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500億ユーロの詐欺メール 〜返信したら本物の相続案件だった件〜  作者: にゃんきち
第二部 金の境界線

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36/43

焼け野原メーカー

オリビアが日本へ来てから三週間。

俺はまた久良瀬市の河川敷にいた。


久良瀬市の現状を確認したいと言われラッシュの運動も兼ねて車を出したのだが、

肝心のオリビアは河原に立てたパラソルの下、サンラウンジャーの上で日光浴。


普段の胸の空いたドレスも凄いが、

水着かと思うくらい露出を極めた今日のこの服も凄い。

欧州人の、太陽への渇望を具現化したような格好だ。

河原を散歩する紳士は皆ガン見、二度見、三度見をして行く。


「久良瀬の現状確認は?」


「もう、見たいものは見たわ。それよりオイル塗って頂戴」


万事オリビアのペース。まあ、任せたんだからしょうがない。


エリザは肌を焼く気はないらしく、露出の少ない普段着。

TPOをわきまえた良いチョイスだ。


「気持ちいいね、オリビア」


オリビアの隣には見覚えのある男女が座っていた。

名前は思い出せないが、たまにテレビや広告で見る顔だ。

久良瀬の出身だそうで、一人は小林と同じ高校の先輩らしい。


ラッシュはそんな事情など知らぬ顔で、ボールを追いかけて河原を走り回り、

戻ってくるたびに見物人を増やしていた。


「すごい!賢い!」


「え、隣にいるの、今月のWe-weの表紙の人じゃない?」


「あの銀髪の人もハリウッド女優かなんかだったり?」


イベントでもないのにポツポツ人が集まってきた。

スマートフォンを向けられたオリビアは手を振り、隣の二人も笑顔で応じている。


一方で既に偽ファンド事件は風化したのか、俺を識別できる人はいないようだ。

なんか寂しい。


「ちょっとすまんね。どいてくれ」


しばらくすると、見覚えのあるオッサンが人をかき分けて現れた。

坂本だ。どれだけ市内に情報網張り巡らせてるんだこいつ。


「小野さん。また久良瀬へ来てくださってどうも……。

 今日は小林の嬢ちゃんではなく、とびきりの美男美女とお越しなんですな」


「ええ、犬の運動にここは丁度良かったので」


「事前に一言いただければ、何かしらお出迎えも出来ましたのに」


頼んでもいないレセプションで神経をすり減らすつもりはない。

俺が興味のない顔をしていると、坂本はオリビアへとターゲットを移した。


「どうも初めまして。この地域でいろいろと世話役をしております、坂本です」


翻訳された挨拶を聞いたオリビアはラウンジャーから立ち上がり、

にっこり微笑んだ。


「ご挨拶いただきましてどうも。オリビア・デ・フリースと申します。

 世話役と言うと……どういった立場の方なのかしら?」


「そうですね。地元で会社をいくつか経営している者です」


「そう、オーノのお知り合いの方?

