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500億ユーロの詐欺メール 〜返信したら本物の相続案件だった件〜  作者: にゃんきち
第二部 金の境界線

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妄想と現実

「この大学って、思っていたより女子が多いんですよね」


投資研の一年生、伊藤忠が窓の外を眺めてポツリと呟いた。

工学部の校舎に籠もっていると気づかなかったらしい。


小林と岩崎が揃って「あー……」と気のない声を出す。

鈴木も声は出さないがそんな感じだ。


「去年まではそんなに女子が多いと思わなかったけどさ」


「アレですよね」


「アレに決まってるだろ」


麗奈が俺を見てから、顎で窓の外を示した。

部室の前の植え込みやベンチに女子学生が散らばっている。

偶然そこにいるように見えるが、俺が窓から顔を出すと焦ったように動き出すのだ。


「小野先輩が外に出るのを待ってるんですか?」


「たぶんな。春よりはだいぶ減ったけど」


伊藤は窓から見える女子学生の人数を数え始めた。

麗奈は厄介な新規参入者を見る老舗の目になっている。


去年の大学祭と偽の総帥ファンド騒動で、俺の通う大学の名前は全国へ流れた。

財団を継いだ経緯や資産規模、OCIRの代表者であることも

面白おかしく紹介されている。


犬に投資資金を任せても良いほど金が余っている人間として、玉の輿狙い界隈では有名人。そんな界隈があるのか知らんが。

春の入会希望者の行列、あれはそういった諸々の結果なのだろう。

ちなみに教授によると、今年のAO・推薦入試では女子の出願が例年よりかなり多かったのだそうだ。


「小野先輩目当てに、わざわざこの大学に入ってきたってことですか?」


「本当のところは分からんが、

 昔は人気女優が受験した大学の偏差値が跳ね上がった事もあったらしい」


どこも似たようなものなら、せめて話題になるようなところに入学しようって

気持ちは分からんでもない。

甲子園常連校なんかはそれで潤ってるし。


ただ、俺とどうにかなりたいという理由でこの大学に入るのはやめろ。マジで。


†††


俺が部室を出ると女子学生達も動き出した。

前後左右、絶妙に声をかけづらい距離を保ってついてくる。

互いにライバルのはずだが、妙に連携がとれているのも謎だ。


夏頃まではもっと数も多く、行動も積極的だった。

ある日、名前も知らない女子学生数名に囲まれ


「どんな人が好みですか?」


「結婚相手に何を求めますか?」


「結婚したら一生養ってくれますか?」


と聞かれた俺は、当時坂本一族との一件で機嫌が悪かったせいもあり、彼女たちにかなりこっぴどくド正論の説教をかましたのだ。


それが広まって以来、彼女たちは今のような陣形を組むようになった。

つかず離れずといったところだが、人数が人数なだけに異様な人だかりに見えていることだろう。


そろそろ日本橋に向かおうかと思っていた矢先、講義棟の角から一人の女子学生が小走りで現れた。

分厚い本を胸に抱え、俺だけを見て走ってくる。


あ……これはあれだ。ぶつかりに来るのかな。


そう思った瞬間、俺の少し前を歩いていた男が本を落とした。

男はそれを拾おうと屈み、俺も反射的に足を止める。

女子学生は俺の前を通り過ぎ、慌てて進路を変えた。


「失礼しました」


男は本を拾い、何事もなかったように人混みへ戻っていく。

財団の警備担当者だ。

今のは俺を守ったのか、女子学生に恥をかかせないようにしたのか。

たぶん両方だろう。


俺は別に女性に興味がないわけではない。

むしろエッチなことには大いに興味がある。健康な男子だからな。


