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びっくり半分残念半分

教授から転送されたメールと、ファンド説明のWebサイト。

何度見ても画面の中で話しているのは俺だった。

俺より総帥らしい俺。見れば見るほど腹が立つ。


「先生、詐欺メールの研究してましたよね。

 俺も随分手伝いましたが……。

 なんていうかびっくり半分残念半分です。

 研究者でもここまでやられると見抜けないものなんですね」


「ぐぬぬ……」


あ、本当に言ったよこの人、ぐぬぬって。


しかし笑ってばかりもいられない。

大学で詐欺メールを研究する教授が判断を保留したのだ。

この総帥ファンドは笑い飛ばしていい代物ではない。


†††


教授が帰った後も話は続いた。

麗奈が教授のメールと大学祭で撮った写真をモニタに並べる。


「これってもうGAI研の仕業で間違いないよねえ……」


「何だ?GAI研って」


「生成AI研究会。Generative AI研究会だからGAI研ね。

 決めつけはヤバいんだけど、どう考えてもこの写真と例のメール、

 無関係じゃないと思う」


「俺達が知らない間に詐欺の片棒を担がされてるってことだよなあ」


そう。OCIRも説明サイトに名前が出ていたので他人事ではないのだ。


「むぅ、俺は詐欺メールは大好きだが、

 詐欺メールのネタにされるのは我慢できん」


「まあ、小野先輩のところに来たメールは詐欺ではなかったわけですが」


小林のツッコミは聞かなかったことにする。


「動画を作ったのはGAI研かもしれないが、

 連中にこれだけ大掛かりな仕掛けを作れるか?

 財団そっくりのサイトに俺の動画。おそらく振込用の口座も作ってるだろう。

 しかも、確実に犯罪だぞこれ。

 せっかく大学に入った奴のすることか?」


大学に入っても詐欺メールに返事するのが大好きだったり

犬にトレードさせて喜んでる奴なんてのもいるが。


って、やかましいわ。


「脅されてるか、金につられて動画だけ作った、か」


「新手のトクリュウみたいな……?」


「GAI研の後ろにはもっとデカくてヤバい奴がいるってことだな」


鈴木は慎重だ。こいつは普段から詐欺メールを真剣に見ている。

主に引っかかる側として。


「このメール、最初から金を出せって書いてないんだよ。

 先に登録するだけ。慎重な人でも登録までならって思うかもな」


「登録した後で金を求めるってことですか?」


「たぶんな。そっと近づき、相手が本登録して来てもまだ手を出さない。

 何度か小金を握らせた後ガブっと行くんじゃないか」


鈴木がメールの表示を上からもう一度追っていく。


「最初に財団とOCIRの本当の情報。

 大学祭で話題になったラッシュと小野の写真なんかを入れて

 『TVでも紹介されました!』とやる。

 それから選ばれた人だけとおだてて、最後には

 『登録だけなら今はお金はいらないよ』と安心させる」


「その間ずっと、画面では小野の顔が喋ってるわけか」


「教授が判断に迷った理由、これじゃないか?」


「驚くほど違和感ないもんね。喋り方も仕草も。

 小野っちと付き合い長い人のほうが騙されそう。

 『あーはいはい、あの財団ね』って感じ」


なるほど。巧妙だな。


「こんなバージョンもあるね」


別の動画を開くと、今度は若い頃のマルグリットさんが

優雅なドレス姿で総帥ファンドの安全性を語っていた。


『まあひどい。私はもっと美人よ!

 この声も酷い。

 なんだか煮豆の妖精みたいな声だわ』


もうちょっと違うところを怒れ。


「とにかく大学と警察、財団の弁護士に話を通す。

 教授に言って、学生向けに注意喚起をしてもらおう。

 GAI研のことは追加の情報が集まるまで伏せる。

 間違ってたらとんでもない冤罪になるからな」


「画面の写真だけじゃ証拠にはならないもんね」


「なのでそこは捜査機関に任せよう。心当たりを聞かれたら

 動画は生成AIだ、って話すくらいでいい。

 麗奈はこのメールが嘘だという告知ページを作ってくれ」


「了解、すぐできるよ。OCIR版と財団版の二つ作っとく」


「任せた」


麗奈はなんだか楽しそうにも見える。

確かに、非日常的な体験ではあるがそこまで面白いかこれ?


「あの、登録しちゃった人は自分で気がつくしかないんですか?」


「今はな。だからできるだけ大きく出す。

 あの経済誌にも連絡してくれ……って、エリザさんいないんだった。

 えーと、あの雑誌の編集長の名刺は……」


いつもならすっと出てくる情報が出てこない。

一人でモタモタして、一人で焦ってる。

麗奈や鈴木、小林に任せられるだけは任せているが、本当にこれでいいのか。


エリザの顔が見たい。

このことも、エリザには連絡しとかなきゃな。


†††


大学へ連絡した翌日。

盛田が投資研究会の部室へやって来た。


「生成AI研究会の学生が二人ほど、大学祭のあと家にも帰らず

 大学にも来ていないってことで、親から捜索願が出ててさ」


「ほぇ?」


「まあ、大学生が二日や三日授業バックレたくらいで騒ぐのも

 おかしな話なんだけど……最近様子がおかしかったとかでね。

 彼女の家に泊まり込んでって連中でもないでしょ。

 てことで、この二人を見かけたら連絡してくれ」


盛田は言うだけ言うと、薄っぺらいビラを一枚置いて出ていった。


「ほら、GAI研マジでヤバくない?」


言葉とは裏腹に、麗奈が得意そうに胸を張る。


「突発的に旅行に出かけたのかもしれんし」


「旅行先がラオスやカンボジアだったらどうすんのよ

 もう状況証拠は十分でしょ」


「状況証拠だけで動くのは危険だよ」


下手にGAI研を追い詰めて、連中が自暴自棄な行動に出たらどうする。

まず守るべきは俺達自身の身の安全だ。

いかに俺の警備が優秀でも、メンバー全員は守りきれない。


「あーし達は何もできんわけ?」


「今はな。大学が確認しているなら任せよう。

 ただでさえ向こうのヘイトはこっちに向いてるんだし刺激すんな」


俺はスマートフォンで財団の公式サイトを開いた。

「総帥ファンドは当財団と無関係です」という警告文がすでに表示されている。


エリザへは事実と初動だけを短いメールで送った。

警察にも大学にも資料を送り、捜査には協力している。

今のうちにやれることはやったはず。

それでも、もう一つの不安が消えなかった。


この警告を出す前に登録した人はどうなっている?


†††


四日後の夕方、日本橋の財団オフィスが騒然となった。


「士郎様、受付で士郎様との面会を求める方がいらっしゃいます」


「俺に?」


「窓口担当者が対応中です。ただ、士郎様へ金を返せと」


レセプションの方から男のがなり声がする。

男は警備員に羽交い締めにされながら、俺の名を呼んでいた。


「小野士郎!出てこい! 俺の金を返せ!」


先行登録では入金不要と書いてあったはずだ。なのにもう被害者が。


偽物の俺の動きは予想以上に素早かった。



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