帝国の招待状と、僕の「お掃除便利バッグ」
お漬物を囲んだ朝食が終わり、賢者たちが漬け汁の小瓶を大事そうに抱えて帰路につこうとしていた時のことだ。
カトレア様が、一通の金縁の封筒を僕に差し出してきた。
「テオ殿。……これは、バルフレア帝国の帝王――つまり私の父からの直々の招待状よ。近々開催される『建国記念祭』に、ぜひ貴公を国賓として招きたいんですって」
「えっ、僕みたいな器用貧乏が帝国へ?遠そうだし、準備が大変そうだなぁ」
荷物も多いし、道中のお弁当や着替え、アポロの世話道具。考えるだけで、家で掃除をしていた方が楽な気がする。
「心配いりませんわ、テオ様!私たち聖教会の騎士団が全力で護衛にあたります!」
「帝国の最速飛空艇も差し向けるわ!だから……お願い、来てちょうだい」
二人が必死に拝み倒してくる。
どうやら、僕が作ったお茶や漬物の樽が、すでに各国の首脳陣にまで届いてしまっているらしい。
「うーん……。じゃあ、移動中に使う『お掃除便利バッグ』を新調してからにしようかな」
僕はそこらに転がっていた古びた革袋を手に取った。
器用貧乏なりに、闇魔法で「空間の歪み」を固定し、水魔法で「内容物の鮮度」を保つ加工を施す。
「【闇魔法:影の四次元ポケット(シャドウ・ストレージ)】」
袋の口を広げると、そこには無限に近い影の空間が広がった。
僕はそこに、さっきの漬物の樽や、聖剣(包丁)、さらには別荘の家具一式を次々と放り込んでいく。
「……テオ様、今、家一軒分くらいの荷物をその小さな袋に入れましたよね?」
「ええ。これなら移動中も自分の布団で寝られますし、アポロも中でお散歩できますよ」
アポロが「キュイッ!」と袋の中に飛び込む。
カトレア様は、帝国が国家予算を投じて研究している「空間転移」や「無限収納」の技術が、一個の革袋で完結しているのを見て、力なく笑った。
「……もう、驚かないわ。そのバッグ一つで、帝国の物流が革命を起こすレベルだけど、今は黙っておくわ……」
こうして、僕は「お掃除のついで」に、軍事大国バルフレア帝国へと旅立つことになった。
その頃。
街道の脇でボロボロの馬車を修理していたガイルたちは、空を飛ぶ豪華な帝国の飛空艇を見上げていた。
「……おい、あの船……。甲板にテオが乗ってねえか?なんであいつ、帝国の皇女と聖女に囲まれて、優雅にお茶を飲んでやがるんだよ……!」
彼らが泥にまみれて馬車を押し始める中、テオを乗せた船は、さらなる「無自覚な伝説」を求めて隣国へと進んでいった。




