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あいつがクソだってことには同意します

2話同時公開なので、まずは前話「カネも出すが口も出す」をお読み下さい

支援候補企業の経営陣との面談が始まった。


水野さんの元旦那、吉田氏は担当役員として会社の理念を説明。

子育て世代の再就職を支え、家庭と仕事を両立できる社会を目指しているという。

経済誌や講演で使っている言葉も同じなのだろう。


「我々があなた方の会社を支援したとして、どうやって事業を立て直しますか?」


役員なら答えられて当然のエリザの質問に、吉田氏は答えられない。

ただ理念とその社会的意義を繰り返すだけだ。


「理念ではなく再建計画の話を。

 再建方法と、それに必要な金額を聞いています」


結局、吉田氏からは意味のある回答は得られなかった。

これじゃまともな銀行には相手にされなくても当然だ。


「この事業の立案者はどなたですか?」


「あー……最終的な責任を負っていたのは私です。担当役員として私が――」


俺達の知っている名前は出なかった。

辞めた人は最初からいなかったことにされるのは日本企業伝統のあるあるだ。


『人物的な評価はともかく、こんなに酷いと支援は出来ないわね』


「金はくれ。稼ぎ方は知らんって言ってるようなもんだからな」


"Ich stimme zu, dass dieser Typ ein Arschloch ist."


エリザが何か言ってる。

きっと、俺は分からないほうが良いんだろう。


でもこの会社、よく今までやってこれたな。支援する価値あるんだろうか?

とはいえ、役員がアホだからって社員の生活を見捨てるわけにも……


†††


関係者の疲労がピークに達したちょうどその頃、全ての調査結果が出た。


「皆さん本当にお疲れ様でした。総帥も後で関係者を(ねぎら)ってあげて下さい」


エリザが会議室のモニターに資料の要約を映す。支援すべきか、見捨てるべきか。

関係者の関心は高い。


「まず、役員関係の調査結果から。

 経費流用と社内規定違反が複数。交際費・接待費はザルでした。

 これがなければまだ状況は違っていたかも知れません」


会議室がどよめいた。自分の懐に入れる金はあるのに財団の金をくれというのか。

皆、そう言いたげだ。


「吉田常務の経費流用が一番酷くて2億円。

 これ以外は背任とまでは断じられませんが、

 総じて経営者の器ではなく、会社が傾くのも当然です」


モニターに役員各位のプロフィールが調査結果とともに映されていく。

大学生の俺から見ても、残念な人が多い。


「吉田さんだけかと思ったが他も相当酷いね。

 あ、そうだ。身辺調査はどこまでやったの?」


「今回の調査対象には含めていません。

 法的にもそこまでやるのはグレーでして」


まあ、それでも吉田を残さない理由は見つかったか。


「じゃあ、金は出す代わりに膿も絞り出そう。

 新体制で立て直しを図って。無理なら他所(よそ)と合併させるってことで」


「駄目な時の救済策は合併だけですか?」


「そうなったら、まずは新しい経営陣が知恵を絞るべきだと思うな。

 それでいいなら支援は実行。反対の人、いますか?」


賛成多数で出資を可決し、報告会と会議は終了。契約書には俺の署名。

60億円―― 結構な金額にペンを持つ手が震える。


「では、これより支援を開始し、議決権の獲得に動きます」


「うん、よろしく」


「はい。議決権の過半数を押さえに行く算段はついております」


†††


臨時株主総会の前に、経営陣各位への説明。みんな気になってるだろうし。


吉田への説明は俺とエリザが担当。

クビか降格かを選べ、と言ったところあからさまな不満を言ってきた。

本当は横領で告訴してやりたいくらいなのだが。


「これではまるで、私だけを狙った調査ではありませんか」


だからなんだ。

あんたの腕に巻かれている腕時計、俺も持ってるよ。プレゼントだけど。

それ、あんたの役員報酬では買えないシロモノらしいよ。


「全役員をくまなく調べました。あなただけではありません」


エリザが書類を示す。


「正直、役員として残るには無理があります。能力的にも、倫理的にも」


「それはあんたの感想だろう。

 これでも長年実働部隊を統括してきたんだぞ。私は。

 その経営手腕は評価されるべきだと思うが」


「経営とは、こんなになるまで何年も赤字を垂れ流すことではありませんよ」


「あのですね……」


俺は吉田の前に置かれた報告書をトン、と指差した。

2億円の経費流用。刑事事件にしてもおかしくない案件だ。

証拠もバッチリ


「何か……そうまでして金が必要だったんですかね?

