒神友の会を狙ったものだろうか。だとすると、身に覚えが本格的に無い。


「無くなっているものなどは」

「ねえな。ああ、ならず者なら下だ。あーしが尋問してやろうか」

「いえ。僕が聞きます」


 二階に上がる階段の下に、ヒト一人入れる床扉がある。開け放つと中から男の情けない悲鳴が響いて来た。石造りだが、中は魔法で防音にしているのだろう。


 どうしてこんな部屋を用意したかは兎も角、便利なのは確かだ。


「グリジアヌ」

「よう、お帰り。ミサンジとは楽しくヤレたか」

「はは。今まさにという所での連絡でしたよ」

「そりゃ悪い事したな……てか、ミサンジとはするのか、アンタ」

「い、色々あるんですよ、僕にも、彼女にも」

「うひー、やだねえ……過去の男と女の関係なんて、ゾッとする。ま、それは良いか」

「良しとしてください。この愚か者のクソッタレゲス野郎どもは、何か吐きましたか」


 床から伸びる鎖の拘束具に繋がれ、恐怖に顔を歪めているのが三人。全員まともな生活は送っていないだろう、といった様子の、何とも頼りない男達だ。


 入れ墨だけ威勢が良い。


「ま、所詮木端だ。目的なんて教えられてないだろ」

「それもそうですね。えーと、モヒカンの入れ墨君。どうもこんにちは」

「……――」

「こんにちは、と挨拶しているのです。返してくれないなんて、酷いですね」

「ギョアッ!!」


 ガツンッ、と足を踏みつける。右足親指は折れただろう。どうでも良い話だ。


「こ、こんにちは……」


「素晴らしい。挨拶が出来る。ニンゲンはコミュニケーションが基本です。挨拶も出来ないようでは、どんな組織でもやっていけません。分かります?」


「は、はい……」


(ヨージ、お前滅茶苦茶おっかない……なにそれ……)

(我が神と信徒を襲ったのですよ。どうして許されるでしょう)


「忠告しておく事が有ります。私は元軍人であり、また調査の一環として捕らえた敵性人の尋問も経験が有ります。故に人体がどのように出来ているか、どうしたら喋って貰えるか、という事も、ある程度学んでいます。時間が経てば経つ程、貴方達は不利になる。ああ、ちなみに、殺す気はまっぴらありません。もうヒトを殺すなんて事は御免です。が、しかし。死なない程度にはするでしょう。本当に、死なない程度には。喋って貰えるならば、貴方達は軍警察に引き渡されるだけで、おしまいです。健康体のまま牢に入るか、五体不満足になって牢に入るか、選んでください。我が神といたいけな少女を襲撃したのです。本当に彼女達が無事でよかった。怪我の一つでもあろうものなら、まあ貴方達はもう既に命はないでしょう」


「ケッ……宗教屋が」

「"内界を回れ""顕現せよ"『衝裂針』」

「あっ、あぎっぃぃぃッッ!!」


 極小に絞った衝撃魔法が、減らず口を叩く男の右耳を弾き飛ばす。


 耳を飛ばすなら刃物で良い。それはチラつかせるだけで恐怖を煽る。故にこれは無駄な行動のように思えるだろう。だが、魔法を使わぬ一般人からすれば、たった一言で命を狩り取る事が出来るニンゲンである、という表示になる。


「私は大変手先が器用で、魔法もそれなりに使えます。次は左耳。次は左小指、薬指、中指、ひとさし指、親指。終われば、次です。何という事でしょうか、飛ばす指が沢山ある。指で耐えられない、というのならばどうぞ言ってください、腕ごと吹き飛ばすので」


「わ、わかった! わかったから! こ、殺さないでくれ!」


「殺さないと言っているでしょう。話してくれなかったり、無駄口を叩いた場合は吹っ飛ばすというだけです。私はあまり気が長くありません。忙しい身なのです」


 恐怖に染まった顔でモヒカンが叫ぶ。それで良い。男をいたぶるなど面白くもなんともない。

 いや、女をいたぶる趣味も無いが、女の場合は他に手が有るので、そちらが楽だ。


「それで、誰の差し金です」


「そ、それが。俺達、街で呑んでたら、黒ずくめの女が来て。金をやるから、あそこで暴れて来いって……」


「ま、本命に至るとは考えていません。許しましょう。その女はどのような特徴でしたか」

「フードを被ってたから、顔は分からねえ」

「何か、飾っていたりは?」

「胸に……ネックレスをしてたぐらいで……」

「他の方達は?」

「お、おれもそれぐらいしか……」

「いで、いでえ……し、知らねえ、知らねえよ……」


 直接、こんな三下に命令する黒幕は居ない。その女はただのメッセンジャーだろう。

 知れた真実といえば、治癒神友の会を直接狙った、という事実だ。

 しかし誰がそんな事をするか。


「ネックレスは、どのようなものでしたか」

「む、胸がでかかったから、よく見てたけど、一般的な、イナンナー章だ」

「装着者が多すぎますね……女性信者なら大体つけて居そうですし……グリジアヌは?」

「恣意的だな。イナンナー信徒を偽った可能性もある」

「つまり、アテにならない。有益な情報が有りませんねえ……面倒です、殺しますか」


「まっまま、待ってくれ! あ、そうだ! 銀髪の胸のデカイ女を殺せって! てか、神様じゃねーか! 傷なんてつくか!!」


「少しうるさいです」

「はい……」

「リーアを直接狙ったって事か。神だと知ってりゃ、無意味だって分かる筈だが」

「……――グリジアヌ、こいつ等のエモノは?」

「そこにある――あ、そういう事か」


 グリジアヌが指さした先に、サンシタが扱っていた武器がある。床に置かれたそれは何の変哲も無いナイフだが……良く観れば、黒く汚れている。


「その女から預かった武器ですか、それは」


「ぶ、武器は自前だ。ただ、なんか、煤みたいなのを塗れって渡された瓶があった……そ、それは捨てちまったぞ」


「ヨージ、どう見る。こいつ等の依頼者、神様殺す気満々だぞ」

「モヒカンくん。襲撃場所には『誰が居るだろう』という話は、依頼主から聞きましたか」

「お、女が二人か、三人だろうって。優先的に、その銀髪をヤレって」


 魔力放出が抑えられるだけであり、塗布した程度の武器で神が死ぬとはとても思えない。

 問題は『それ』を用いる事で『神が傷つく可能性』を知っていて『実行した』という事実だ。


 あの木炭化石をクスリとして流通させている者ではなく――兵器として用いる事を念頭に採掘していた奴等、もしくは買い漁る奴等だ。


「グリジアヌ、出てください。僕も出ます」

「こいつらは?」

「暫く反省させてから、軍警察にでも」


 階段をあがり、戸を閉じる。

 黒い影が蔓延り始める。

 薄暗い気配が、後ろから迫って来ている。

 おそらく、それ等との対峙は、避けようが無いだろう。


『ヨージ不在の治癒神友の会』というタイミングで、神グリジアヌではなく『神シュプリーア』を限定しての襲撃だ。この二点を揃えられる人物は、ヨージが知る限り一人しかいない。


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