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天記神の隠し事3

 ウカ達が木々の記録を見ていると、先程までいた緑の髪の青年が冷林を掴んでいた。

 「冷林、お前が……。本当にハナイズミヒメを……」

 「……ん?」

 プラズマは眉を寄せた。

 「あれ? なんか雰囲気違うような」

 ミタマが困惑した顔ではにかむ。

 「あれは……本の中のイソタケル様じゃ……ない?」

 ウカが慌てて目線をイソタケルに移した。

 「ここは本の中。もう死んだ木々を使い、木の記憶を本にしたもの。記憶内の冷林を消せば冷林は消えるか。今も罰を受けず、存在できていることに驚きだがな」

 イソタケルがもがく冷林を冷たく見据える。冷林は言葉を持たない。

 ふと、プラズマがウカの横で霊的武器「銃」を取りだし、神力を込めてイソタケルへ撃った。

 「ちょっ……」

 ウカが驚いたところで、イソタケルが一瞬だけ冷林を離し、プラズマを睨み付けた。

 イソタケルの神力が直接ウカ達にも刺さる。

 プラズマが稲荷達を守り、結界を張った。

 「ちょっと、紅雷王さまっ! いきなり銃ぶっぱなさないでよっ!」

 「……冷林に何かあったら許さない」

 銃をさらに構え、プラズマはイソタケルに忠告をした。

 「……ああ、お前か。縁神を守り続ける男……。なぜここに……そうか。未来を見てきたか。時神未来神」

 イソタケルは憎しみがこもる顔で冷林を再び掴み、プラズマを睨んでいた。

 「そうだ。本の中の冷林を消してしまったら記憶から冷林は消えてしまうかもしれない。それは許されないことだ。……禁忌になるぞ」

 プラズマもイソタケルを睨み返す。

 「……と、とりあえず……イソタケル様は触れている! なぜだか正常な判断ができなくなっているわ! この地域のリアルな森がなくなってしまう!」

 「ハナイズミヒメを返せ……」

 イソタケルが静かに言った。

 「お、落ち着いてくださいませ……」

 ミタマが小さい声でイソタケルを落ち着かせるがイソタケルはさらに声を荒げた。

 「……お前、なぜ……ハナイズミヒメの神力を持っている!」

 イソタケルはミノさんを指差し、強く言った。

 「え……? 俺? そんなもんわかるか!」

 ミノさんは負けじと声を上げる。

 「……許さない……全員グルか……」

 「ま、まっ……」

 ウカが慌てた刹那、後ろから草木のツルがウカに飛んできていた。

 ミタマが結界を張って防ぐ。

 「ウカちゃんに何すんだよ!」

 「お前も……ハナイズミヒメが消えるのを黙ってみていたのか」

 ツルがウカを襲うが、リガノとミタマが同時に結界を張って弾いた。

 「ウカは何もしておらん!」

 リガノも怒り、イソタケルを睨み付けた。

 「ハナイズミヒメは、禁忌を犯したから消えたんだ!」

 プラズマはそうはっきりと言ったが、イソタケルには届かなかった。

 「許さない……」

 イソタケルは本内部の木々を操り、稲荷達を拘束しようとし始めた。木々はまるで手足のようにウカ達に襲いかかる。

 「うわっ……」

 ウカの手を引き、ミタマは逃げた。リガノが結界で適度にツルを弾く。ミノさんは持ち前の身体能力で木々の攻撃を避ける。プラズマは冷林を解放するべく、神力を銃に込めてイソタケルを攻撃していた。イソタケルは冷林を離さない。わりとまずい状態だ。

 「ミタマ……私よりも冷林、助けよう!」

 「ウカちゃん、僕達は本家のウカノミタマ様であるウカちゃんを守りたいんだよ……」

 ミタマは代表でそう言葉を発した。

 「なんで? 皆稲荷はそれぞれもう違うじゃない! 七福神だって浅草七福神とか江ノ島七福神とか別々で……」

 「ウカちゃん、僕達はウカちゃんの分身でしかないんだ。ウカちゃんはウカノミタマ様だ。ウカちゃんの派系じゃないのはイナとミノさんだけ。イナは子供の霊魂と土着神が混ざった稲荷だ。だから……僕とリガノは……ウカちゃんが無事であればそれでいい」

