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『時をかける交差点 〜未来へ架かるオレンジの道〜』 第5話:エルドラドの令嬢と、二人のアサヒ。

『時をかける交差点 〜未来へ架かるオレンジの道〜』


第5話:エルドラドの令嬢と、二人のアサヒ


アメジスト色と朝焼けのオレンジ色のまばゆい光が渦巻く、巨大な時空の扉――。


ユウヒの小さな手を壊れそうなほど強く握りしめ、朝日くんと夕日ちゃんに導かれながらその光の渦へと飛び込んだ瞬間、激しい浮遊感とともに、私たちの全身をかつてないほど強烈な「魔法の粒子」の気配が包み込んだ。


ゴォォ……という次元の壁が鳴動する音が耳元で響き、次に足元へカチッと大理石のような硬い床の感触が戻ってきたとき、私は思わず目を見張った。


「ここは……、お祭りじゃない……。どこなの……?」


5歳のユウヒが、私のエプロンをぎゅっと握りしめながら、まぶしそうに辺りを見回す。そこは、現実世界の地球には絶対に存在しない、きらびやかで壮大な「異世界の宮殿の庭園」だった。


頭上を見上げると、夜空には二つの美しい月が浮かんでおり、周囲には見たこともないほど大輪の、淡く発光する魔法のバラが咲き誇っている。


しかし、その美しいはずの異世界『エルドラド』の空間もまた、現実世界の秋祭りと同じように、深刻な破滅の危機に瀕していた。


空間のあちこちにバリバリと黒い稲妻のようなひび割れが走り、大気を満たす精霊たちの光が、怯えるようにチカチカと点滅している。


「あっちだよ、アサヒお姉さん! 彼女の魔法の力が、もう限界を迎えそうなんだ!」


黄金色の髪をなびかせた朝日くんが、庭園の奥にある、ひときわ激しく黒いモヤが渦巻いている巨大な時計塔の広場を指さした。


私とユウヒが息を切らしながらそこへ駆けつけると、広場の中心で、一人の美しい少女が、光り輝く細身の魔法の剣を両手で強く構え、押し寄せる闇の嵐を必死に食い止めていた。


その少女は、美しい絹のような髪をなびかせ、豪華なルミナス公爵家のドレスをまとっていた。


年齢は16歳くらいだろうか。


気品に満ちたその横顔を見た瞬間、私の心臓がどくんと激しく脈打った。


間違えるはずがない。


彼女こそが、私の前世の魂の姿であり、今この世界で戦っている、もう一人の私――


『ルミナス令嬢のアサヒ』だったのだ。


「くっ……、私の魔法が……通じない……!? 世界の時間が、これ以上狂ったら、地球も、このエルドラドも、お母さんとの思い出もぜんぶ消えちゃうのに……!」


令嬢のアサヒは、鋭い夕日色の瞳に悔し涙を浮かべながら、必死に剣を振るっていた。


けれど、彼女を囲む時空の歪みは容赦なく彼女の体力を奪い、その華奢な体がガタガタと震え始めている。


「……お願い、アサヒくん、夕日ちゃん! 私にみんなを守る力を貸して……!」


彼女が悲痛な叫びをあげた、まさにその瞬間だった。


「――一人で戦わなくていいよ、アサヒ!」私の放った31歳の力強い声が、異世界の夜の静寂を切り裂いて響き渡った。


「え……っ!?」


ルミナス令嬢が驚愕したようにハッと振り返り、その美しい目を大きく見開いた。


闇の嵐の向こうから現れた、見知らぬ現代の服を着た大人の女性(31歳のアサヒ)と、その手を握る小さな女のユウヒ。けれど、彼女の魂は一瞬で理解していた。


目の前にいる大人の女性が、自分がかつて地球で孤独に死んでいく前に生きていた、あの未来の自分自身の姿なのだということを。


「あなた……は……、地球の、私……?」


ルミナス令嬢の声が、震える。


「そうだよ、ルミナスのアサヒ。私はあなたで、あなたは私。……そして、私たちの止まってしまった過去を救ってくれた、大好きなお母さんの愛の光は、いま、形を変えてここにいてくれるんだよ」


私は優しく微笑むと、隣にいるユウヒの背中をポンと押した。


ユウヒは物怖じすることなく、ルミナス令嬢に向かってトコトコと歩み寄ると、小さな両手で彼女のドレスの裾をきゅっと引っ張った。


「おねえちゃん、泣かないで。わたしね、お母さんからいっぱいの『たのしい今』を貰ってるの。だから、おねえちゃんにも半分こしてあげる!」


ユウヒがそう言って、ポケットからあの朝焼けのオレンジ色に輝く懐中時計を掲げた瞬間、ルミナス令嬢の胸元からも、まったく同じ形をした、まばゆい光を放つ時計がふわっと宙に浮かび上がった。


二つの世界、二人のアサヒ、そして新しく生まれたユウヒの命。


メビウスの輪の表と裏でバラバラに散らばっていた三世代の魂の愛が、今この異世界の時計塔の前で、完璧に交差して一つに重なり合ったのだ。


「あ……、胸の奥が、こんなに温かい……。これが、お母さんが遺してくれた本当の愛の記憶……!」


ルミナス令嬢の目から、堰を切ったように大粒の涙が溢れ出た。


けれど、その瞳からは絶望の影が完全に消え去り、未来を切り開くための、凄まじい魔法の輝きがパァァァッと宿っていった。


手の中の魔法の剣が、アメジスト色とオレンジ色のグラデーションのまばゆい光を放ち始める。


時空の歪みを引き起こしていた黒いノイズの嵐が、アサヒたちの放つ圧倒的な愛のエネルギーに触れて、シュワシュワと音を立てながら消滅していく。


「いくよ、未来の私! 私たちの明日を、地球を、このエルドラドを、私たちの手で絶対に救い出すのよ!」


「ええ、いきましょう、ルミナスのアサヒ! 私たちの新しい未来へ!」


31歳のアサヒと、16歳のルミナス令嬢。


二人のアサヒが手を取り合い、そして5歳のユウヒちゃんの愛の光を背に受けて、二つの世界を襲う終末の歪みを完全に叩き切るため、彼女たちは懐中時計と魔法の剣を同時に高く掲げ、最後の奇跡へと向かって力強く立ち上がるのだった。


(第5話・おわり)

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