第5話!一触即発
「さて、まずは僕らがどうやって、この世界へ迷い込んだのかということだが……」
送りを終え、家へと戻ってきた俺たちは、テーブルに円を描くようにして座り、今回のトンデモな現状について話し合おうとしていた。
自然と、このメンバーの中では一番まともであろうせんじが、会話の指揮をとる。
とうごとやひろは、やる気がなさそうなのが、表情から見て取れた。
とうごだなんて、机に突っ伏して寝ている始末だ。むにゃむにゃと、時折寝言のような声がもれている。
むさしも、ソワソワと絡まった髪を指で弄り、会話など出来そうにない。
「……さきとは、この世界へくる直前、元いた世界で何をやっていたんだ?」
必然的に、話のタネは俺へと振られることになる。
「ええと、そうだな……俺は……」
未だに、俺の中の記憶は曖昧だ。
言葉や、最低限の知識、マナーは覚えているというのに、俺自身のこととなると途端に靄がかかったようになる。
それでも俺は、あの時森でほんの少しだけ蘇った記憶を頼りに、ポツポツと話し始める。
「……俺は、普通の会社員で、あの日……歩道橋を渡っている時に落ちて、多分死んだんだと思う」
死んだ──。確証はないが、なぜだか俺は、自分が死んだのだと認識していた。
「んー。会社員ってことは、さきとって意外と歳いってたんだなー」
「とうご⁉︎ って、俺はまだ二十代だ! 全然若いだろ!」
寝ていたと思っていたとうごが急に話し始めるものだから、俺は驚き的外れなことを言ってしまう。
「二十代って、何歳よ?」
「え? 二十八……」
フンと鼻で笑われ、俺はポカポカと殴りつける。
なぜだろう。十歳以上も年下だからだろうか、ものすごく悔しい。
「起きているんだったら、お前も言ってくれないか」
ため息混じりの声から、かなり疎ましく思っているであろうことが、ひしひしと伝わってくる。
「あー、俺はなー。何だっけ、確か喧嘩で負けてー、そのまま死んだって感じ?」
「喧嘩って……。まだ、十七歳だろ?」
俺がガキだった頃は、考えられないことだった。
「いわゆる、不良だったんだろう? それで死んだんじゃ、世話ないよな」
明らかに馬鹿にしたような口調で、せんじは言った。
「うーん、でも……何で喧嘩してたのかとか、家のこととかは何も思い出せないんだよなぁ」
「どうせ、いい家庭環境とは言えなかっただろうよ。思い出さないで正解だ」
チラッと、とうごがせんじの方を見る。
その眼差しからは、怒りの色が感じられた。
「あ、あー! やひろは、何かそういう事件とか担当したことあるの⁉︎」
このままでは、まずい。空気を変えようと、やひろに話しかけてみたが、反応は期待出来なさそうだ。
むさしに話しかけて置けばよかったなと、少し後悔する。
「……ん。たくさん、事件に関わった……」
意外というか、奇跡的にやひろは、俺の問いに答えてくれた。何だかんだ、会話が成立したのは、これが初めてじゃないか。
「色々、危険なこともあった……。だから、死んだ……」
静かに、淡々と、ただ事実だけを述べるような話し方に、場はシンと静まり返った。
「あ、あの、僕も同じです……。死にました……あまり、覚えてないけど……」
声を上げるなら今だと思ったのか、むさしがおずおずと話し出した。
詳しい死因は、よく覚えていないみたいだ。
「ああ、そういえば、むさしはニートってやつだったか。これ以上、親に迷惑かけることがなくなって、ある意味よかったんじゃないか?」
「そっ……」
「そんなこと、言わなくてもいいだろ!」
俺が言うよりも早く、とうごがせんじを怒鳴りつけた。
「は? 僕は事実を言っただけだろ。社会に貢献するべく励んでいる僕たちと、一日中家でゲームしているだけのやつが、こうして死んでここにいるんだ。神さまって平等なんだな」
「テメェ!」
「ちょっと待てって! 落ち着け!」
テーブルを乗り越えて、せんじを殴ろうとするとうごを、必死に押さえつける。
もはや、周りのことなど見る余裕もない。
「僕はね、超一流大学に入学して、エリート人生を謳歌するはずだったんだ! それが、こんなところで死んで……お前みたいな、ど底辺には分からないだろうよ!」
ああ、これだ。せんじの、人を見下したような喋りは、これが原因だったんだ。
死んでしまったことが、本気で悔しいのだろう。
だが、それをぶつけることが出来ない。この世界には、ない。
だから、こうして人に当たるんだ。
おじいさんを慕っていたり、俺に謝ってきたり。きっと、根は悪いやつではないはずなのに。
「……もう、話し合いは、終わり……」
「あ、おい!」
やひろが、勝手に席を立ち部屋を出ていく。
確かに、話せるような状況ではないが、だからといって自分だけさっさと戻るのか?
同じ異世界に迷い込んできた同士、協力をして元の世界へと帰る方法を模索しようとしていたのに、どうしてこうなるのだろう。
自分勝手な行動ばかりなメンバーに、俺は胃が痛くなるのを感じた。