 正直なところを聞かせてもらえませんか」


「それはその……離婚して、多額の養育費や慰謝料が必要だったもので……」


吉田は俺ではなくエリザを見る。

大学生を相手にしても仕方がないと思ったのかもしれない。

大人の事情と訴えれば情にほだされるとでも思ったのか。


「あれ、でも養育費は一円も払ってないですよね?」


俺の言葉に驚く吉田。


「身辺調査までしたのか!? しないと言っていたのに」


「いえ、個人的にひなたちゃんとは知り合いなだけですよ。

 先日も家まで遊びに来てくれました。

 それより、そのきれいな腕時計についてお話しましょうか」


はっと左腕を見て、しまったという表情をする吉田。

そう、その時計は日頃見せびらかすために使うものじゃないんだよ。


その後、臨時株主総会で吉田は順当に取締役を解任された。


養育費については別。

あの母子が吉田から未払い分を回収するための法的手続きを支援してやった。

例の腕時計を売ればなんとかなるだろう。

これであの母子の生活も上向くはずだ。上向くんじゃないかな。上向くかも。


『いまいちスッキリしないわね。私、頑張ったんだけど』


「うん。よくやってくれたな。助かったよ」


『あの男を厳しく断罪するんじゃなかったの?』


「母子の生活を正常化させるほうが優先。

 てか、AIがカタルシスを欲しがるなよ。

 いつまでもそこにこだわってるとエリザが怒るぞ」


『エリザなんか怖くもなんとも無いわ。

 貴方、思ってたよりつまらない男なのね』


「悪うござんした。至って平凡な家の出だからね」


俺だってスカッとしたかったんだよ。

でも、吉田を完全に潰しちゃったら逃げ隠れするの目に見えてたからね。

また養育費を取りっぱぐれちゃうのだけは避けたかったのさ。


†††


「舞さん、吉田さんが居なくなってやりやすくもなっていると思います。

 前の職場に復帰してみませんか?」


ひなたの母親、舞さんに職場復帰を促してみた。

財団から金を出す以上、まともな人を送り込みたい。

学童保育なんかの設備と制度を整えれば舞さんもフルタイムで働けるだろう。

そうしたら生活も上向くはずだ。上向いてほしいな。上向くよね?


あ、でも俺と知り合いだからといって舞さんを役員に据えることはしないよ。

役員はハードな仕事だ。縁故で務まるもんじゃない。あたい知ってる。


俺が口を挟めない形で、外部の専門家に舞さんの審査をお願いした。

もちろん審査結果は合格。部門責任者として舞さんの復帰が決まった。


そして数日後――


母親と一緒に日本橋へ来たひなたが、OCIRの入口で俺を見つけた。


「士郎パパ!」


麗奈の椅子が止まる。

鈴木は俺とひなたの顔を見比べ、小林は向こうを向いたまま動かない。

岩崎は仕事に集中している。


「お前ら。事情はちゃんと話してやるから、一旦その顔をやめろ」


「士郎パパは本当のパパじゃないよ」


ひなたが元気よく説明してくれる。ありがたい。


麗奈が椅子を少し後ろへ引いた。


「本当じゃないパパって何?」


俺が聞きたい。


「パパ活やるなら私にもちょっと回しなさいよ」


「仕事と金はもう回してるだろ」


「えーつまんなーい」


金を出したら何をさせてくれるのか気になるところではあるが、

それをしたらエリザがどういう顔をするのか考えたらとてもじゃないけど……


───────────────────

皆様に読んでいただき、ようやく20話まで来ました。

フォローや応援、いつも励みになっています。

引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。

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