 「……ミタマくん……そんなこと、言わないでよ……」

 ウカは困惑したままそう返答した。

 不安そうなウカにプラズマは銃を構えたまま、頷いた。

 「それでいいんだ、稲荷。俺は時神の主だ。俺は俺の仕事をする。あんた達はあんた達の仕事をしろ」

 「……困ったわ」

 ウカはあまり争いが好きではない。

 イソタケルは怒りで周りが見えていない。植物を動かし、こちらを攻撃してくる。そのうち、土まで盛り上がり、木の根がトゲのように襲いかかってきた。

 「ウカちゃん、逃げよう!」

 「ここは俺がっ……」

 ミタマがウカの手を引き、リガノが結界を危なげに張った。

 木の根はリガノの結界を突き破り、植物のツルはリガノの体に巻き付いた。

 「ぐぅっ……」

 「まずい……。大地の力、怒りを鎮めよ……クダギツネ!」

 ミタマが手を前にかざすと神力があふれ、青白く光るキツネの影が現れるとリガノに向かって飛んで行った。

 キツネはリガノのツルを外し、木の根のトゲからリガノを守り消えた。

 「ミタマ、ありがとう……」

 「危なかったよ。イソタケル様は僕達まで消そうとしている。正常じゃない」

 ミタマが守れなかった部分はミノさんが木の根を蹴りあげて守った。

 「ミノさんって身体能力高いよね」

 一通り処理してミタマの近くに着地したミノさんにミタマが眉を寄せつつそう言った。

 「俺がどうなのか、俺もわかんないんだよな。ただ、発生がおたくらと違うということは理解したぜ」

 イソタケルが暴れながらも本のページは進む。冷林はイソタケルが掴んでいるが話は進んでいるため、この先、冷林は関係がないらしい。

 関係があればこの先に記憶として出現しなければならないため、イソタケルが掴んでいては進行不能となる。

 イソタケルの厳かな神力が辺り一帯を支配し、植物がイソタケルの神力の一部となりこちらを攻撃し続ける。

 「タケル様、それはよろしくないわよ~」

 ふとやたらと語尾が長い女の声が響いた。

 「……今度は何?」

 「稲荷ちゃんらがびっくりしてるじゃないの~」

 登山道付近から現れたのはハナイズミヒメにそっくりな女神だった。

 「ハナイズミヒメ……」

 イソタケルが手を止めた。

 「違うわ~、私は~、ヤマイズミヒメ。あの子の双子の姉。ハナイズミヒメは植物の生命をつかさどる、私は……植物の死をつかさどる死神……」

 ヤマイズミヒメは「霊的武器、ハサミ」を出現させた。身長ほどある巨大なハサミ。

 「や、山神……?」

 ヤマイズミヒメ、ヤマヒメはイソタケルが動かしていた植物の先をハサミで切り取り、切り取られた部分は塵になって消えていった。

 「うわあ……強烈……」

 ミタマが顔色悪くつぶやき、ヤマヒメはウィンクして笑った。

 「私を想像したのは人間ー。森を切り開いた人間達が私を作ったのー。人間はすでに……野生では生きられない。管理された生き物よー。管理は人間自らがしている……地球上でもっともヘンな生き物ー。イソタケル様、ハナイズミヒメは冷林が消したわけじゃないのー」

 ヤマヒメがそう言ったが、イソタケルは肩を震わせ、さらに植物を操り始めた。

 「……冷林を消し、ハナイズミヒメをこの本から出してやるんだ……。木の記憶から解放してやるんだ」

 イソタケルが指を動かすと木が鋭い枝を振り回しはじめ、その後、神力を解放し、一帯に圧をかけた。

 イソタケルの神力は強い。ヤマヒメも立ってはいられず、膝をついた。

 「強すぎー……」

 プラズマが辛うじて立てており、ヤマヒメを襲う木々を霊的武器「銃」で弾いていく。

 「イソタケルを落ち着かせないと……山のような神だ。穏やかな時とそうじゃない時がある。山とおなじだ……。とにかく、冷林を助けて本に返さないと……。先にも進めないし、本からも出られない……」

 「どうやって落ち着かせるの!」

 ミタマの帽子をかするように木の枝が通りすぎた。葉っぱが刃物のように舞い、リガノが結界を張った。

 「天記神……何してるんだ……一体!」

 プラズマが冷や汗をかきながら言い、ヤマヒメがプラズマを襲う鋭い葉を神力で枯らす。

 「ヤマヒメだったか? どうする?」

 「本来の記憶を知ってもらわないとー、彼の勘違いはとけないねー。そもそも、ハナイズミは消えてるの、ここから出してあげるなんてわけわからないのよー」

 「……皆でイソタケルを負かして直接話をするのか?」

 「冷林を解放させて、本のページを進めるー!」

 ヤマヒメの発言に稲荷達は固唾を飲んだ。

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