第10話!お茶を作ろう!後編
「うーん、さて……何がダメだったんだ」
異世界人の俺が、いくら考えたところで分かるはずもないし、目の前で沈黙している葉が答えてくれるわけでもない。
この世界のことなら、リズに聞くのが一番手っ取り早いわけだが、カフェを開くのに反対しているのだ。教えてくれはしないだろう。
つまるところ、八方塞がりというわけだ。
普段なら、とっくに眠っている時間。特に、今は子どもの身体なのだ。
考えているつもりで、コクンコクンと船を漕いでいる。
「みゅ……」
「んー……あ、こら!」
しゃぐしゃぐと、紙と紙とを擦り合わせるような音に目を開けると、みゅーがテーブルの上に置いてある葉を、食べていた。
器用にも二足でしっかりと立ち、幸福そうな顔で葉を口に詰め込んでいくみゅー。
「ダメだダメだ! なくなっちゃうだろ⁉︎」
シッシッと手で軽く払ってやると、不満そうにみゅーみゅー鳴きながらも、テーブルから離れていった。
「あーもう、こんなに食って……」
残っている葉を確認しようと、葉をテーブルに広げていく。
「……ん? これって……」
色とりどりの葉が並んでいる中、ピンク色の葉が特に少なくなっている。
みゅーが食べたんだろうが、これだけ他の葉と差が出るものか? まさか、選んで食っているわけでもあるまいに……。
「…………」
俺はおもむろにピンクの葉を掴むと、ペロリと表面を舐めてみる。
「……うん、やっぱり甘い」
これは、森で食べた時と同じ味だ。
「みゅー……」
まだ食べ足りないのか、みゅーが羨ましそうに声をもらす。
次は、この青色の葉にしようか。
青は、食欲減退の効果があると言うが……。
先ほどと同様に、ペロッと人舐めしてみると。
「うっ……⁉︎」
口中に、ひどい苦味が広がる。
ペッペッと吐き出し、ヨダレが垂れるままにシンクへ行き、しつこくうがいを繰り返した。
それほどまでに、強い苦味だったのだ。
「なるほど、味の違いがあるわけか……」
あのお茶が失敗したのも、頷ける。
味のいい葉、悪い葉……。
見ただけでは、味が分からない。かと言って、いちいち味見をしていたら、こっちの身が持たない。
なら、どうすればいい? 答えは、こうだ。
俺は、まだ味の分からない葉を手に持ち、それをみゅーの鼻先へと持っていった。
みゅーは、しばらく鼻をヒクヒクさせた後に、パクッと勢いよく食いついた。
「よし! 緑色の葉は、大丈夫と!」
そう、分からないのなら、分かるやつに聞けばいい。
みゅーは、最初からピンクの葉だけを食べていた。つまり、安全かそうでないかを判別する能力が、生まれつき備わっているということだ。
それからの作業は、楽なものだった。
食えるものかそうでないかは、みゅーが勝手に判断してくれる。
俺がやることといえば、安全だと分かった葉を、鍋でグツグツ煮るだけだ。
葉から、段々と色が溶け出していく。
ピンク、緑、オレンジ、黄色……。
失敗した時とは、違う。色が、混ざらないのだ。
それぞれの色が、独立して存在している。まるで、小さなオーロラのようだ。
こぼさないよう慎重に、コップに注いでいく。
フーフーと息を吹きかけ、ズズッと一口……。
「……っうまい!」
「みゅー! みゅみゅー!」
言葉は分からないが、みゅーも祝福してくれているようだ。
「よし、これならリズも、納得してくれるはず……!」
「納得って、何が?」
背後から突如として聞こえてきた声に、俺は悲鳴を上げ、コップを落としそうになった。
「えっえっ! リズ⁉︎ な、なんで……」
「何でもなにも、もう朝よ?」
リズにそう言われ、初めて俺は空が明るくなっているのに気がついた。
どうやら、お茶を作るのに夢中になっていたあまり、徹夜してしまったらしい。
「朝ごはんを作りたいんだけど、なに、この有様は……」
リズの視線の先を追うと、テーブルと床には葉が散乱し、シンクの周りには失敗作のお茶が撒き散らされている。
これだけを見ると、子どもが夜更かししてイタズラをしたかのようだった。
「あ、あー! リズ、これ飲んでみてよ! お茶を作ってみたんだ!」
だから俺は、この現状を誤魔化すように、リズへお茶の入ったコップを差し出した。
「お茶って……美味しいけど……」
おそるおそる口をつけたリズも、単に子どものままごとではないと気づき、ゴクゴクとコップ一杯飲み干してしまった。
「これさ、カフェで出したら、人気になると思うんだ……」
「うーん、そうね……。ここまでされたら……ねぇ?」
妙に含みのある言い方をし、リズはチラリと後ろを見る。
「そうだよなぁ。さきと、あんなに頑張ってたもんな」
「と、とうご⁉︎ ってか、みんな⁉︎」
とうごを先頭に、ゾロゾロと他のメンバーが入ってきて、俺は混乱を隠しきれずにいた。
「な、なんで? みんな、寝ていたんじゃ……」
「途中から、起きていたよ。君があまりにも一生懸命だから、気になってね……」
せんじが、やれやれといった様子で息をはく。
「えと、みんなで、話したんだ。さきとくんの言うカフェ、やってみようって……」
「……ん」
「むさし、やひろ……」
俺は、込み上げてくる熱いのを悟られないようにと、声を張り上げた。
「……よし! やろう! お前たちも、このお茶飲んでみてくれよ!」
不思議と、あれほど感じていた眠気も、今は全くない。




