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帝国の飛空艇、ワックスがけで音速を超えました

バルフレア帝国の誇る最新鋭飛空艇『火竜号』。その豪華な客室で、僕はフィオナ様とカトレア様と一緒に、空の旅を楽しんでいた。

でも、どうしても気になることが一つだけあった。


「カトレア様、この船の甲板……少し、空気抵抗が強そうですね。汚れも目立つし」


「え?帝国最高の魔導エンジンを積んでいるから、これでも世界最速なのよ。汚れなんて、空を飛んでいれば仕方ないわ」


「うーん、器用貧乏なりに、ちょっとだけ『お掃除』させてもらってもいいですか?」


僕は自分の『お掃除便利バック』から、闇魔法で精製した特製の「超低摩擦ワックス」を取り出した。

バケツに入れた水に、水魔法で「分子レベルの平滑化」を施し、それを雑巾に浸して甲板を磨き始める。


「【闇魔法:影の表面加工(シャドウ・コーティング)】」


キュッ、キュッ、とリズミカルに磨き上げると、船体は鏡のように空の青を映し出した。

すると、船がガタガタと震え始め、急に周囲の景色がビュンッと後ろに飛び去った。


「な、何事!?船長、何をしたの!エンジンが暴走しているわよ!」


「お、王女殿下!エンジンは通常出力ですが、船体にかかる空気抵抗がゼロ……いえ、マイナスになっています!速度が通常の三倍を超えました!」


船長が悲鳴を上げながら操縦輪に縋り付いている。

甲板を滑る風が、僕のワックスのせいで「加速装置」に変わってしまったらしい。


「テオ様……。あなた、お掃除のついでに物理法則を書き換えるのはやめてください。帝国の飛空艇が、ただの弾丸になっていますわ」


「ええ……。ただのワックスがけですよ?汚れがつかないようにしただけなのに」


アポロが「キュイィィ!」と楽しそうに風を切って走っている。その足元でも、ワックスのせいでアポロがスケートのように滑っていた。


「……もういいわ。このまま行けば、予定より三日早く帝国に着くわね。歓迎の準備が間に合わないわ……」


カトレア様が頭を抱えて座り込む横で、飛空艇は音を置き去りにして、雲の海を突き進んでいった。


その頃。

地上でボロボロの馬車を引いていたガイルたちは、空を引き裂くような轟音を聞いて空を見上げた。

「な、なんだあの速い光は……!?帝国の船か?まるで流星じゃねえか……!」


彼らが三日三晩かけて進む距離を、テオを乗せた船はわずか数分で通り過ぎていった。

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