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天記神の隠し事4

 イソタケルの手元を狙い、プラズマは銃を構える。冷林は動かないままイソタケルに掴まれていた。なぜ、動かないのか。

 「冷林、ぜんっぜん動いてないけどぉ!」

 ウカが悲鳴を上げつつ、うねる木々の上に危なげに飛び移っていく。

 隣にいたミタマは「ひいっ!」と悲鳴を上げ、木々を飛びながらウカに答えた。

 「冷林さまはほら……今は本の中のキャラクターだから、予想外なことが起きたら木々の記憶通りに再生できなくて、ああやって止まっちゃうんだと思う」

 「でも木は動いてるじゃないの! これ、木の記憶の中の木でしょ! なんでイソタケルさまが動かせるのよ」

 ウカが蒼白な顔のまま葉っぱを結界で弾く。

 「そ、それはだな」

 リガノがスマホで何やら検索しつつ、木々の上に飛び乗ってきた。

 「この木々はイソタケルさまの派系であったハナイズミヒメが産んだ木々とのことだからだろう。イソタケルさまは動かせる。本家であるのと……この記憶にある木々はもう、現世にはいない。冷林さまはオリジナルが現世にいるんだ」

 「現世にいないから未来が変わることもなく、過去も変わらないか。確かに。この辺は丘陵だったけど……今はほとんど原生林は残ってない。山はある程度残して野生動物が孤立しないように開発をしたとの話だけどね。うおっ!」

 鋭い枝が叩きつけにきてウカは慌てて避けた。

 「現時点で山は残ったけどね、人間の山の切り崩しは怖いねぇ……。まあ、ほとんどなくなっちゃったけど、タヌキはまだいるよね」

 ウカは木々をのぼっていく。

 遠くが見渡せるかなり上にたどり着くと、キツネが数匹走り去るのが見えた。正確に言えば走り去る瞬間で止めたかのようになっているが。

 「あれ、キツネもいたんだ、ここ」 

 ウカはなんだか少し悲しい気分になった。田畑があり、動物が近かった時代はキツネも生息していた。だが、この辺では田畑をやる人が少なくなり、高度経済成長期でニュータウンの開発が始まったことで山が削られ、キツネが激減。団地には若い世代の子連れが住むが皆、会社勤め。

 共働き世代が増え、近くにある山などを整備する里山管理をする人がいなくなっていった。

 警戒心の強いキツネは隠れる場所を失い、ニュータウン完成と共にキツネは完全に消えた。

 現在は自然との調和、保護を目指し、頑張っているが、キツネは消えてしまい、手遅れとなっているようだ。

 「……ニュータウンだからね、ここ。この村の時代より、今の方が人はここに集まっている。ここに人間をまとめて住まわせることで人間の住宅と里山をわける仕組みだね」

 「ウカちゃん! のんきに解説してないで!」

 ミタマに言われ、ウカは慌てて上の枝に飛び乗った。なんかの植物のツルがウカにまとわりつこうとしていたからだ。

 「ウカ、どうする! このままでは巨木になっていく木をのぼっているだけだぞ!」

 「まあそうだよねー」

 ウカは頭を悩ませる。気がつくとイソタケルからかなり離れていた。

 「紅雷王さまはー?」

 「のぼってきてないよ。この木を謎にのぼり続けているのは僕らだけー」

 「あのヤマヒメだとかいう神がこの木を消してしまったら俺達は……」

 リガノがそんなことを言い、ウカは顔を青くしつつも、ミノさんを心配した。

 「ミノさん、どこにいるの?」

 いつの間にかミノさんがいなかった。

 「ミノサーン!!」

 ウカは叫ぶも返事がない。

 「上にあがりすぎてるんじゃない? 僕ら」

 「お、おりる?」

 枝が鞭のようにしなってきて、稲荷達は悲鳴を上げながら結界を張る。

 「やっばい! どうする? こんなヤバい神に襲われたことないんだけどぉ!」

 「しおりで逃げるか?」

 リガノが強制的に本から出る「しおり」を取り出したが、ミタマが声をあげたのでしおりをしまった。

 「なんだ?」

 「見て、本のページが少しずつ進んでいるのか、ミノさんの神社がある場所に天記神(あめのしるしのかみ)が!」

 ミタマが指差した山の中腹を見ると図書館の主、天記神がキツネの前に立っていた。

 「あのキツネ、さっきの……ハナヒメの入れ替りのメスキツネ?」

 「たぶん、そうだね。神社にいるし」

 ウカの疑問にミタマが答えた。

 「まって、あの天記神はこの本の中の天記神だ!」

 ウカが声を上げ、ミタマとリガノは眉を寄せた。

 「なんかあったんだ……あそこで。あのキツネ、女の子だけど……ミノさんは男だ……」

 「行こう、調べなきゃ」

 ウカが木から降りようとするが、高く登って来てしまったため、降りられず、我に返る。

 「どうやって降りる?」

 「イソタケルさまにもあれを見せて、落ち着いてもらわなきゃ! どうしよ、ウカちゃん……」

 「神用スマホで……しゃ、写真を……」

 リガノがスマートフォンを取り出すが、木が揺れ、写真を撮るどころではなかった。

 そのうち、遥か下での戦闘が激化し、ヤマヒメのハサミが、稲荷達が登った木を直撃した。

 「や、やばっ!」

 ウカが蒼白になる前に掴まっていた木は灰になって消えた。

 「やっばっ! ウカちゃーん!」

 「しぬっ! しぬー!」

 ミタマとリガノが叫びながら落ち、ウカも落下。

 本を読んでいただけでこんな危険な目にあうとは思わなかったと半泣きで落下をしていると、何かのツルがウカ、ミタマ、リガノに巻き付いた。

 「おう?」

 呆然としていた三柱はツルに引っ張られ、別の林の中へと連れ去られた。

 「大丈夫ですか」

 「ん?」

 女性の声が聞こえ、閉じていた目を開いたウカは自分が生きていることに気付く。

 「あー、びっくりしたー」

 ミタマの呑気な声が横から聞こえた。

 「えーと……」

 ウカはリガノの無事も確認してから女性を仰いだ。少女のようだったが、ここにいる時点で神だ。

 緑の瞳、緑の髪、ボーダーの帽子。

 どことなくイソタケルに似ている少女。

 「私はイソタケルの妹、オオヤツヒメです。自分でヒエンと名乗っています」

 オオヤツヒメ、ヒエンは静かにそう答えた。

 「イソタケルさまの……妹」

 「そうです。お兄様がとてもお怒りで……」

 「ああ、そうだね、ほんとー」

 ウカはげっそりした顔で頷く。

 「今、ヤマヒメと紅雷王が縁神(冷林)救出のため動いています」

 「ミノさん、どこ行ったかわかる?」

 「キツネを見つけ、神社方面へ向かいました」

 「神社方面……天記神がいたんだよね」

 「あなた達も行ってきて下さい。私は紅雷王とヤマヒメの援護をします。お兄様は落ち着かせます」

 オオヤツヒメ、ヒエンがそう言ったので稲荷達は神社へ向かうことにした。

 「こちら側の山道を真っ直ぐです。あなた達にお兄様は関係ありませんから……」

 「……わかった。気をつけてね」

 稲荷達は山道へ入った。自分達より破格に高い神力を持つオオヤツヒメやプラズマに任せることにした。ウカノミタマから派生した稲荷達にスサノオの息子を相手できるほどの力はない。

 ウカ、ミタマ、リガノはミノさんを追いかけ、丘を登る。

 「天記神がどう関係するの?」

 ウカの声はプラズマが発した神力の銃声でかききえた。

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