帝国の入国審査。僕の「身分証」はただのライターでした
ワックスがけのおかげで、予定より数日も早くバルフレア帝国の首都『イグニート』に到達した。
飛空艇のタラップが下りると、そこには帝国の精鋭騎士たちが整列し、仰々しいファンファーレが鳴り響いていた。
「……テオ殿。ここからは帝国の入国審査が必要よ。貴公は一応、我が国の国賓扱いだけれど、形式的に身分を証明できる魔道具を見せてちょうだい」
カトレア様に促され、僕は困ってしまった。
王都を出る時、冒険者ギルドのプレートは捨ててしまったし、僕には立派な勲章なんて一つもない。
「身分証……。あ、これならありますよ。器用貧乏なりに自作した『お掃除用着火剤』です」
僕はポケットから、小さな銀色の筒を取り出した。
闇魔法で「空間の火種」を固定し、水魔法で「酸素の供給量」を調整して、いつでもゴミを焼却できるように作ったものだ。
「ええ……。そんな日用品で審査が通るわけ……」
カトレア様が言いかけたその時。
審査官である帝国の高位魔導師が、僕のライターを覗き込んだ瞬間、その場に崩れ落ちた。
「な、ななな……!?この小さな筒の中に、火の最上位精霊『サラマンダー』の原種が封じ込められているだと!?しかも、完全に服従されている……!!」
「え?ただの火種ですよ。ほら、シュボッて」
僕が親指でカチッと火を灯すと、そこには太陽の欠片のような、純粋で神聖な炎が揺らめいた。
「ひぎゃあああ!!太陽神の劫火を、タバコの火をつける感覚で扱っている!!このお方は……このお方は、
伝説の『炎の主』か何かなのか!?」
魔導師たちが一斉に地面に頭をこすりつけ、道を開けた。
カトレア様は、自国の入国審査が「ゴミ焼却用のライター」一つでフリーパスになった光景を見て、天を仰いだ。
「……テオ様。あなたの持ち物は、いちいち帝国の歴史を塗り替えるから心臓に悪いですわ」
フィオナ様が苦笑いしながら僕の腕を引く。
アポロも、ライターの火を「温かいね!」という感じで、鼻先でクンクンと嗅いでいた。
「よし。じゃあ、まずは宿に行って洗濯でもしましょうか」
僕がのんびりと歩き出す横で、帝国の騎士たちは「神が歩いている……」と戦慄していた。
その頃。
帝国の国境検問所で、ボロボロの装備を理由に入国を拒否されていたガイルたちは、門番に縋り付いていた。
「おい!俺たちはSランク冒険者なんだぞ!この錆びた剣だって、元は名剣なんだ!入らせてくれよ!」
彼らが門前払いを受けている間、テオは帝国のレッドカーペットの上を、ライターを弄びながら優雅に進んでいた。




