賢者たちの弟子入り志願と、僕の「魔法の箒」
リビングでひれ伏したまま動かない大賢者たちを前に、僕は困り果てていた。
彼らは僕が淹れたお茶を最後の一滴まで飲み干すと、今度は僕が手に持っていた「掃除用の箒」を食い入るように見つめ始めた。
「……ま、待て。その箒から溢れ出ているのは、聖属性の極光ではないか?」
「馬鹿な!掃くたびに空間の歪みが修正され、因果律の汚れまで浄化されているぞ!」
ただの竹箒なんだけどな。
器用貧乏なりに、闇魔法で「埃だけを吸い寄せる磁場」を作り、水魔法で「微細な結界」を張って、一度掃けば二度と汚れないように加工しただけだ。
「テオ殿!頼む、その箒の理論を教えてくれ!我らバルフレア帝国の魔道技術を集めても、これほどの効率は実現できぬ!」
「いや、私こそが先だ!この少年……いや、テオ聖導師様に弟子入りを認めていただくのだ!」
世界最高の賢者たちが、僕の足元で子供のように掴み合いの喧嘩を始めた。
カトレア様が「おじい様たち、やめなさい!帝国の恥よ!」と叫んでいるけれど、彼らの耳には届いていない。
「……テオ様。このままだと、この別荘が『世界最高の魔導研究所』に認定されてしまいます。何か手を打ってください」
フィオナ様に促され、僕は仕方なく、予備で作っておいた「普通の(僕にとっては)」箒を数本、玄関に並べた。
「あの、弟子入りとかは困るんですけど……。この箒、もしよければ皆さんで使ってください。庭の落ち葉を掃くのにちょうどいいですよ」
僕がそう言った瞬間、賢者たちは「聖遺物を授かった!」と歓喜の声を上げ、競い合うように箒を抱えて庭へ飛び出していった。
……数分後。
世界屈指の魔法使いたちが、必死の形相で庭の落ち葉を掃いているという、世にも奇妙な光景が広がった。
「見てください、テオ様。彼らが掃くたびに、森の魔素が浄化されて、枯れ木に花が咲き始めています」
「ええ……。ただの掃除なのに、皆さん熱心ですね」
アポロ(神竜)も、賢者たちが集めた落ち葉にダイブして、楽しそうに遊んでいる。
その頃。
森の影からその様子を見ていたガイルたちは、腰を抜かして座り込んでいた。
「……あの伝説の大賢者様が……あいつの家の『庭掃除』をさせてもらって喜んでる……。俺たちの知ってる世界が、あいつのせいで壊れていく……」
彼らが自分たちの「常識」という名の殻に閉じこもっている間、テオの別荘は、今日も世界で一番清潔な「聖域」として輝いていた。




