第4話!送り
「よし……っと。それじゃ、行きましょうか」
ホームセンターなんかで、よく見るような台車におじいさんの遺体を乗せ、リズは腰元を擦りながら言った。
今日の天気は、雲一つない快晴。
まさに、絶好の送り日和と言えるだろう。
リズが台車を押し、その周りを俺含め四人でついて回る。
結局、朝になってもみゅーは戻ってこなかった。
俺たちは、あの薄暗い森の中へと、入っていく。
一人で彷徨っていた時とは違う、絶対的な安心感がそこにはあった。
「そういえば、亡くなったおじいさんって、どういう人だったんだ?」
この中では、俺が一番おじいさんとの繋がりが薄い。
出会ってから、数回会話をした程度だ。
その、話し方や雰囲気から、温厚そうな感じがしたのだが、実際のところどうなのだろう。
「ああ、おじいさんは、僕らが来た時には既に寝たきりになっていたんだけど、とても優しい人だったよ」
せんじが、懐かしそうに目を細めながら言う。
「そうだよなー。俺たちのこと、普通怪しんだりするはずなのに、何も聞かないでこうして家に住まわせてくれたしなー」
とうごも、後に続く。この時ばかりはいつものように、ふざけて茶化すことはしなかった。
「ぼ、僕とひろくんは、あまり喋るの得意じゃないけど……でも、おじいさんは、いつも最後まで話を聞いてくれた、よ……」
「……ん」
あまり他人とは関わろうとしない、むさしとやひろも、おじいさんには好意を持っているようだ。
かく言う俺も、あの時おじいさんと話をしたことで、リズたちと出会い、こうして一緒に生活をするようになったわけだし、少なからず恩義は感じていた。
いや、そもそもあそこまで俺を連れてきたのは、みゅーだったか。
あいつも、ただ鬱陶しいだけじゃなかったのかもな。
今頃、どこで何をしているのやら。
「着いたわよ」
改めて、みゅーがどこに行ったのか聞こうとした時に、リズがそう言って立ち止まった。
着いたって……何の変哲もない、ただの草原だが。
リズの腰ほどもある──言い換えると、俺たちの背丈と同じくらいの雑草が、そこら中に生い茂っている。
こんなところで、送りだなんて出来るのか?
遺体を隠蔽しようとしているのなら、まだ納得出来そうなものなのだが。
「よいしょ、よいしょ……っと。ふう、重いなぁ」
……運ぶというより、引きずるといった方が正しいな、これは。
草と草の間に隠すようにして、おじいさんを置く。
それだけでおじいさんの体は、ほとんど視覚では認識することが出来なくなっていた。
「って、これじゃ本当に隠しているみたいじゃないか」
「これで、いいのよ。さ、帰るわよ」
リズは、あろうことかおじいさんの遺体を放って、元来た道を引き返していく。
「ちょっ、ちょっと待って! 送りって、これだけ? もっと、することとか……」
こちらの世界の文化に、あれこれ口を出すことはよくないと思いつつも、こればっかりは無視することが出来なかった。
それは、あいつらも同じだったようで、俺たち五人は懸命にリズを引き止めようとした。
「これでいいの。むしろ、私たちがいなくならないと、送りが出来ないのよ」
送りをするのに、俺たちがいてはならない? 一体、どういうことなんだ?
「なー、何で俺たちがいちゃダメなんだ? これで最後なんだし、もう少しここにいようぜ。特に、せんじなんて、このまま帰ったら寂しくて泣いちまうよ」
「誰が泣くか!」
そう言ったせんじの目は、真っ赤になっていた。これではまるで説得力がない。
「リズ、送りってのは、どういうものなんだ?」
火葬もせず、土に埋めたりもしない。
何もない草薮に放置して、おじいさんの遺体はどうなるのだろう。
「さきとくんは、知ってるでしょう? みゅーちゃんが神様の使いだってこと」
「え? あ、ああ」
もちろん知っているが、それが何なのだろう。
昨日からいなくなっているのと、何か関係があるのか。
「死者の魂を、神様の元に届けるのも、みゅーちゃん……シリャクの仕事なの」
「魂を届けるって……。どうやって?」
俺は何となく、嫌な予感がしていた。
しかし、湧き上がってくる好奇心をどうしても抑えることが出来ずに、ろくな答えが返ってこないと分かっていながら、俺はリズに聞く。
「それは、魂を身体に取り込んで……あ、つまり食べ──」
「あ、もういいよ」
俺は、込み上げてくる吐き気を抑えるので、精一杯だった。
かろうじて、リズにそう返事をし、フラフラと出来るだけ遺体から離れる。
何となく、予感はしていたが……。というか、あいつ人の肉とか食うのか。
軽くショックというか、ドン引きした。
なるほど、草薮の中に隠していたのは、ほかの生き物たちに食われないようにするためか。
「あ、あの、大丈夫……?」
むさしが、背中をさすってくれる。
「大丈夫だ……。は、早く行こう……」
「あの台車に、乗っけてもらった方がいいんじゃないか?」
ナイスアイデアだと言わんばかりに、とうごが目を輝かせているが、流石にさっきまで遺体が寝ていたのに乗るわけには……。
「ふう……」
ちょこんと、ちゃっかりやひろが座り込んでいる。もう、何でもありか。
「お前は何ともなっていないだろ! 降りろ!」
「……むぅ」
せんじに無理やり降ろされ、やひろは不満そうに頬を膨らましている。
「あぁ、そうだ。帰ったら、この五人で情報交換をしよう」
帰り道、せんじがそう提案してきた。
「情報交換なら、せんじがいない時にやったぞ?」
「名前と年齢を教え合うだけのことを、情報交換とは言わない」
声のトーンから、せんじが若干イラついているのが分かる。
そういえば、とうごがせんじとは仲が悪いと言っていたな。
「あ、とにかく、帰ったら話し合いをするってことだね……!」
「ふん……」
慌ててむさしが仲介に入るが、せんじはそっぽを向いて、それっきり話すことはなかった。
むさしが、深いため息をつく。こういうこと、本当は苦手なんだろうな。
それにしても、ずっとこんな調子で生活していたんだろうか。
やひろは相変わらず、我関せずだし……。
この先が思いやられるなと、歩く俺の足取りは重かった。