以前エリザにはプロのお姉さんを勧められたが、

そんなところへ出向く度胸があれば苦労していない。

アーマードレクサス三台で吉原へ乗り付けるなんて、出来るか。クソ。


かといって大学で迂闊なことをすれば、俺一人の問題では済まなくなる。

こちらが相思相愛だと思っていても、本当は嫌だった、無理やりだったと

メディアの前で言われてしまえば終わりなのだ。


†††


「君が小野士郎くんか」


黒い三連星の迎えを待っていると、俺の前に来た男が馴れ馴れしく手を上げた。

身長165cmくらいで髪は茶髪。イケメンと呼ぶにはいろいろ足りない感じの外見だ。


「誰?」


「筒井研吾。君と同じでここの学生だ。会社の社長もやっている」


筒井は俺の返事を待たずに名刺を差し出した。

その後ろに女子学生が五人ほど。

さっきまで俺を囲んでいた連中とは違い、こちらはずいぶん距離が近い。


なんだこいつ、ボクシングの天才かなにかか?


「筒井家は知っているかな?代々続いた家電メーカーの創業家だ」


名前は聞いたことがある。

業績不振の末に海外メーカーに買収された会社だ。


「僕はそこの出でね。

 と言っても親の会社は継がず、自分で会社を立ち上げている。

 自分で事業を興す方が面白いからね」


継ぐ会社はもうないんだからそこで見栄を張らなくてもいいのに。

大手メーカーの社長を何代もやってたんなら金は家に相当あるだろう。

普通に生きていく分には安泰なんじゃないか?


銀の匙をくわえて生まれてきたのに、どうしてわざわざスタートアップなんだ。

庶民生まれの俺にはよく分からん。


「君んとこの財団は将来性のある企業を支援してるんだって?

 僕の会社に出資しないか?同じ上級国民同士、話は早いと思う」


「俺は上級国民になった覚えはないけど」


「そこは謙遜しなくていい。

 君が出資したとなればうちの会社の評価も上がるし、

 君もまた、先見の明があると言われるようになる。

 良いことずくめだろ?」


まるで事業の成功と財団(ウチ)からの出資は決定事項みたいに言うな、こいつ。

その自信はどこから来るんだ。


筒井は後ろの女子学生を振り返り、俺にだけ聞こえる声へ落とした。


「仕事だけじゃない。後腐れのない女を回してやってもいいんだぜ」


思わず女子学生達を見た。

皆、都会っぽいファッションとメイク。

三井麗奈とは違うタイプの Gold Digger なのだろうか。


筒井と目が合った一人が笑って手を振る。


セレブが他人の尊厳を踏みにじったり薬物で捕まったりするニュースを見るたび、

金持ちになると馬鹿になるのかと思っていた。


だが「後腐れがない」と言われた瞬間、ほんの少し心がぐらついたのも事実。

なるほど大した破壊力だ。こうやって人は堕ちていくのか。


「資料を送ってくれ。出資の話は検討させてもらう」


「もちろん。君なら分かってくれると思っていたよ」


筒井はもう出資が決まったような顔で女子学生達の輪へ戻った。


「どうしました?」


黒い三連星で迎えに来たエリザが不思議そうに俺の顔を覗き込む。

ごめんね、羨ましいやらムカつくやらで、

こんな時どんな顔していいか分からないんだ。


†††


一週間後、財団の会議室には筒井から送られてきた事業計画書と、

エリザが用意した調査報告書が並んでいた。


筒井の経歴を見る。


奴は有名私大の付属高校の出身だった。

周囲には国立大学を受験するため内部進学を辞退したと説明しているが、

実際は成績と素行の両方に問題があり、内部進学出来なかったらしい。


高校在学中から複数の女子を妊娠させて騒ぎになり、

今もSM雑誌の投稿欄の常連のようだ。


これで本当に後腐れはないのか?


