シャルル・ソニア
これはまだ安定とは程遠く、世界が最も荒れていた頃のお話です。各地では頻繁に権力争いが行われており、至る場所で飢饉や暴動が起きる、そんな激動の時代でした。
そんな時代を生きた男、レヴィ・ドグラ。
彼こそがホムンクルスを造った人物。
ある日レヴィは最愛の人を失います。
流行病が原因で、当時は特効薬もなく、助かる手段はありませんでした。
レヴィは彼女の死を受け入れられず、再び彼女と巡り会う為に、ありとあらゆる手段を用いました。
金を使い、人脈を辿り、時には汚い仕事にも手を染めました。
しかし、そんなこと叶うはずがありません。
次第にレヴィの生活は荒んで行き、酒に溺れる生活が始まりました。そんな折、絶望に伏せるレヴィはとある言葉を耳にします。
『輪廻転生の秘術がある』と。
この頃、巷では錬金術や黒魔術による儀式が流行しており、あろうことかレヴィはそれにすがりついてしまったのです。
そしてそれこそが、ホムンクルスの製造でした。
本来、人間を構築する物質をかき集めたところでそこに生命は宿りません。
ではその為には一体何が必要になるのか。
人を人たらしめるものとはなんなのか。
それは魂に他なりません。
魂は役目を終えると善行も悪行も全てが浄化され、無に近い存在になり、長い輪廻を巡り再び肉体に宿ります。
これは人間の極地であり必ず辿る摂理です。
人の思惑でどうにかなることではありせん。
しかし禁術はその根幹を揺るがします。
だからこその禁術なのです。
輪廻転生の秘術とは摂理を捻じ曲げ、魂を呼び戻す技法であり、悪魔との契約によって行われるものでした。
男は悪魔に願います。
『彼女と再び出会えるのなら他に何もいらない』と。
『その願い叶えよう』悪魔はそれに応じました。
数日後、彼女が目の前に現れました。
それは生前の元気な頃の姿のままでした。
レヴィは心の底から悪魔に感謝しました。
ですが数日後、彼は家族と住処を戦火で失います。
同時に友人とその家族や恋人、職場の仲間、全ての人が命を落とします。
全員が惨たらしい最後を迎えといいます。
その数は三十人を超えていました。
願い通り、レヴィは全てを失います。
しかしこれだけでは終わりませんでした。
悪魔に大量死の原因を伝えられた彼女は責任を感じ、再びその命を絶ってしまったのです。レヴィは絶望の淵に落とされました。そして彼もまた死を選びました。
最後に自らを代償としレヴィの願いは成就したのです。
「と、まあこんな感じです」
「……それは戒めとしての創作とかじゃなくて?」
ちょっと待て。
シャルルに対してこの話は酷じゃないか?
本人の前で言う必要無かったし、もっとぼかしたって良かったはずだ。
「悪魔の位で代償は決まり、高位の悪魔ほど多くの人を絶望に落とします。邪神崇拝や悪魔信仰がこの時代から禁止されている理由はこれです」
「アイラ、もうやめて」
「まだ終わってませんよ」
「いい加減にして。女神だかなんだか知らないけど、人の気持ちを考えられない奴の話なんて聞きたくない」
「あの! お師匠様も……その契約を?」
一発触発の雰囲気の中、シャルルが間に割って入った。表情に出すタイプには見えなかったが、流石に少し表情は曇っている。
アイラはポンコツだし、頼りないし、厄介ごと押し付けてくるけど悪い奴ではないと思ってたのに。
何が女神だ、クビなれ!
「長々と話をしましたが、これは人知を超えた力は災いを振り撒くという教訓です」
「何が教訓だ、偉そうに」
「ここで一つ疑問が生まれました。なぜシャルルは無事なのでしょう」
何故って……。
代償は悪魔の位で決まるなら、悪魔の位が低かったとか? もしくは何かしらのスゴ技で代償を回避したとか。
「シャルルはホムンクルスではないのでは?」
「ボクがホムンクルス……じゃない?」
「ええ。高位の悪魔であればあるほど、周りの人間に被害が及ぼします。つまり当人とその一番近い人物にほぼ確実に代償は降りかかるのです」
被害が出ていない時点で、悪魔との契約自体していない可能性が高い。ってことはシャルルは私と同じ……人間!?
「悪魔の代償はそのどれもが悲惨な最後を迎えますからね」
「お師匠様がシャルルに嘘を?」
「何か秘密がありそうですね。それもお師匠様だけではなく、シャルル本人にも」
お師匠様はシャルルの行動を制限する為に嘘をついた。
だって人と関わってはいけないなんて、あまりにもおかしな話だ。
「いやいや、ちょっと待ってよ。シャルルのお師匠様は百年前に出て行ったんだよ?」
だとしたらいくらなんでも若すぎる。
シャルルはどう見たって十代半ばだ。
咄嗟に「それは嘘じゃないんだよね?」とシャルルに尋ねるも返事はない。
相変わらずシャルルはフリーズ状態だ。
少し時間を置かないと返答には期待できそうにもない。
「ホムンクルスの可能性は低い。けれど短命の人間でもない。その条件が当てはまる種族をわたしは知っています」
妖精族です——アイラは確信を突くように断言した。
「……絶滅されたとされる種族ですけどね」
そう一言付け加えて。




