第11話!世界最強の魔法使いさん
「さあさあ! カフェを開くって決まったことだし、準備を進めないとなぁ」
やるべきことは、たくさんある。
内装を飾ったり、メニューを決めたり……。
実際にカフェがオープンするのは、いつになることやら。
そんな、時だった。
「実は、キッチンのコンロが壊れてしまったみたいなの」
リズが、困った様子でそう言った。
あの時、お茶を作ったせいか? 俺は、内心ドキリとする。
「修理に出せば、いいんじゃ?」
せんじが提案するが、リズは首を横に振り言った。
「そうもいかないのよ。これは、マナコンロだから……」
「マナコンロ?」
初めて聞く名前だ。ガスや電気ではないということか。
「それって、どういうものなんだ?」
「ええとね、この世界には、魔法を使う魔法使いがいるんだけどね」
「へー! 魔法かぁ。俺も、使ってみてぇなあ!」
リズの言葉を遮り、とうごが目をキラキラとさせながら、身を乗り出してくる。
「残念だけど、魔法を使うには生まれつきの才能が必要でね。誰でも使えるってわけじゃないのよ」
「ちぇっ、なんだよ……」
分かりやすく落ち込んだとうごは、そのままストンとイスに座りなおす。
「でも、このコンロを使えばね、魔法の力がなくても火が出せるようになるのよ。ただ、さっきも言った通り、修理は出来なくてね……。消耗品ってわけ」
魔法……ねぇ。
使えたら便利かもしれないが、異世界から来た俺たちでは、到底使うことは無理だろうな。
「ここは、山奥だし……。街に行って買っても、どうやって運ぶかよねぇ……」
「一層のこと、魔法使いをこの家に呼ぶってのは?」
何気なく言った一言だったが、意外にもリズは真面目に返事を返してくる。
「魔法使いはみんな、政府の管理下にあるから……。あの、最強の魔法使いなら、もしかしたら有り得るかもしれないけど」
一瞬、リズの瞳が悲しそうに伏せられたように見えた。
だが、瞬きをした次の瞬間にはもう、いつも通りの表情に戻っていて。
きっと、見間違えたんだろう。それよりも、気になるのは……。
「最強の魔法使いだって? 何だそれ?」
「ああ、昔からの言い伝えでね。昔、世界が滅亡するような災厄が起きた時、それを救ってくれた魔法使いがいたの。それも、たった一人で」
なるほど、それは確かに最強だ。
リズは、話を続ける。
「不思議なのは、誰もその魔法使いの姿を見ていないこと。なのに、名前だけは語り継がれている。だから、私はただの昔話だと思うんだけどね」
「最強か、ワクワクするなぁ!」
「子どもかよ……」
言葉こそ交わさないが、せんじと、とうご。二人の間には、依然としてピリピリとした分が漂っている。
むさしもやひろも、触らぬ神に祟りなしといった具合に、我関せずだし……。
いや、やひろはただ単に、何も考えていないだけか。
「その魔法使いの名前は、何て言うんだ?」
「名前はね、サギリっていう人なんだって」
サギリ……。どことなく、最強っぽい感じが漂っている……気がする。
「とにかく、しばらくの間は、ろくな料理が作れないわね。どうにかして、コンロをここまで運んで来ないとね」
リズが出ていき、残ったのは俺たち五人。
「最強の魔法使いねぇ……。ま、創作だろうな」
「待てよ、本当かもしれないだろ?」
今日のとうごは、いやに食ってかかるな。
理由でもあるのか? それとも、この手の話題が好きなのか?
おそらく、後者だろうな。リズの話も、誰より真剣に聞いていたし。
「その魔法使いは、いる……」
「やひろまで……」
こういう話に乗ってくるだなんて、珍しいな。
いつもなら、こういう興味のない話では無言を貫いているというのに。
「あの馬鹿ならともかく、やひろもか……。全く、二人揃って……」
「……嘘だと思うなら、行ってみればいい」
少しだが、やひろがムッとした様子で答える。あの、いつも無表情なやひろが、怒るだなんて。
相当嫌だったんだろうな。とうごと一緒にされたことが。
それはそれで、とうごが可哀想なのだが……。
「って、行く……って、どこへ?」
「決まっている、その魔法使いのところ……」
そう言うと、やひろはパタパタと外へ駆けて行った。
「場所も分からないのに、何言ってんだ?」
「あ、の、ひろくん、勘が鋭いから……。つ、ついて行ってみない……?」
遠慮がちに、むさしが言う。
あー、そういえば、そんなことも言っていたな。
元刑事の勘というわけか。刑事が、勘で動くのも、どうかと思うが。
「……多分、こっち……」
外に出たやひろは、多分と言った割に、迷いなく森へと入っていく。
巨大な木々が生い茂り、ツタが足に絡まってくる。
人間が通った痕跡など、もちろんない。
「これ以上、進めなくなったら帰るからな!」
不満気なせんじの声が、森中に反響する。
それでも、やひろは歩みをやめない。
一歩進むたびに、森は暗く狭くなってくる。
こんなところに、本当に人が住めるのだろうか?