 何かお急ぎの御用がおありならどうぞお話なさってて下さい」


オリビアの、いかにも興味なさげな顔。取り付く島がないとはまさにこのこと。


「えっと……その……」


坂本は答えず俺の方を見た。

いや、俺の方に用事はないからね。知らんよ。


その時、ラッシュがボールを咥えて戻ってきた。

坂本の横を通り過ぎ、オリビアの隣にいた女性にボールを渡す。


「あら、次は私が投げるの?うふふ。そーれ」


「ガンバレ、ラッシュ!」


ギャラリーの歓声がわぁっと上がる。

俺もラッシュを目で追い始め、流れ的にも会話はそこで終了。

モデルさんグッジョブ。


坂本は無言で人だかりの外へ出ると、電話をかけながらその場を離れていった。


†††


昼下がりに保養所へ戻る。

軽食を食べ終わると、エリザが食堂のモニターへ資料を映し始めた。

オリビアは地元菓子を並べ、どれを土産に持ち帰るか選んでいる。

戦争と観光を同時にやるその神経の太さには感心するしかない。


「目立ったランドマークなし、工業団地はスカスカ。

 国道が2本あるうち大型店舗は市外へ抜ける側ではなく、

 市内で客を囲い込める側へ集中。

 隣市へ向かう道沿いには何もなかったわ」


「そういうところを見てたのか」


ヘソを出して寝転んでるだけかと思ったら、道々の風景を分析していたらしい。


「遊びに来たんじゃありませんからね。

 戦場の土地勘もないような馬鹿な参謀本部じゃ

 兵隊だってやってらんないでしょう?」


そらまあそうだ。軍隊の経験はないが。


「経済が停滞してるってレポートにあったけど、この停滞は仕組まれた停滞ね」


「そうなの?」


「発展のためのお金や人が坂本一族に吸い取られてるって見方もあるけど、

 まず、都会から人が帰ってこれないようにしてる感じね。

 知識層が働けるところがない。たぶんそういう人の流入すら許してない」


「単なる教育軽視じゃないのか?」


「小林さんの出身校、ここの高校ですよ。元旧制中学でレベルも高いです」


高校のWebサイトがモニターに映し出された。

進学実績のデータには地元国立大を筆頭に、

首都圏と関西圏の難関大学や旧帝大が並んでいる。

数も相当なものだ。


「これだけ優秀な人材を輩出しているのに、

 帰ってくるのは帰省の時だけとか、悲しいな」


「都会で会社や役所の仕組みを覚えた人が帰ってきたら、

 昔からこうしてきた、では納得しない。

 次の選挙へ出るかもしれないし、自分で会社を作るかもしれない。

 そういう要素を何十年も排除してきたのよ。ここは」


ある意味根気強くて凄い。


「他にも、こんな見方が」


エリザは市長と市議会議員の経歴へ画面を切り替えた。

坂本に近い会派の議員は、不思議なほど高学歴。

写真も経歴もインテリ然としており、大学名を先頭に置いた紹介文を読めば

それだけで仕事ができそうに見える。


一方、別の会派は地元での職業や活動歴が先に書かれていた。

並べてしまうと、坂本側へ投票するのが賢い選択に思えてくる。


「なるほど。身内の学歴の価値を維持するためでもあるのか」


「こうやって地盤を整え、公共事業を丸ごと持って行くんです」


頭がいいのか悪いのかと言われれば、良いのだろう。

数頭の牧羊犬が千頭近い羊を追い立てている動画が頭に浮かぶ。


他所からとびきり頭の良い羊が群れに入って来て、

反抗の仕方を周囲に教えだしたら確かに困るわな。


そういう時、ラッシュならどうするんだろう?


†††


その日の夜、俺達は保養所のパーティールームでささやかな宴会を開いた。

招待したのは久良瀬への進出を検討している企業の経営者や幹部、

地方創生・地域振興に頭を悩ませる行政幹部らだ。


市職員は呼んでない。ここは久良瀬市内ではないしね。


「この地域は長年、地方創生予算を吸い込むだけ吸い込んで、

 イベントを催したり使わないハコモノを建てたりするだけ。

 行政にとっても課題の多い地域でしてね……」


国交省や総務省の職員たちが忌々しそうに教えてくれる。

そういった予算もみんな坂本が吸い込んでるってわけか。


「久良瀬でチェーン展開しようとしたら、いい場所や物件は皆、

 抑えられていましてね。これが買うにも借りるにも不相応に高い。

 進出を諦めていました」


企業幹部たちの嘆きも聞こえる。


頃合いを見て、現在買収済み、または交渉中の土地の地図や建設予定の

貸店舗物件の完成予想図などを大スクリーンに映し出してみた。


久良瀬に続く国道沿線だが、ギリギリ久良瀬市内ではない場所。

しかし久良瀬からの買い物客が車で来やすいような場所だ。


「ここなら久良瀬市役所には止められませんが、

 久良瀬を商圏として丸ごと取り込めます」


これを相場かそれ以下で提供できそうだと説明すると企業勢は乗り出してきた。


「いやしかし華やかなものですな。オリビアさんといい、他の方たちも」


オリビアが連れてきた芸能人二人はにこやかに接客中。

スマホで招待客と写真を撮ったりしている。

地元の閉塞感が嫌で都会に出たが、地元はずっと気になっていたそうだ。

その二人がオリビアに協力しようと、友人を数人呼んでパーティに華を

添えてくれている。


ありがたや。


もちろん、会場で周囲の目を集めていた一番の華はオリビアだった。

男性なら本能的にガン見してしまうほど露出の大きなドレスに圧倒的なスタイル。

照明を浴びてきらめく銀髪が遠くにいてもその存在をアピールし続けている。


「これ、久良瀬でも比較的しがらみのない事業者のリストです。

 実際に店舗展開する時に便利ですよ」


お土産袋の中に入れた資料の中に、小林の実家の情報も入れておく。

これくらいは許されるだろう。


「これからも度々、保養所でセレブを呼んだパーティをやってもらいます」


パーティが終わった後、オリビアが疲れた顔を見せずに俺に言った。

エリザはぐったり疲れた表情でその提案に首を振る。

俺もどちらかというとエリザ派だ。


「なんでまた」


「坂本一族がセレブリティのヒエラルキーでは大したことないってのを、

 継続的に周囲にアピールするんです」

 

「なるほど……」


「有名大学に合宿所を提供したりするのもいいですね。

 このあたりは自然も豊富ですし」


そうやって市外の常識や問題意識を継続的に持ち込むわけか。

気がつけば坂本の名前では動かない市民が増えてるって寸法だ。


これはエリザには出来ない、ハラスメントを越えた何かだろう。


†††


最も早く数字が出たのはCATV加入者の切り崩しだった。


7月のボーナスシーズンが到来。

CATV乗り換えキャンペーンの月間集計が報告されたのだ。


「獲得3300件……最初の一歩にしては出来すぎね。この調子で行くわよ」


俺が院試で憔悴し、小林が決算発表と株主総会で燃え尽きていた頃

オリビアは一人、元気に高笑いをしていた。


これが焼け野原メーカー、オリビア・デ・フリースか。

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― 新着の感想 ―
まぁー恐ろしい焼け野原メーカー様 河川敷で外国人美女が日焼けとか非日常すぎて二度見してしまいそう エリザも共にぐったりとか人っぽいw パーティ文化は仕事でもやだなぁー 慣れてる人はなんて事ないんでしょ…
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