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眠れぬ夜のハーブティー

 私は、もともとひどい不眠である。夜布団に入っても、目が冴えて眠れないということがよくあるし、また、なんとか眠っても、浅い眠りばかりで、夜中や早朝に目が覚めてしまうことも多い。

 不眠に悩んだ私は薬局で睡眠導入剤を買って飲んでみたのだが、結果は悲惨だった。確かに眠れるし夜中に目覚めもしないのだが、朝になっても疲れが取れない。疲れが取れないというより、身体が重くてまともに動けないといった方が近いか。薬の効果が朝になっても持続していたのではないかと思える。

 これも副作用というのかどうかはわからないが、メリットとデメリットを天秤にかけた結果、私は睡眠導入剤を飲むのは諦めた。だが、飲まないと当然ながら眠れない。どうしたものか。

 ここで頭に浮かんだのがハーブティーだ。リラックス効果があるというし、ハーブティーなら薬のような過激な効き方はしないだろう。それに、寝る前に温かいものを飲んでから布団に入りたいのだが、それが紅茶や緑茶だと、カフェインのせいで不眠に拍車がかかりそうだ。ハーブティーならそんな心配もない。私はハーブティーを買うと決めた。種類はどれがいいのだろう。ついでに言うなら、以前、興味本位で買ったスーパーのハーブティーは、正直美味しいとは言い難かった。どうせ飲むなら、もうちょっといい味のものがほしい。

 そんなわけで、私はハーブティーの専門店に行き、不眠に悩んでいるので眠れるようになるハーブティーがほしいと言った。ブレンドの方が飲みやすそうなので、ブレンドがいいともつけ加える。すると店員さんは、「バレリアン」というハーブが入っているハーブティーを薦めてきた。

「これは古くから『眠れるハーブ』として有名なんですよ」

 バレリアン? 初めて聞くハーブだ。不眠に効くと有名なのはカモミールではなかったのか。まあ、バレリアンでもカモミールでもいい。成分を見るとカモミールも入っている。実を言うとカモミールの香りは苦手なのだが、五種類以上のハーブが配合されているブレンドハーブティーなら、カモミールもそんなに自己主張しないだろう。そのお店は試飲も可能だったので、問題のお茶を飲ませてもらう。

 初めて飲んだそのハーブティーは、香りは良かった。味は、少し苦いが、スーパーのものよりは飲みやすい。ハーブティーは、シングルよりもブレンドの方が飲みやすいのかもしれない。

 私はその「バレリアン」入りのハーブティーと、もう一種類、もっと飲みやすいタイプのハーブティーを購入して帰宅した。帰宅するとすぐ、PCを立ち上げて、「バレリアン」について調べてみる。あっさり出てきた。

 バレリアン。セイヨウカノコソウ。吉草という和名もある。

 その名称を見たとアン、私の頭に甦ったのは、子供のころに読んだ『大どろぼうホッツェンプロッツ』シリーズだった。あのシリーズに登場する、カスパール少年のおばあちゃんが、眠れないときに飲んでいたのが、吉草のお茶だった。

 そうか、カスパールのおばあちゃんが飲んで熟睡していたのは、このお茶だったのか。私はちょっと期待しながらバレリアン入りのハーブティーを飲んでみたが、残念ながら、カスパールのおばあちゃんのように、熟睡とまではいかなかった。こころなしか、寝付きやすくなったような気がしなくもないが……。

 きっとカスパールのおばあちゃんは、ハーブの扱いにかけては達人なのだろう。おばあちゃんの作るバレリアンのお茶を飲めば朝までぐっすり眠れるのだろう。

 とはいえ、私は心の中でバレリアンのお茶のことを、「カスパールのおばあちゃんのお茶」と呼んでいる。


 さて、『大どろぼうホッツェンプロッツ』といえば、美味しそうな食べ物がたくさん出てくる。おばあちゃんの作る生クリームを添えたプラムケーキや、ザワークラウトといっしょに食べる焼きソーセージ、森でホッツェンプロッツが少年たちにご馳走してくれるどろぼう風料理などだ。そんな中に、アッペル・シュトルーデルというものがある。切ったリンゴを小麦粉の中に入れて焼いたお菓子、と作中では表現されていた。いったいどういうものなのか、とても気になったのだが、やはり当時はよくわからない食べ物であった。例によってネットで調べてみると、あっさり作り方から何から出てきた。現在では、アプフェル・シュトルーデルという名が主流らしい(外国のものは表記揺れが生じることが多い)リンゴとレーズンを薄く伸ばした生地で巻いて焼いたお菓子だった。

 レシピがみつかったので、自分で作ってみたが、小麦粉の生地を紙のように薄く伸ばすのは至難の技だった。ただ、できたものは確かに美味しかった。

 自分で焼いたシュトルーデルを食べながら、カスパールのおばあちゃんは、とても魅力的な人なんだろうなと、私はあらためて思ったのだった。


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