世界中の賢者が集結。でも、僕の淹れたお茶の方が大事でした
魔王をきれいに洗って二度寝させた翌日。
別荘の周りには、見たこともないような豪華な法衣を着た老人たちが、数十人も集まっていた。
「……ここか。古代の魔王が復活の兆しを見せ、そして一瞬でその気配が消えたという場所は」
「信じられん。我ら大賢者連合が数十年かけて監視していた封印を、誰かが内側から書き換えたというのか?」
彼らは「世界最高峰」と呼ばれる魔導師たちだ。
ピリピリとした緊張感の中、彼らが別荘の扉を叩こうとした瞬間、僕がガラリとドアを開けた。
「あ、すみません。ちょうど今、庭の結界を『自動掃除モード』に書き換えたところなんです。足元にルンバ……あ、自動追尾の影が走るので気をつけてくださいね」
「……少年。お主がこの家の主か?魔王はどうした。絶望の気配はどこへ消えた」
一番偉そうな老人が、杖を震わせながら僕を睨む。
僕は「ああ、そのことですか」と、彼らをリビングへ招き入れた。
「魔王さんなら、地下でぐっすり寝てますよ。埃っぽかったから丸洗いしたら、満足したみたいで。それより皆さん、遠くから来て喉が渇いているでしょう?お茶でもどうぞ」
僕はいつものように、不純物を取り除いた水と、影で雑味を抽出したお茶を振る舞った。
賢者たちは「毒ではないか」と疑いながらも、一口啜った瞬間――。
「……!?な、なんだこの透き通った魔力は……っ!私の数十年解けなかった魔道の真理が、お茶一杯で氷解していく……!」
「お、美味しい……。魔王のことなど、どうでもよくなってきた。このお茶の淹れ方こそ、失われた古代魔法の極致ではないか!?」
世界を動かしたはずの賢者たちが、僕の淹れた「普通のお茶」に涙を流して感動し、その場に跪いてしまった。
「……テオ様。賢者たちがあなたの足元で拝み始めています。これ、どうするんですか?」
フィオナ様が呆れたようにツッコミを入れる。
カトレア様も「私の国の宮廷魔導師長が、少年に弟子入り志願しているんだけど……」と頭を抱えていた。
「ええ……。ただのお茶ですよ?おかわり、ありますからね」
僕がのんびりと急須を傾ける横で、賢者たちは「この少年こそが世界の心理だ」と勝手に結論を出していた。
その頃。
森の入り口で賢者たちのこぼれ話を盗み聞きしていたガイルたちは、絶望に打ちひしがれていた。
「……賢者様たちが……あいつに跪いてる……。俺たちは、一体何を追い出したんだ……。あのお茶一杯で、一生遊んで暮らせるほどの価値があるってのか……?」
彼らが震える指で自分の錆びた剣を握りしめる中、別荘からは賢者たちの楽しげな笑い声と、芳醇なお茶の香りが漂っていた。




