僕の「打ち水」で聖女様が気絶した
森の朝は早い。
と言っても、僕が昨日の夜に闇魔法で「日除けの影」を作ったせいで、あたりは深夜みたいに真っ暗なままだ。
「ふわぁ......よく寝た。そろそろ夜明けかな?」
パチン、と指を鳴らして闇魔法を解除する。
すると、まるでカーテンを開けたみたいに、一瞬で眩しい太陽の光が差し込んできた。
よし、まずは顔を洗おう。
僕はそこらへんの空中に向かって、指を差し向ける。
「【水魔法:朝の洗顔】」
本来ならチョロチョロと水が出るはずの生活魔法。
だけど、僕の指先からは銀色に輝く超高密度の液体が溢れ出し、それが空中で巨大な球体となって回転し始めた。
あまりの魔力密度に、周囲の空気がキィィィンと震えている。
「あ、ちょっと出しすぎっちゃった。まぁいいか、残ったのは地面に撒いちゃえ」
その時だ。
「......あ、ありえない。なにあれ、神界の門が開いたの......!?」
茂みの奥から、震えるような声が聞こえた。
振り返ると、そこには豪華な白い法衣を纏った、綺麗な女の人が立っていた。
手には宝石が埋め込まれた杖。国で一番偉いとされる『蒼穹の聖女』の正装にそっくりだ。
「あ、おはようございます!散歩ですか?」
僕が元気に挨拶すると、聖女さんは幽霊でも見たような顔で、僕と地面を交互に見ていた。
「散歩なわけないでしょう!?この森一帯に観測史上最大の闇魔力が満ちたと思ったら、今度は一瞬で消えて......挙句になんですか、その水は!」
「えっ、ただの顔洗った後の水ですけど......」
「ただの水!?あれは”【原初の雫】”......伝説の治療薬を百倍に濃縮したような神の水ですよ!見てみなさい、あなたが適当に撒いたせいで、周囲の枯れ木が全部『世界樹』に進化して、死んでた大地が『神域』に変わっちゃってるじゃないですか!!」
言われてみれば、足元からあり得ないスピードで巨大な黄金の花が咲き乱れ、森がキラキラと輝きだしている。
小鳥たちも集まってきて、なぜか僕の肩で神々しく歌い始めていた。
「へぇ、最近の肥料ってすごいんですねぇ」
「あなたの魔法ですよ!!」
聖女さんが、あまりのショックに膝をつく。
なんだか大変そうだ。喉でも乾いているのかな。
「良かったら、一杯飲みますか?器用貧乏なりに、喉越しだけはこだわっているんです」
僕は新しく、コップ一杯分の水を生成して差し出した。
それはもはや水というより、飲むだけで寿命が千年延びそうな神々しい光を放っていた。
「......っ。あ、ありがとう、ございます......。いただきます......」
聖女さんは震える手でそれを受け取り、一口含んだ。
「—―っ!?」
その瞬間、彼女の背中からバサリと光り輝く四枚の翼が飛び出した。
彼女が一生かけても届かなかった「聖女としての最終進化」を、僕の洗顔水の飲み残しが一瞬で成し遂げてしまったのだ。
「......あ、あまりに......概念が、深すぎる......(ガクッ)」
「あ、聖女様!?大丈夫ですか!?」
聖女さんは幸せそうな顔をして白目を剥き、そのまま地面に倒れ伏してしまった。
やっぱり、僕の水は味が濃すぎたのかな。
僕がそうやって首を傾げている頃。
僕を追い出したガイルたちは、僕が以前施した「汚れ防止の闇魔法」が切れたせいで、全身カビと呪いまみれになり、「なんでだ!あの器用貧乏がいないだけで、なんでこんなに装備がボロボロになるんだ!!」と発狂していたけれど、そんなの僕の知ったことじゃなかった。
聖女様、まさかの洗顔水で強制進化&気絶。
テオ君の「器用貧乏(自称)」の被害者はこれからも増える予定です。
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次回、目を覚ました聖女様がとんでもない提案をしてきます......。




