隣国の王女、テオを「伝説の賢者」と勘違いする
僕が別荘の裏庭で、アポロと一緒に「自動追尾型式の草むしり魔道具」を自作して遊んでいたときのことだ。
森の結界の外側に、妙に気品のある、けれど殺気立った集団が立っていた。
「……あそこにいる少年か?呪いを食べ、神草を育て、神竜を従えるという『深淵の賢者』は」
集団の先頭に立つのは、燃えるような赤い髪をした少女。
彼女はこの国の隣にある軍事大国、バルフレア帝国の第二皇女・カトレア様だった。
「……見たところ、ただの冴えない村人Aにしか見えないが。しかし、足元で転がっているトカゲ……あれは間違いなく神竜の幼体だわ」
カトレア様は、僕がアポロに「お座り」させている光景を見て、わななきながら呟いた。
「よし。あの賢者を我が帝国に引き入れる。拒むなら、力ずくで誘拐ってでも連れて行くわよ。……あのような逸材、一王国に腐らせておくには惜しすぎるわ」
そんな物騒な計画が進んでいるとは露知らず、僕はフィオナ様に呼ばれて家の中に戻った。
「テオ様、お茶が入りましたよ。……あら、外が少し騒がしいですね?」
「え、そう?風の音じゃないかな」
僕がのんきに答えると、突然、別荘の窓ガラスがパリンと割れ、中から煙玉が投げ込まれた。
「「「賢者テオ!我ら帝国騎士団が、貴殿を『招待』に参った!!」」」
煙の中から現れたのは、フルプレートメイルに身を包んだ精鋭たち。
……が、彼らは部屋に一歩踏み出した瞬間、一斉にズルリと滑って転んだ。
「い、痛っ……なんだこの床は!?氷のように滑るぞ!」
「あ、すみません。さっき闇魔法で『超撥水・防汚ワックス』をかけたばかりで、まだ乾いてなかったんです」
僕が器用貧乏なりにツルツルに磨き上げた床は、帝国最強の騎士たちの突撃すら物理的に無効化した。
「……テオ様。帝国の方が、床掃除の犠牲になっていますよ」
「えぇ……。せっかく綺麗にしたのに、土足で入らないでほしいなぁ」
僕は少しだけ困って、指先をパチンと鳴らした。
すると、騎士たちの足元の影が「掃除機」のように変形し、彼らをまとめて玄関の外へと吸い込み、丁寧(?)放り出した。
「な、な……!?魔法も使わずに我らを排除しただと!?やはり、噂通りの怪物か……!」
外に放り出されたカトレア様が、驚愕の表情で別荘を見上げている。
僕は窓から顔を出して、一言だけ付け加えた。
「あの、次はインターホンを鳴らしてくださいね。ワックスが剝げちゃうので」
その言葉は、帝国皇女のプライドを完璧に粉砕したようだった。




