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第四章

 友梨菜はその後、狂ったように働いた。娘のことを考えないようにするためであろう。じっとしていると涙が出てくるから、出来るだけ動いた。上司からは感心な子だと言われた。お給料も上がった。その結果彼女にはそれなりの蓄えができた。その貯金を元手に、ふたたび紗耶を引き取って暮らすことが、友梨菜のたった一つの夢だった。

 加奈子の介護は幸やとも枝と分担して頑張ってやっていた。「きよかわ」では皿洗いに限らず、厨房やお給仕の仕事もした。目が回るほど忙しかったが、ほんとうによく働く娘であった。器量が良かったから、話では友梨菜目当てに店に来る客もいたと言う。

 帰宅して一人になると、どうしても娘のことを考えてしまう。そんなとき決まってすることがあった。娘に手紙を書くのだ。

 施設には彼女の書き残した手紙が今でもそのまま残っているという。彼女は施設に預けた後も、娘に週に一度は手紙を書いて送った。こまごまとした娘の施設での生活への心配が書かれた手紙であった。そして園長へは、こんな手紙を書いた。紗耶と言う娘はお醤油の味と匂いが大好きで、何にでもお醤油をかける。気をつけて見ていないと飲んでしまいかねないくらい好きなので、どうか塩分を控えるように、そして娘のそばにくれぐれも醤油注()しを置かないように、丁重にお願いする内容の手紙を繰り返しつづった。

 たまの面会日、娘に美味しいものを食べさせてあげようと、ファミレスによく行った。何でも好きなものを食べていいよと言っても、紗耶はプリンしか頼まない。それじゃお腹すくよと言うのに、プリンだけでいいという。友梨菜はそんな娘を不憫に思って、ハンバーグとかのセットを代わりに頼んであげるのだが、紗耶にとっては切ない思い出がつまったプリンの味である。それを一匙一匙、そっと噛みしめながら味わう。彼女にはこの一分一秒が、大切な時間なのだ。紗耶は泣きそうになる気持ちを、懸命にこらえていた。その想いは母にも伝わった。友梨菜はじっと娘のその姿を見つめていた。見守っていた。紗耶にとって、プリンは母の愛そのものだった。紗耶、お母さん、うんと働いてお金一杯稼ぐから。そしたらきっと迎えに行くからね。それまでいい子にしているのよ。寮母さんや保母さんの言うことをよく聞いてね。うん、約束する。だから、きっと迎えに来てね。指切りげんまんね。


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