「こんなんだと、何件か訴訟を抱えてそうなもんだけど?」


「訴訟の形跡は見当たりませんでした。

 示談にしている可能性が高いですが……」


エリザは首を横に振った。

一応調べたのね。


肝心の会社も、失敗するたび筒井家から追加資金を受けていた。

倒産はしていないが、短い間に何度も経営が行き詰まっている。

サービスがボロボロで客がつかなかったり、エンジニアが逃散したり。

本人のブログには『失敗は成功のもと』『何度失敗しても大丈夫』という言葉が並んでいる。


何度失敗しても大丈夫なくらい実家が太いだけじゃないか。


「士郎さん、この案件は――」


「俺が断る。

 リスクが高すぎるよ。経営、評判、双方で」


エリザが報告書を閉じた。


「承知しました」


†††


財団オフィスでの面談に、筒井は自信満々で現れた。


「資料を見てくれたかい? 僕のところには優秀な仲間が集まっている。

 まだ利益は出せていないが、僕を慕って来てくれた連中は金なんかどうでもいい、

 面白いことをやりたいという奴らばかりだ」


「その連中に、残業代はちゃんと払っているのか?」


俺の言葉に筒井の口が止まった。芯を食ったようだ。

ビジネスの場にそぐわない砕けた話し方だったが、それは向こうも同じこと。


事業計画書の人件費はどう見ても安すぎる。

それなのに開発室の写真には「夜を徹し、土日も構わず働くスタッフ」とキャプションが添えられていた。


「誰かが労基に行ったら君のビジネスはまた破綻しないか?」


「僕の仲間を普通の労働者と一緒にするな。夢を共有しているんだ」


「勘違いするなよ。人件費を要求しない労働者、それは経営者の夢だ。

 全員の夢じゃない」


筒井は椅子へ深く座り直した。


「頭が固いな。失敗を恐れていたら何も出来ないぞ」


「失敗を恐れないというのは聞こえは良いが、

 リスクを全部実家に押し付けているだけじゃないか?」


「君だって遺産をもらって何不自由ない生活をしてるじゃないか」


「そうだよ。受け継いだ金は俺が稼いだものじゃない。

 だから俺は、それを自分の能力や主義の証明には使わない」


俺は事業計画書を机に置き、すっと筒井の方に戻した。


「君が無駄遣いした金は、何十年もの間、何千人、何万人の人が、

 下げたくもない頭を下げて稼いだ金だ。

 失敗を礼賛し正当化するのは別に構わんが俺とはスタンスが違う。

 出資は諦めてくれ」


筒井は隣のエリザを見た。


「彼が間違った判断をした時、説得するのが君の仕事じゃないのか?」


「私には、総帥の仰っていることが間違っているとは思えませんが?」


「……まあいい。後で後悔するなよ。

 提携へ向けて話し合った事実は使わせてもらうよ」


「出資を断られたって事実も一緒に書くようにな」


筒井は名刺を一枚テーブルへ残して帰った。


†††


――数日後。


筒井のブログに『挑戦を理解しない資産家』という記事が掲載された。

財団との提携に関する部分もあったが、こちらが訂正を求めると、結局提携は破談に終わったと付け加える形に訂正されたようだ。


筒井はうちの財団から出資を受けることが決まったかのように吹聴していたらしい。

後から訂正して回ることになったようで、赤っ恥もいいところだ。

財団(うち)は聞かれりゃ「そんな事実はありません」って答えるしかないからな。

いつまでも嘘をつき通せるはずもなし。


この頃から筒井の周りにいた女子学生の数は徐々に減り、

一人でトボトボキャンパスを歩くのを見ることが多くなった。

まあ、同じ趣味を持つ異性が見つかるといいなとしか。


一方で、俺の生理的な欲求は何も解決していない。


その夜、俺は部屋のゲーミングPCでエロ動画や同人誌をエロソムリエ気取りで次々にダウンロードした。

今使わずにいつ使うというのか。俺の金。


ここのところ停滞していたコレクションが増えていく。

なんか、これでいいやと思えれば勝ちだ。


「士郎様」


ノックの音がして、カールが扉から顔を出した。

慌ててプレビュー画像満載の画面を隠す。


「何?」


「ほどほどになさいませ」


カールはそれだけ言って扉を閉めた。

体調見合いで更新までにお時間いただいています。

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地方の学生ベンチャー系blogでよく見た失敗談www 薄っぺらい精神論と営業の刈り上げゴリラ君のネタ日記混じりの奴! 急遽更新止まったりリンク切れてたり懐かしいなぁ… >> アーマードレクサス三台で吉…
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